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春先のイベントとして、武闘技大会がある。

それもっと先にやるやつ違うんかと思うけど、安心してほしい、秋にもある。

年度繰り越したばかりだからね、現在の実力を認識しておけとそういうやつらしい。


基本的には男子が出場して、女子は応援。従者の出場も可。

まあ、女子でも参加はできるので、二年生以上の力自慢は出場することがあるらしい。

スカーレット様は護身術を嗜んでいる程度だけど、マッシブ嬢はなんと前回準優勝者。今回の優勝候補の一角だ。


ということで、新たなイベントの兆しに傷害事件の噂は上書きされてしまった。

下火程度にくすぶってはいるものの、そこまで人々の口に上ることもない。


それに、スカーレット様に直接くぎを刺されてしまった。


それはいつも通りにお茶会で王子の悪口を言い合って、スカーレット様の勇姿を讃えていた時だった。

あでやかな金の髪を翻し颯爽と登場するスカーレット様。当の英雄が登場して、その場は大いに盛り上がった。

皆できゃあきゃあ言いながら彼女に群がったわけだけど、そこでわざわざ私を捕まえて、少し照れたように微笑みながら、告げたのだ。


「あまり派手なことはおっしゃらないで、私の心の騎士さま。あまり言いふらされると、恥ずかしいです」


思わずプロポーズするところだった。


そんなこんなで、あの時の事は言えなくなってしまったわけだ。

ということで現在、クロード君を招待してなんとかいう名前の小庭で二人きりのお茶会中だ。


「何を企んでいたか存じませんが、残念でしたね。武闘技大会の話で、貴女が仕掛けた種火はそこまで大きくなりませんでしたよ」


「そうだね、どこかの眼鏡が走り回って火消しをしたみたいだし、たいした打撃が与えられず残念だよ」


王子の悪評を社交界に広めに広めたい。

私のその目論見は、今回の件に関しては潰えてしまった。

ふふんと得意そうに笑うクロード君。目の下にできたクマが何とも痛々しい。


「どれだけ根回ししたのさ」


「ふん、この程度、なんでもありませんよ」


さいですかー。


「ところで、武闘技大会だけど」


こちらが話題を切り替えたことに違和感を覚えたか、メガネの上の眉がピクリと持ち上がる。

紅茶で唇を湿らせ、にっこりと笑えば、口元を引きつらせた。

見た目は結構美人に仕上げたはずなんだけどな? この世界の美醜感にはあわなかったのかもしれない。


「前回もアレを勝たすために、相当無理をしたそうじゃない?」


「……あの方の実力です」


「婚約者まで使ってさ。無能をそんなに持ち上げてどうするのさ」


「無能ではありません! 元より優秀な方です」


「まあ、平均以上ってことは知ってるけどね。どれもこれも中途半端で一番ではないでしょ」


「そんな、ことは……」


フォローしているということは、その実力を正確に把握しているということだ。

王子一人では、きっと何もできない。

クロードは臣下として、言われたことをしているに過ぎない。

そりゃね、指示通りに動くことに関しては優秀かもしれないけど、腹心であれば必要となるのはその一歩先を見て動く事だ。

彼に、従うふりして良いように操るくらいの手管や野心があるなら、私だってこんなことしない。


「仕方ないな、君がどうするべきか教えてあげよう。耳を貸して」


「急に大声で叫び出すとかやめてくださいよ」


「私を信じる必要はないけど、情報は一つでも多い方が良いんじゃない」


そこまでいって、やっと渋々と近付いてくるクロード君。

基本的にいい子なんだよね、人を疑うってことを知らないというか。


顔を近付け、耳元で囁く形で扇子を広げる。

その時だ。


「く、クロードさま……っ、信じて……のにっ! 浮気なんて!!」


「エリーン!? 待って!」


近くの茂みからこちらを覗いていたのだろう、マッシブ嬢が立ち上がったかと思ったら、全力で駆け出した。

ノータイムでそれを追いかける眼鏡。

しかしフィジカルの差がありすぎるのか全く追いつけていない、というかマッシブ嬢の姿がもう見えないんですけど。


「まあ、即座に追いかけたのはポイント高いかな」


彼女、涙目になっていたし。

ただならない状況と瞬時に判断したのだろう。

クマができるほど疲れていても、彼女の事は大切なんだな。


「うまくいくといいけどねぇ」


「左様ですね。そうでなければ誑かした意味がありませんし」


マッシブ嬢がいた茂みから出てきて、悠々と隣に佇むトトル。


まあ、やったことは単純だ。

王子の悪評を撒き散らかして、クロード君を忙しくさせる。その間にトトルがマッシブ嬢にアレコレ吹き込む。

そんで、一段落して婚約者との時間が取れそうだってタイミングで、婚約者ではない令嬢を優先している姿を晒す。

浮気と誤解されても仕方ないシチュエーションの演出だね。

ここまではマッシブ嬢も納得済み。後はクロード君がどう出るか、だったけど……あそこで直ぐに追いかけないようであれば、発破をかけていた。


なお、マッシブ嬢には、クロード君の説得を依頼している。

王子のために必要以上に働く必要はないと。

事実、彼は過度に世話を焼いている。自分を捨ててまで。

それは、クロード君自身にも、マッシブ嬢との今後にも良くない。


あと単純に、あれでもクロード君は優秀なので、王子から引き離したい気持ちもある。

カリスマ性のない俺様野郎には過ぎた人材じゃー!


「さて、それじゃ……」


次は武闘技大会かなー、などと思いつつ腰を上げたら、スッと横から支えられた。


「次は俺とお茶してくれるー?」


茶髪に紫色の目。

彼の側の腕を持ち上げ、目いっぱいに広げた手で頭をがっしと掴む。

あいあんくろー!


「い、痛っ、痛いっ!」


「トトル、これあげる」


「いりません」


即断された。


「デメトル男爵にお願いがあるんだけど」


「依頼料はいかほどをお考えですか」


「えっ、なに!? なにするの?!」


雇用主からさらに金をむしり取ろうとするとは……。

仕方がないので二本の指を立てる。トトルは嬉しそうに頷いた。


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