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8 指導1回目

 無事にブラックハウンドを倒したというロイがフィリーたちと戻ってきた。


「あ、おかえりなさい。すぐに何か用意するね」

「ありがとう、ルーグ」


 ルーグは鍛冶師が散らかしっぱなしの机を簡単にだけ片付けて、モノを置くスペースを作るとパタパタとかけて飲み物の用意のために奥の工房に向かう。

 ついでに(ロイたち)が来たことに気づいてないだろう鍛冶師にそれも伝えて置くためだ。


「おー、おかえりって、何かあったのか?」

「え、どうして分かったの?」


 工房から出てきた鍛冶師はソファに座るフィリーたちを見て、戦果を聞くより先にそう口にして木箱の上に座る。


 何もないとシーナが言うより先にフィリーが反応をしてしまい、シーナが頭を抱える。素直なのはフィリーの美点なのだが、こういう時は欠点である。

 まぁ、フィリーは鍛冶師を特別信頼しているようだから余計に隠すのは出来ないのだろうけど。


フィー(お前)とロイを見りゃわかる。話せ」

「うん。えっと、ギルドで採取依頼も受けることにしてて……」


 目的地が一緒ならついでに別の依頼(クエスト)を受けることは冒険者なら少なくない。資金を増やすための効率化でもある。


 受けた依頼は薬草の採取だったので、鮮度がちょっとでもいいうちにと鍛冶屋(ここ)に来る前にギルドに寄って薬草を渡しに向かったのだが、そこでトラブルがあったらしい。


「受け渡しも無事に終わって、次に向かう場所とか依頼版見ながら考えてたのよ。ほら、推奨ランクとかも確認しとこうと思って」

「ぶっ飛んだとこ行くと(ギルドの)連中うるせぇからな。処罰の対象になったりするっつーし」


 鍛冶師は近くの棚からゴム製の投げナイフを掴んでは、自分の座る木箱のスペースに置いていく。


 ギルドに報告さえしなければどうと言うこともないのだが、一応シーナたちはロイがなんとか出来そうなレベルを考えてくれているらしい。

 やる気がなかった割にはしっかりとやってくれるようだ。


「するとですね、ロイさんにケンカをふっかける冒険者がいまして」

「僕らが声をかけると逃げ出したから大事にはならずに済んだんだけど……」

「ほーう、弱っちそうに見えたか、逆恨みか」


 新人にわざわざわざ突っかかる冒険者もいて、いわゆる新人いじめとか、新人潰しと言われるもので場所よっては洗礼として受け入れられている。

 とはいえ冒険者ではよくある話であって、別段珍しいものでもない。


「ロイの知ってる人だったみたい」

「ふーん」


 鍛冶師がロイに対して探るような視線を向け、先程からずっと大人しくしているロイがビクッと肩を跳ねさせる。


 ロイがその視線に耐え兼ねるように口を開きかけた時、奥からお茶を淹れ終えたルーグがやってくる。


「お茶入ったよ。今日はチャンククッキーがおや、つ……。あれ、タイミング悪かった?」


 扉を開けた先の異様な雰囲気を感じ取ったルーグは困った顔をしながらも、なるべく気にしない方向でフィリーたちの前にカップを置き始める。


 鍛冶師が止めないのなら問題はないはずだが、蛇に睨まれたカエル状態のロイがちょっと可哀想なので助け舟はだしてやる。


「はい、ロイもどうぞ。何があったのか知らないけど、多分話すまで逃がさないよ鍛冶師(あいつ)は」

「あ、っと、その……絡んできたのは、初めてこのお店に来た時にいた冒険者の人たちで……」

「あー、あいつらか。俺の腕が悪いとか言ってきた」


 ロイが初めて店に来た日の記憶を探った鍛冶師はガラの悪い新人冒険者を思い出し、どうしようもねぇなと腹を抱えてケタケタと笑った。


 ルーグはため息をついて、フィリーたちにその日のことを教える。

 鍛冶師の腕が悪いと押しかけてきた冒険者を、たまたま居合わせたロイをけしかけて追い払ってもらったと。


「碌でもないことしてんじゃないわよ」

「あなたのせいじゃないですか」

「どこがだよ。俺は関係ねぇだろ」


 シーナとアルゼルに責められた鍛冶師は笑ってこぼれた涙を拭きながら開き直るように返し、事の発端を作ったのは自分だとは微塵も思っていないようだった。


「あんたが戦わせなければ絡まれることもなかったじゃない!!」

「そうか?手は打つとして、俺が動くまでもねぇって感じだよな」

「うーん、さすがに可哀想かなって思うけど……いやまぁ、職人街(ここ)だとそう……」


 鍛冶師は一応シーナの言葉を受けて何か対処はするつもりらしいのだが話を振られたルーグは目を逸らしつつ遠い目をしていた。


 ここは職人街――。

 何より尊ぶのは職人の技術であって、その価値が分からない者に対しては売るものは無いと追い返す。

 特にこの鍛冶師はよくふざけてはいるが街の職人たちが一目置く存在なのだから、あの冒険者たちが職人街(このまち)でやってくのは難しいだろう。


 それに、フィリーたちがロイを指導していると知られれば、冒険者(同業)もいい顔をしなくなる。

 フィリー一行が有名パーティーであるからというのも理由なのではあるが、この街では別の理由もあったりする。


「気にするな、ルーグ。それがここのルールだ!」


 鍛冶師はそう言ってナイフを壁に向かって投げつけた。


 言い返す気力もないとルーグは何も言わず、ガラドはルーグの気持ちが分かるのか困ったように笑っていた。


 ひとまず今回の戦果の話になりロイの集めた素材が机に並べられ、それを確認した鍛冶師が必要な装備を考える。


「今回は防具だな。武器はちょびっと強化ってとこ」

「よろしくお願いします」

「んじゃま、いっちょ頑張りますか。明後日には出来んからな」


 準備運動をした鍛冶師は早速ロイの装備を作るために工房に入ろうとして、フィリーに呼び止められた。


「待って。明日、庭借りてもいい?」

「いいぞ!フィーなら大歓迎だ」


 理由も聞かずすぐに了承した鍛冶師は、ロイが持ってきた素材を持って工房に引っ込んだ。


「あーもう全く、片付けもせずに」

「手伝う?」

「ありがとう、気持ちだけで大丈夫。フィリーさんたちはロイの次の予定を決めておいて」


 散らかしっぱなしで装備を作りに行った鍛冶師に腹を立てつつルーグはテキパキと片付けを始め、フィリーはルーグの言葉に甘えて次の予定を相談する。


「次はゴブリンがいいと思うんだ」

「うーん、それは早すぎるんじゃ……」

「フィリーさん、その考えに至ったのはどうしてでしょうか」


 ロイの実力ではゴブリンは少々難しいだろうと思っているフィリー以外は渋い顔をする。


「今日、ロイが他の冒険者に絡まれたでしょ。だから、対人戦に慣れた方がいいかなって。そのために庭も借りるようにしたんだ」

「なるほどね。致命傷避けれるだけでも違うものね」

「予定は決まりだね」


 ゴブリン退治はロイの新しい装備が完成後となり、明日はこの鍛冶屋の庭でフィリーたちと対人戦の練習となった。

ロイ


祖父の剣を修理するために職人街にやってきた少年。

故郷の近くに封印されたグリフォンがいるようで、それもどうにかしたいと思っているようだ。


故郷を救いたい一心で頑張っている。

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