14
武闘技大会当日。
友人に教えられ、最も楽しみにしていた瞬間がやって来た。
騎士団による演武である。
「きゃー! リドケイン様素敵ー!」
「ルート様ぁー!」
「切れてまーす!」
「その大胸筋固定資産税かかるだろー!」
「僧帽筋が歩いてる!」
「雄っぱあああああぁぁぁい!」
学園の端の方に闘技場があって、ここが城の三の丸付近と繋がっている。
この国のお城は渦郭式らしく、本丸御殿と天守閣には壁を越えないと到着しない。
うん、学園と王城が地続きっていうのはいいんだけど、日本式の城を見やるたびに全部どうでもよくなるのだけは勘弁してほしいよね。
それよりともかく、とてもいい体つきのオジサマやお兄さんが上半身を露に、揃った槍術の型を繰り返しているのはなんともいえない迫力がある。
普段は異性の裸なんぞ見る機会のないお嬢さんたちは興奮してキャーキャー言っているし、逞しさに憧れを見出した令息たちは筋肉賛美に余念がないし、私は思いのほか雄っぱいの解像度が高くて嬉しいし。友人が言いたいことを完璧に理解した。
扇子で涎が垂れる口元を隠しつつ、一番いい雄っぱいを探す。
やはり、友人情報の通り、リドケイン様だろうか。はち切れそうなほどの巨乳。子供が腕を伸ばしたくらいじゃ抱えきれないマジ縄文杉。
いや、揉むことを念頭に置いたらもう少し小さいほうが……? 手からこぼれる大きさも良いけれど、弾力と手の平に収まるフィット感を両立させようと思ったら、舞台中間あたりにいる中堅層が狙い目か。
「何の品定めをしているのですか、お嬢様」
「ん?」
振り向けばトトルがいた。
そういえば体つきが良くなったけれど、脱いだらすごいのだろうか。
大きさ的には中堅層から少し落ちるくらいだろうか。うーん……。
「胸を見ないでください」
「女子か。ところで、首尾はどう?」
「良いですよ」
うむ、堂々と返答するところ、問題ないのだろう。
騎士団の雄っぱい品評会が終わる。
次は生徒達による勝ち抜き戦だ。人数が多いので、数試合を同時に行う。
一つの会場をいくつかに分割するため最初の内はテニスコートくらいの範囲で戦い、勝ちあがると徐々にバスケットコート、サッカーコートと広がっていく。
人数比なので、そこまで行きつくのにどれだけ勝ち続ける必要があるかはわからないが。
「おお、良い場所じゃない」
観戦席は、侯爵以下は自由な場所を陣取れる。
トトルが確保した席は中央での試合観戦には向かないものの、ちょうどよく目の前で第一試合が開催される場所だった。
しかも見知った顔が二つ。
「マッシブ嬢、そのきざったらしい顔を打ち抜いて二度と日の目を見れない顔にしてしまえー!」
片方が王子、片方がマッシブ嬢。
なんとこちら、前回の決勝を再現した試合ということで、私以外からも野次じゃなかった応援の言葉が飛んでいる。
王子はどや顔で鼻から息を吐いているが、マッシブ嬢はぶれることなく剣を構えている。
「ふん、前回からどれだけ上達したか見てやろう」
審判に着くのは騎士団の人員だ。
王族が試合に臨むからか、リドケイン様が仁王立ちしている。
「はじめえぇぇええいい!!」
その威圧だけで素人が腰を抜かしそうな大声で審判が叫び、選手が動き出す。
木剣が交わった、と思ったらすっと力を抜いたマッシブ嬢が、よろけた王子の利き手側に抜けて、その反動で彼の手から武器を弾き飛ばす。
振り向く暇も与えず、マッシブ嬢が相手の肩に剣先を当てる。あっけない決着だった。
「なっ……!? おい! 何か卑怯な手を使っただろ!」
「いいえ」
「ぬかせ、女ごときが俺様に勝てるはずが……」
さらにわめこうとした無能の鼻先に剣を突きつけるマッシブ嬢。
「文句があるなら、もう一度やりますか? 何十回でも、何百回でもお相手いたします」
「なにを……」
「クロード様より、もう忖度はいらないと聞いております。貴方の腕前はこの程度ですよ、殿下。身分では研鑽を破れないのです」
「貴様! 不敬だぞ!!」
わめいて飛び掛かろうとするクズ氏。
マッシブ嬢は冷静に構え、おそらく腹を狙って突きを繰り出そうとしている。
そしてそれを察知したリドケイン様が、動き出した王子を上から抑え込み羽交い絞めにした。
「な、何をする騎士団長!」
「敗者は大人しく下がれ!」
「俺は次期国王だぞ!」
「だからどうした! ここに居る限り一介の小僧だ!!」
わお。これはいい雄っぱい。
わめく小僧を強制退場させている騎士団長の後姿をニヤニヤしながら見ていたら、すっと影が差した。
横を見れば黒髪眼鏡。
婚約者の勇姿を見に来たらしい。
「君の婚約者は格好いいねぇ~」
「ええ、とても。制限なく戦えて、すっきりしているように見えます」
うん、剣を振り回し声援にこたえている姿が、普段の気弱な影を少しも感じさせないのだが、だからといって乱暴な雰囲気でもなく。
「自由になれば、あんなにも輝く人だったなんて……知りませんでした。僕が愚かだった。あんなにも素敵な人の重荷でしかなかった」
クロードに気付いたマッシブ嬢が満面の笑みを浮かべている。
「相手の事を一人の人として尊重する、そのことをちゃんとわかっていませんでした。貴女の事は嫌いですが、今回の事だけは礼を言います。……ありがとうございました」
まあ、俺様野郎が嫌いだから、奴の味方を削り取っただけ、なんだけど。
感謝されるのは悪くないね。
お互いに良いことがあってウィンウィンじゃない?
「貸し一つ、ってことで良い?」
「高そうなので嫌ですが……払える範囲にしてください」
「次回交渉ってことで」
借りに思ってるならツケるけどね!
ふっと微笑み、視線を合わせることなく去っていくクロード君。
武闘技大会は滞りなく進み、マッシブ嬢は惜しくも三回戦敗退だったけど、最後まで楽しそうだった。
下手に王子に合わせなくて良くなって、前回よりも見ごたえのある試合が多かったようだ。
ということで、必須イベントが終わったから今度から城内へ行けるようになったぞ!
三の丸から侵入して二の丸までだけどね。本殿は俺様ルートを進めないと入れなくて、天守閣は卒業パーティまでお預けだ。
ベルサイユ宮殿の写真とか見たら城の構造変わらないだろうか。




