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トトルと今後の方針を決める時は、基本的にタウンハウスの執務室で会話をする。

王都に屋敷はあるのだけど、それとは別に精鋭部隊が働く場所が必要なので、屋敷より学園や商店が近いからって理由で賃貸している。

下町とかにも拠点はあるので、まあ活動場所の一つだね。貴族街でも伯爵以下の爵位の人が借りるから、そこら辺の情報を手に入れようと思ったら必要なものでもある。


「それで、具体的には王子をどうするんです」


「え?」


「学園内に入るにはお嬢様の従者になるわけですけれど、それほどの教養を身に着けている者さすがに」


「これ以上はいないね。彼らを引き抜く気はないし、自分で何とかする」


いや、孤児の子達はみんな優秀でね。

並んだら私より貴族の子女と目されそうなくらいにピシッとしているし、頭も良い。

だもんで、各家にスパイとして潜り込ませている。

そこで役に立ったのが、購入した男爵位。彼の推薦って事にして派遣してるのさ。

最初こそ胡散臭そうにされたけど、今では人材育成の手腕を買われて男爵自身にオファーが届いたりする。

これに関してはトトルが男爵のふりをして対応したらしい。しらん間にうまいこと捌いていた。


「さようでございますか。私はお側に控えていた方が?」


「いや、別に」


「お嬢様は何でもおひとりで解決されようとする……」


というか、セーブができるから、誰がいようがいまいが関係ない。

だから学内では一人でいるし。


「こうしてお仕えしている身としては、寂しいばかりです」


「側にいたとしても特別手当は出さないけど」


「お嬢様ならお一人でも大丈夫でしょう」


やはりカネの匂いを感じ取っていたか……。

そこは嘘でも、給金の内と答えていただきたかった。業務外って言われるんよな。





ということで、生徒会室だ。


「なんだこれは、書類の一つもまともに作れないのか!」


廊下まで怒声が響いてくる。


「アスト様、ですがそれは貴方が」


「うるさいスカーレット! 自分の方が優秀だと言いたいのか!」


「そんなことは!」


そろっと扉を開けて覗き見れば、怒鳴られて項垂れる生徒と、そんな彼らと王子の間に入ってなだめようとしている公爵令嬢。

経緯も理由もどちらが悪かもわからないが、一つだけわかることがある。


「どいつもこいつも、俺様の事を馬鹿にしやがって!」


「クソうるせー! 俺様野郎は無能なくせに態度がでかいからいやなんだよ!」


「誰だ?!」


わざと音を立てて扉を大きく開け放ち、大股で現場に近付いていく。

全員が目を丸くしてこちらを見たが、いち早く我に返ったスカーレット令嬢が王子を守るように手を広げた。


「貴方は、ロートリシュ家の令嬢?」


デフォルトの家名で尋ねられる。

プレイヤーが決められる部分は名前だけで、家名は変更不可だ。


「令息です」


「え? ええ?? だ、男性でしたの……?」


「そんなことはどうでもいい!」


やっとこ我に返ったらしい王子がスカーレット嬢を押しのけてこちらへやってくる。

おい、指をさすな、気分悪いわ。


ぺしっと指を叩く。


「おい、貴様……」


「お前、王子って身分じゃなかったら誰もついてこないぞ」


言いたいことを端的に述べた。

一瞬だけポカンとした彼が、意味を理解したか怒りで顔を真っ赤にする。


「おい、誰かこいつを牢に放り込め!」


「うるせーバーカバーカそれしか能がねえのかよモンキー」


きょうび子供もしないような煽りに、顔真っ赤にさせて拳を振り上げる王子。

スカーレット令嬢の制止も聞かずに感情のまま殴りかかってきたので、そのまま受け入れて殴り飛ばされるついでに後ろに飛んで壁に背中をぶつけてその場に蹲る。


「ロートリシュ令嬢!」


「は、ははっ、俺様を馬鹿にするからだ!」


上ずった声で、どことなく得意げに宣言する王子。

スカーレット嬢は私を心配して駆け寄ってきて体を支えてくれ、気の強そうな眼付きのまま婚約者を睨みつけた。


「なにをなさっているのです!」


「何って、生意気なその女を躾けただけだろうが!」


「子女の顔を殴るだなんて、なんてことを! 人として最低限の倫理すら身についていないのですか!?」


「なにを!? お前も同じ目にあわせてやろうか!!」


またしてもこぶしを振り上げる無能。

今度はまずいと思ったのか、成り行きを見ているだけだった他の生徒会メンバーが間に割って入ってきた。


「どけ! そこのアバズレに思い知らせてやるっ!」


「駄目です! 国政に影響が出ますよ!?」


「スカーレット様を傷つけようなんて、神様でも許しませんっ!!」


「ええい、お前らも牢屋送りだ、私に逆らってただで済むと……!」


「くふっ……」


思わず笑ってしまった。

いや、これが現実だったら私だって甘んじて殴られはしないし、そもそも幼稚な煽りなんてしない。

痛みはないけど見た目はド派手に傷がついているし、扉が開けっ放しなので野次馬も覗き込んでいて目撃証言もある。

例え先に仕掛けたのが私だとしても、相手が王子であろうと、完全無罪になるだろうか。

いや、させない。

無論、王政であれば身内は寛恕されるだろう。

だからどうした、私は執念深いぞ。


「なあ、皆さんにお聞きしたいんですけど」


ゆらっと立ち上がり、ざんばら髪を振り回してへらりと笑う。


「そこでわめく継承権が高いだけの無能と、実務も見た目も完璧で継承順位は低いけど王の器たるスカーレット様、どちらにつく?」


私の問いかけに。

それぞれの間に視線をさまよわせた野次馬たちは、最終的にスカーレット様を選んだ。


「え、わ、わたくし?」


「当然じゃないですか。貴女が王妃にならないのであれば、アレが王族でいる価値がない」


「ふざけるなっ……! 貴様、どこの娘と言った。父に進言して、貴様の家から全てを取り上げてやる……!」


「あー、器がちいせぇわー」


「なんだと!?」


「ロートリシュ、財務関連の家です。好きにご報告ください、横領してるとでもいえば手っ取り早いですよ」


「なにを……?」


にこりと笑えば、さすがに異常を感じたのか、王子が静かになる。

本当にわかってないんだな、こいつは。


「国王から父への信頼の高さは、息子への愛情以上という事です。仕事のできない阿呆にはわからないことでしょうが」


「そ、そんなのやってみなければわからないだろうが!」


「はいはい。それよりスカーレット様、ありがとうございます」


支えてくれていた彼女に騎士の礼のような真似をすれば、呆気にとられた顔に少しだけ笑顔が戻る。

おお、綺麗だな。これスチルにならないかな。


「本当に令息だったの?」


「それでしたら、貴女の騎士になれたのに、残念です」


そのタイミングで、学園に配備されている衛兵がどかどかとやって来た。

拘束されてわめく王子。私も参考人として連行される。

くれぐれも丁重に、と進言するスカーレット様は本当に良い人だ。


さて、これでこの婚約がどうなるかはわからないが……。

気にくわない奴が今度こそ反省房に連れ去られる姿を見ることができたので、溜飲を下げることにしよう。これで一回目の借りは返した。

そう、今回の暴力沙汰の落とし前は別の機会にいただくつもりだ。

最も致命的なところで清算させてやる、覚えてやがれ。


行動がチンピラ

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