8 悪党ってのも悪くねぇ
「さて、どうやって会いに行こうか」
蒼き狼のテリトリーに来たのはいいのだが奴らの根城までは知らないわけで、潜入捜査の作戦が早くも折れかかっている。
「こーいう時は簡単な話、ちょいと騒ぎをおこしゃいいだろ」
「なるほど、ちょうど良さそうなチンピラもいることだしやっちゃおうか」
ナナシは喧嘩をわざとらしくチンピラにふっかけ、面白いように乗ってくれた彼らをアサヒとリジーと一緒に完封する。
すると、自分たちのテリトリーを荒らされたと勘違いした奴らが騒ぎによってやってきた。作戦通りだ。
無事に見慣れない怪しい集団と判断されたナナシたちは、ボスの判断を仰ぐと下っ端たちによって根城に連れていかれる。
リジーはキョロキョロと落ち着かない様子だったがナナシもアサヒも通常運転で下っ端たちに睨まれてはいたが。
「へぇ、大通りに堂々とね」
「盲点だったね」
奴らの根城は大通りに面した比較的新しい建物で、まさかこんなところにあるとは思わなかった。
ここでレオンが見つかればいいが。
「グスタフたちがやられたって?」
「は、はい。目の前のこいつらが」
「はぁ?あいつらは元Bランク冒険者だぞ。簡単にやられるわけもねぇだろうが」
目の前で繰り広げられるボスと下っ端の会話を退屈そうに聞くナナシはあくびをして、こちらを見られたアサヒはひらひらと手を振って呑気だ。
リジーは鼻をヒクヒクとさせてレオンの匂いを探っているが様々な匂いが入り交じって分からないようだった。
「あー、おじさん元Aランクだから」
「そうなのでありますか?自分は――もがっ」
余計なことを言い出しそうなリジーの口を塞いだナナシは最速の足を持つんだよなと必要以上のことを教えないようにする。
それを見たアサヒはリジーに注意が向かないよう喋り出した。問題ばかり起こしてたからと、まるで冒険者ギルドから追い出されたとでもいうふうに困ったと笑いながら。
ボスはアサヒに品定めするかのように不躾な視線を向けて、それから口の端を吊り上げた。
元Aランクならそれだけで恐れされることが出来るし、グスタフたちが倒されるのだから実力はすでにわかっている。
「グスタフより使えそうだ。お前、うちに入らねぇか?」
「うーん、|ナナシ君とリジーちゃん《2人》も入れてくれるならね」
お膳立てしてくれたアサヒの言葉にナナシがリジーを抑えながら続く。
「そうこねぇと。じゃなきゃお前を消し炭にすんとこだった」
「言ってくれるねぇ。ま、おじさんは返り討ちにするけどね」
互いに睨み合い一触即発の空気を醸し出し、武器に手が触れたところでボスが声を上げてそれを止めた。
「いいぜ、3人まとめて入れよ。強ぇーやつは大歓迎だ。古参のヤツらぶっ潰してぇなぁと思ってたんだ、ちょうどいい」
「自分も蒼き狼の一員でありますか?さく――」
「え、サクッとやってやるって?いやー、リジーちゃんは気合い十分だね」
作戦成功と言いかけたリジーの言葉をアサヒが咄嗟に誤魔化し、ひとまず潜入は成功した。
翌日からあらぬ疑いをかけられないようボスの指示に従う従順な部下を演じていたのだが素直すぎるリジーはともかくとして、ナナシもアサヒも悪党ぶりは妙に様になっていた。
元からここにいたんじゃないかくらい馴染んでいる。
もしこれをルーグやギルベルトが見ていたとしたら、似合いすぎだと言ったかもしれない。タチが悪いことにほぼ演技皆無の素であるのがナナシである。
自信家に見える態度とかが拍車をかけてるに違いない。
「今日もやりきったね。そろそろ自由に動いてもいい頃合いかな」
「だな。ごっこ遊びももういいだろ」
宿に戻ったナナシはアサヒとそろそろ本格的にレオン探しをするかと話し合いを始める。
リジーは戻ったのが遅かったため宿に着くと同時に眠ってしまった。獣人の暮らしは夜行性でもない限り太陽と共にの暮らしなので夜更かしに近くなるので仕方がないが。
「俺は倉庫の方でも見回ってくるわ。気になるもんもあったかんな」
「おじさんはもうちょっとみんなと仲良くなってみるよ。それで気になるもん?」
「見間違いとは思うけどなー」
水を一気に飲み干して息を吐いたナナシは、アサヒの問いにそう返した。
「別に放置してもいいんだけどな、確認だけはしとかねぇと」
「そうだね。レオン君が見つかってないのに余計な騒ぎが起こるのは勘弁願いたいものだよね」
見つかっているのならむしろ騒ぎを起こして混乱に乗じてなんてことも出来るのだが、まだレオンは見つかっていない。
リジーは微かにレオンの匂いがすると言っていたが獣人という言葉すら耳にしない。思ったより警戒心が強い連中なのかもしれない。
まぁ、数日で信用してもらえるとも思ってはいないが。
「作戦はそれで行くとして変更する時は――」
「「その場で暴れる!」」
2人の声が重なり、目を合わせたナナシとアサヒはにっと笑った。
潜入捜査がバレた時点でコソコソするのを即止めるつもりらしい。つまりほぼノープランだ。
冒険者資格(冒険者ライセンス)
剥奪はまず滅多にあることではないので、グスタフはよほど問題を起こしたのだろう。
大抵はランクの降格とギルドマスターなどからの性根の叩き直しである。または行動を制限する呪術を打たれる。
これは一般人が被害に会うのを防ぐために放置する訳にはいかないからである。
事実上引退しても身分証としてライセンスを返納しない冒険者もけっこういる。




