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18 今度は

 明日には連合国に帰ると言うレオンとリジーは、帰る前にとナナシのところに顔を出していた。


「そっか。連合国に戻っちゃうんだ……」


 せっかく仲良くなったのにルーグとローワンは寂しそうな顔をする。特にリジーは大人と言うよりルーグたち(子供)と同じレベルで遊ぶのでまるで同じ年頃の友達が増えたみたいで楽しかったようだ。


「仕事が残ってるでありますからね」

「返事を持ち帰らねばならぬからな」


 子供たちと同じようにしょげるリジーにレオンはフッと笑いながら、また来る機会もあるだろうと言う。


 まぁ今回のことを考えるとリジーが選ばれるかというと難しいかもしれないが、それについては口にしなかった。


王国(こっち)連合国(向こう)に行くのは無理でも、お前らは許可とりゃ遊びに来れんじゃねぇのか」

「出来るでありますか?!」


 食い気味にリジーがナナシのに詰め寄り、ナナシは迷惑そうにリジーを右手で押し戻しながらレオンに確認するように視線を向けた。


「ない、と言い切れぬが今回のことを踏まえると少々難しいかもしれぬ」

「出来ないでありますか?!」


 今度レオンに詰め寄るリジー。

 レオンはリジーに落ち着くように声をかけて座らせる。素直にそれにリジーは従った。


 帝国が攻めてきた時の対策の1つとして協定を結んでいるだけであり、元々、人間と亜人の溝は深い。リジー誘拐事件があったことを考えると許可はおりにくいだろう。


「どうにか出来ないの?」


 このままもう会うこともないなんて嫌だとルーグはナナシの方を見る。

 いつだってナナシは頼りになるから、きっとナナシならどうにかしてくれるんじゃないかと期待に満ちた目をして。


 その横にいるローワンも控えめながらナナシに助けを求めるようにナナシに視線を送っている。


「ゼロとは言わない。向こうさん次第だな」


 そう言ったナナシはポーチから1枚の紙を取り出してレオンに渡す。


「服のとこ長がな、獣人の服をもっと作らせろってうるっせぇんだよ」


 瞬間、リジーが身を縮こまらせる。

 レオン救出の際の採寸とかで妙なトラウマになったらしい。あの長は興味のあるものについては押しが強いので仕方ない。


「そういえば領主様の家で門前払いされてたっけ、あの人」

「あのお姉さんかな……」


 彼女の場合、それはけっこう日常なのでいつものことなのでルーグは気に留めないが、ローワンはあのお姉さんがそうだったのかなと思い出している。領主の家の前で執事が迷惑そうに対応していた人。


 なんでもリジーの服を作ってもらってから、獣人の服という新しいことがやりたくしょうがないらしい。

 というかアイディアがやたらと浮かんでくるようで獣人に着せたいとか言って会うたびにリジーや知り合いの獣人に会わせろとうるさいのだ。


「つーわけで表向きは技術交流はどうですかって手紙だな」


 他国の技術自体は興味も持っているので全くの嘘でもないが、1番は付きまとわれて面倒なのでひとまず話だけはしてみると言うことにナナシと領主がした。


 ついでに言っておくと王子も知ってるが国が絡むと少々大変なことになるで、ひとまずはナナシの個人的な付き合いでとなっている。

 話が決まれば連絡することになったが。


「あとはリジーが誂えてもらった服を見てどう思うかであるか」

「だな。ま、技術だけなら最高峰だし、問題ねぇだろ」


 レオンが頷く。

 服飾の知識などレオンにはないが、それでも技術が高いのは十分に理解できた。なにせリジーがどれだけ激しい動きをしてもしっかりリジーを覆い隠し、獣人と知られることもないほどだ。


「なんかあったら言ってくれ」

「そうさせてもらおう。子供たちのあのような顔を見ては実現させねばなるまい」


 ナナシの言葉であれば王たちも無視は出来ぬとレオンは言いながら、トラウマに縮こまるリジーを励ますルーグとローワンを見る。


 深い溝(長い過去)はそう簡単に埋まることではないけれど、レオンは今紡がれた関係性をなかったことにはしたくないとも思っている。


「種族の壁なんて――そういや、アサヒから伝言」


 アサヒは名指しの依頼が入ったため職人街を出発していて、レオンたちにも一声かけていたが伝え忘れがあったらしい。


「また飲み交わす日を楽しみしてるってよ。今度はレオンの故郷(連合国)の酒でとか言ってたぞ」

「そうであったか。ぜひとも実現させたいものである」


 若者(リジー)たちのことばかりに注意がいっていたが、気の合う友人に出会ったのは何もリジーだけじゃない。

 短い時間の中でレオンもまた人間(アサヒ)との友情を紡いでいる。


アサヒ(あいつ)、甘いもんいけるクチだかんな。連合国の酒も気に入るんじゃねぇの」

「ならば蜜菓子も気に入るかもしれぬな」

「あれな。アサヒなら美味いとか言いそう」


 きっと誰もが今回繋がった縁を切りたくないのだ。


 元々、リジーもレオンも比較的友好的な性格であったこともあるだろうけれど、せっかく仲良くなれたのに種族を理由に縁を切らなければならないなんてしたくない。


「どうしてもんときゃ、俺が誘拐しにいくかんな。誰にも文句は言わせねぇ」

「ナナシ殿には誰も言えぬであろうな」


 ドラゴンがやることになにかをいえるわけもないとレオンは小さく笑った。それにナナシなら実際にやりかねない。


 ――そして翌日。

 ナナシはルーグとローワンを連れて、レオンとリジーを見送りに行った。


 2人が見えなくなるまで手を振っていたルーグとローワンは寂しそうで、何度もリジーも振り返って手を振っていた。


 なかなか進めないとレオンはため息をついたが何も言うことはなく、ただナナシだけがヘマするなよとまた会えるかのように声をかけていた。

ナナシと連合国


昔、ナナシがドラゴンの曲芸飛行によりほぼ手ぶらで連合国前に落ちて保護されてからの付き合い。


連合国の亜人たちはナナシがドラゴンと名乗れることを知っていて、それをほぼ認めている。


ナナシはドラゴンとして丁重な扱いをされるのを嫌っていることと、性格的なものもあって基本同族みたいな扱いをされている。

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