ブレイクタイム10
今日もルーグは鍛冶屋の留守番中だった。
「お邪魔しますぞ」
「あ、オーウェンさん」
今日のオーウェンはボロボロになった装備のままやってきた。いつも通りのオーウェンだ。やはりこの前が珍しく小綺麗だっただけのようだ。
オーウェンはそれらを手持ちの袋に入れて身軽な格好になりソファの汚れを気にしてタオルを置いてから座った。
「あいつは今出かけてていつ帰ってくるか分からなくて……」
「それまで待つので問題ないですぞ。素材の調達ですかな?」
また放浪しているわけでもないのならそれ以外の理由がオーウェンには思い浮かばない。基本的にナナシは素材集めでもしない限りは家の敷地内から出ることは少ない。
「ううん。なんか獣人さんが来て仲間が誘拐されたって助けに行ってる」
オーウェンの言葉に対し首を横に振ったルーグはナナシがここにいない理由ををオーウェンに話し始めた。
オークションにかけられるかもしれないとかで協力をしてくれるという店の常連と一緒に急ぎ救出に向かったことなど、リジーが来てからのことを伝える。
「確かに急いだ方がいいでしょうな。アズライトとなると特に」
「おれ、その町のこと知らないんだけど、どんな町なの?」
「そうですな。分かりやすくであれば――無法地帯ですぞ」
わずかに怯えたような表情をするルーグに、オーウェンはおそらくルーグの想像ほど悪い町ではないと笑った。
「確かに悪い人たちの組織が数多くある町ではありますが、人の暮らしぶりはこことそう変わりませんぞ」
「普通の町ってことだよね」
オーウェンは頷いて、それから悪いところだけでなくアズライトのほかの面も教えてくれた。
他の場所と町並みがかなり違うこと、そして専門であるモンスターのことを。
「あの辺りは虫系のモンスターが多くてですな、早めに町に向かうのがベストですぞ。昼なら蟻やスパイダー系、日が落ちると甲殻虫と休む暇もないゆえ」
「えっと、フレアアントとか?」
「そうですぞ。良く分かりましたな、ルーグ殿」
褒められたルーグは最近ナナシ手作りのモンスター図鑑を読んでいたからだとオーウェンに言う。
それを聞いたオーウェンは懐かしいとこぼした後で、ナナシがドラゴンに乗ってあちこちに行っていたと言い図鑑が世界規模なのが納得できた。
たまにオーウェンも同行させてもらっていたらしい。
「まだあの頃は鍛冶師殿1人は不安も残りましたからな」
「どうして?」
ちょっと世間からぶっ飛んだところはあったりするが1人が不安になるような要素がルーグには見当たらない。
「知り合った頃の鍛冶師殿は大幅な世間知らずでしたゆえ。仕方がないことではありますが」
「あ、そっか。レインさんのところにずっといたから……」
ほぼ何も世間一般の暮らし方というのは学ぶ機会がなかったのだ。レインの住処に訪れるのは人間じゃないし、そもそもみんな人間社会についてよく知らない。
代わりに古代文字など大災前の知識はあるのだが、基本的に現代社会では役に立つものではない。
「盗人扱いされて途方に暮れていたこともありましたな」
「ナナシが?」
盗人扱いはまぁいい、たぶん胡散臭いとか思われることの延長上だろうから。それよりあのナナシが途方に暮れていたという方が衝撃である。
「そうですぞ。素材を換金するためにギルドに向かったのはいいのですが、ナナシ殿の素材はレア素材でしたので盗んだものだと思われたのですな」
その頃のナナシはまだ成人する前の若造で、しかも冒険者で言うところのソロ冒険者だったわけで――そんなやつが大物を1人で狩れるわけもないと思われるのはごく普通のことだ。たとえ、それが瀕死だったとしてもである。
ナナシの対応に当たった職員はまずは話を聞こうしていたらしいのだが、一部の職人や周囲の冒険者の悪意に勘づいたナナシはすぐさま冒険者ギルドを飛び出したらしい。
初めての人里だけに勝手が分からず、ナナシがどうしたらいいか途方にくれていたところにオーウェンは出くわしたという。
少年があまりにも落胆していたこと、以前森の中で魔道具を譲ってくれた少年に容姿が似ていたこともあってオーウェンが声をかけると、その時の少年だった。
オーウェンは腹の虫が鳴き続けるナナシをひとまず食事に誘ってナナシが困っている事情を聞けば、手持ちの金では宿に泊まれず、素材を換金するためにギルドに向かえば盗人扱いされたとこぼした。
「レイン殿たちが持たせてくれたようですが、鍛冶師殿のお金は昔のものでしたから使えなかったのですな」
「あー、それは……」
ルーグは苦笑いをする。
レインの親切心だったのだろうけれど、ドラゴンの時間の感覚がゆっくりすぎて人間の今の時代についていけてないのだろう。10年を3年とか言ってたし。
それからオーウェンはギルドにナナシと一緒に向かって、ナナシがモンスターを倒した証人だと盗人扱いを取り消してもらいに行ったという。
オーウェンの信用もあってすぐに盗人扱いは止まったが、ナナシの実力の試す試合は一度やることになったとか。
そんなことがあったせいかナナシはギルドに自分からは素材を売りに行くのは滅多にしないというか、行きたくないらしい。
結局、珍しい素材も多いのでオーウェンがナナシから買い取りをして専門の研究者に回したり、時期を見て市場に流したりとやっていたと言う。
「なんかナナシってどこでも問題起こしてるなぁ」
「それでこそ鍛冶師殿というものですな」
呆れるルーグに対しオーウェンは笑って、それからまたナナシの街暮らしのエピソードを教えてくれた。
オーウェンとルーグ
よく鍛冶屋に来るだけにルーグも打ち解けている。
オーウェンはモンスターに限りだが、ナナシ同様に聞けば大抵のことは教えてくれる。




