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全ては鍛冶屋で起きている!  作者: メグル
フィリー編
72/146

11 欲しいもんはねぇな

 フィリーたちをひとまず街から追い出し、ルーグを送ったりする以外は変わらない日常を過ごしている。


 子爵は鍛冶屋に来た翌日、フィリーたちが取っていた宿に向かい依頼で街を出た知り冒険者ギルドに押しかけたそうだ。


 しかし冒険者相手に慣れている受付嬢は、貴族だと傲慢な態度をとる子爵に対しても1歩も引かず淡々と笑顔で仕事をしていたという。


 ごねるかと思われたがギルドに来ていた冒険者たちの視線に耐えかねたのか、それとも何を言っても相手にされないことで諦めたのか素直を引き下がったとウォルバーグ伝に聞いた。


「そうなるとこの店に来る可能性が高くなるわけだが……」

「何かあるの?」

「穏便に済めば良しってことだな。ま、フィーを嫁にやる気はないけども」


 執着していることを思えば穏便にというのは過ぎた願いになるかもしれないがそれでもナナシは願う。人間と戦うのは苦手なのだ。加減が上手く出来ないから。


「そういえばさ、ギルドじゃ聞かないよね。フィリーさんが口説かれたって話」


 よく美人の冒険者を冒険者(同業者)が口説いて返り討ちにあったなんて言うのは冒険者の多いこの街じゃ聞く話だ。

 しばらくそいつは笑いものにされるし、冒険者の知り合いも多いルーグは当事者から愚痴を聞いたり泣きつかれたり、笑い話で他の冒険者から聞くこともある。


「そりゃ、フィーにはいい守護者(ガード)がいるからな」


 そう言ってケタケタとナナシは笑って自分は関与してないみたいな体をとるが、ルーグにはそうは思えず胡乱げ視線を送る。


「この街じゃ俺も声はかけたけど、そもそも守護者(シーナ)が寄せ付けねぇんだよ」

「やっぱりやってるじゃん。というか、シーナさん?」


 シーナが口調の割に面倒見がいいのは知っているがルーグからするとそれにしてもと言う感じである。

 なんとなくだがシーナはフィリーを守るというか自分を売り込むようなそんなイメージが浮かぶ。まぁ、結果的にそれでフィリーが守られるということもあるとは思うが。


「あいつはフィーが冒険者になった時から面倒見てるらしいからな」

「そうだったんだ」


 その当時、冒険者ギルドでヒマをしていたシーナはぼんやりと行き交う冒険者たちを眺めていたらしい。


 にわかに騒がしくなったギルドの原因は冒険者登録をしに来たフィリーで、その容姿から下心丸出しでフィリーに声をかける冒険者が大勢いたのだがフィリーは気がつかず親切な人と素直に着いていこうしていたとか。


 見るに見兼ねたシーナがそれらを追っ払い、フィリーを放っておけなくなったためパーティーを組むことにしたと言う。


「初めてこの店に来た時も、シーナはやたら警戒してたかんな。胡散臭い鍛冶師だとかってな」

「今もそうだけど」

「なはは、ちったぁ信用はしてくれてるみたいだけどな」


 そうでなければ常連客としてこの店を使うことはないだろう。まぁナナシのユルい感じがあまりいい印象を持たれないだけだ。


 ――と、いつも通りの他愛ない会話をしているとコネリー子爵が来店した。


 ナナシも客とは思っていないようで接客をするつもりはなく子爵の出方を窺っている。


「先日は失礼した。まさか君のようなど庶民が侯爵の知り合いだとも思わず随分と失礼な態度をとってしまった」

「じゃ、あれが本物だと認めるってことか」


 子爵が大仰に頷く。

 書状を本物と信じられないというか信じたくないが本心ではあるものの、フィリーの態度から本物だと思わざるを得ないのだ。


 しかし、物は考えようで侯爵ではなくど庶民(鍛冶師)から許可を取ればフィリーとの結婚も夢ではない。

 同じ貴族よりも交渉は容易いはずだ。庶民なんてのは大抵金をチラつかせれば言いなりなるのだから。


「どうかフィリーとの結婚の許可を。鍛冶師()にはもったいないほどの金を出す」

「要らねぇ。金には困ってねぇもんで」


 ナナシから返ってきたのはにべもない返事だった。

 客も少ないこの店で普通に生活出来ていることを考えると事実だろう。


「それなら地位はどうだ?私は貴族だ、そこらの人間たちより権力()はある」

「興味ねぇな」


 やはり返事はそっけない。


 欲に弱い人間ならば子爵の作戦も上手くはまったかもしれないが、残念ながらナナシはそうじゃない。もっとも、大事な相手をそんなもので売ることなど大抵の人がしないだろうけど。


「何が望みだ?金も権力(ちから)もいらないなら他には……」

出来るもんなら(懐柔しようって)やってみろ(んなら無駄だぞ)


 面倒になってきたナナシははっきりと自分の意思を子爵に伝えて突っぱねる。金も地位も権力もナナシにとって欠片も興味のないものだ。


「人が下手に出れば……庶民ふぜいが貴族に逆らってもいいと思っているのか?!」

「俺にゃ関係ないね」


 元よりやりたいようにやるがナナシ流だ。

 お貴族様だからって媚びへつらうようなことは一切しない。ドラゴンにでさえそうなのだから、人間に対してはもっとだろう。

 ルーグはナナシらしさに呆れている。


認めさせたい(許可が欲しい)ならせいぜい真人間になるこったな」


 仕事が立て込んでいるので依頼じゃないなら帰れと、ナナシは会話を打ち切った。互いに譲る気がない以上は話は平行線になる。


 思い通りにならないナナシに怒りをあらわにする子爵にもそれを理解する程度の冷静さはあったようで、真っ赤な顔をして足元の缶を蹴り飛ばして帰って行った。


「どうしたもんかねぇ」


 子爵が蹴飛ばした缶を拾い上げながらナナシが呟いた。


「諦めそうにないもんね」

「ま、最終手段はいつも時代も分かりやすく実力行使ってもんだろ」


 そう言ったナナシは店で暴れられると大変なことになると大して片付かない片付けをし始めた。

冒険者ギルドの受付


ギルドの顔である。

男女ともにいるのだが女性が多い。


荒くれの多い冒険者を相手にしているからか、迷惑な人たちをあしらう技術などは高い。まぁ、あまりに迷惑はやつはその場の冒険者が追い出したりもするが。


冒険者の中には受付嬢の気を引きたくて頑張るやつらもいるようだ。

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