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6 ロイの方針

 昼食の時間が過ぎると、約束の通り少年が鍛冶屋にやってきた。


「こんにちは」


 少年が店に入るなり4つの好奇心が混ざった視線が飛んできて、少年は半歩足を下げる。


「お、きたきた」


 壁際に乱雑に置かれた木箱に腰掛けていた鍛冶師は木箱から飛び降りてルーグを呼んだ。


「ちょっとぬるいくらいがちょうどいいよね。あの階段長すぎるし」

「あ、ありがとう」


 呼ばれたルーグはすぐにお茶を用意すると、カップをフィリーたちの対面に置いて少年に座るように指示する。


 少年に出すには上等なお茶ではあるが、昼食時にフィリーたちのために出したものの残りでルーグはそのまま出した。

 第一、ここにあるポットは大きいのが一つだけなので淹れ直すのも面倒だし、店主(鍛冶師)にやらせたらブレンドとか言って考えもなしに別の茶葉を足すだけだ。それで美味しいのが出来ればいいが、大抵は濃すぎて飲めたものじゃない。


「お前らに頼みたいのはこいつだ。あー名前は……なんだったか」

「聞いてないから知らないのは当然だと思うけど?」

「あー、そうだったそうだった」


 うっかりと握った手を頭にコツンと当てた鍛冶師は、改めてと少年に名前を尋ねた。

 装備を作る方に熱中したりのこの店では割と日常茶飯事らしい。適当さが目立つので仕方がない。


「名乗るが遅れてすいません。僕はロイと言います」

「おお、ロイ。ロイっつーと英雄譚か」

「そうです。ご存知なんですか、有名な話じゃないのに」


 驚くロイに鍛冶師はやっぱそうか、ビンゴとにっと笑うがルーグたちは鍛冶師のよく分からない知識量に呆れていた。


 この男(鍛冶師)は妙なところで知識があって、本人は役に立たない無駄知識と言っているのだが、どういう訳かよくほとんど知られていないようなことを知っていたりする。


 まぁ、店を構える前は放浪者だったと言うので知識量についてはその経験からなのだろうと納得はできるのだが、なにしろ偏りがすごい。人が知らないようなことを知っていても常識に疎いのだから。


「ロイ。こいつらがこの前言ったアドバイザーな。向こうっから、フィリー、ガラド、アルゼル、シーナ」

「で、並び順は彼らのやる気順でもあると」


 鍛冶師がロイにフィリーたちを紹介し、ルーグが彼らの席順について言及する。

 いつもと並び順が違うのはきっとそう――なんとなくだが昨日フィリーたちと鍛冶師の会話を聞いていたルーグにはそう見えた。


「同列、だよ?」

「えぇ、ど、同列ですとも」

「アハハ……」

「はぁ?アルゼルよりあたしの方がやる気あるわよ!」


 それぞれの反応が返って来たところで、鍛冶師は冒険に出ない人間が教えられることなどないとフィリーたちにロイのことを丸投げする。

 フィリーとルーグだけは納得していない様子ではあったが。


「蛇の道は蛇ってな。フィー、頼んだぞ」

「うん。頑張る」

「ほどほどになー」


 鍛冶師との会話が終わると、フィリーは立ち上がってパーティーを代表してロイに握手を求め、ロイはフィリーの手を握ろうとして途中で止まり、おずおずと口を開いた。


「あの、僕なんかを……その」

「どうしたの?」


 急にオロオロとするロイに原因が分からずフィリーは首を傾げ、ルーグは原因が理解できているようでフォローのために口を挟むことにする。


 どうやらロイはフィリーたちがAランク間近と言われる冒険者だと気がついたらしい。時に新聞にも載る彼らなので、ロイの故郷が田舎だとしてもフィリーたちを知っていてもおかしくはないのだ。


「時間がないこともあるけど、どの道冒険者のイロハを教えてくれる人は必要でしょ。冒険者なんてなりたてが1番危険なんだから」

「無知に、実力を分からず挑戦、他には――。それとも、ご足労頂いたフィーたちを帰すのか?」


 ルーグの言葉に乗って新米冒険者が命を落とす原因を指を折りながら列挙した鍛冶師は、ロイに指導を受けるしか道は残されていないとでも言うようにロイに尋ねた。


「そんなことは……。その、よろしくお願いします」

「うん。よろしく」


 フィリーたちとロイの顔合わせが済むと、アルゼルがメガネをクイッと上げながら今後の方針をどうするかと口にして相談が始まる。


「ちょっとずつ強い魔物と戦うようにしていくのがベストじゃないか」

「うーん、どのモンスターがいいかな」


 時間が限られた中でとなると悠長なことは言っていられない。とはいえ、実力の伴わない相手と戦わせることも初心者だと危険すぎる。


「のんびりしてらんないんだし、ブラックハウンド辺りでいいんじゃない?」

「いきなり飛びすぎじゃ……」

「でも僕らがいるわけだから」


 ロイのステップアップに適したモンスターは何かと悩むフィリーたちの前に、しばらく席を外していた鍛冶師が武器を片手に戻ってくる。


「これがロイの新武器な。盾に関してはサイクロンウッドを引き続き貸し出しで」

「それならどうにかなる、のかな」

「ダメでしたら次の手を考えばいいだけの話です、フィリーさん」


 若干の不安は残るが、ひとまず次はブラックハウンドの素材の入手に決まり、明日から開始となった。


「話がまとまったところで、今回の代金の支払いよろしくお願いしまーす」


 そう言って鍛冶師はそれぞれに金額を提示し、アルゼルは値段をしっかりと確かめ、シーナは金額に思い切り顔をしかめる。

 いくら半額になったとしても元が高いのでお安いとはならないのだ。


「ねぇ、ロイの代金は私につけて」

「おー、分かった」

「そ、そんな、悪いです!!」


 フィリーの申し出に自分で払うとロイは慌てるが、フィリーはゆるゆると首を横に振って笑った。


「初めての武器は人からもらったものだったから、私も同じようにしたいんだ」


 自己満足なのはわかっているけどと付け足したフィリーは、真っ直ぐな目でロイを見つめた。


「新米の時って余裕ないから素直に甘えればいいわよ。あたしも出す」

「僕も出すよ。応援の気持ちを込めて」

「投資と考えれば悪くはないでしょう」


 ロイが何かを言う前にシーナたちが先に声を上げた。彼らにも何か思うところがあるらしく、フィリーの提案に賛同をした。


「お前が払うなら新人価格はいらねぇよな。銅貨3枚だしぃ」

「――それはっ」

「あら、アルゼル。前言撤回するつもりはないわよねぇ?」


 アルゼルが鍛冶師の言葉に反応してシーナがアルゼルを睨みつけ、アルゼルはそんなはずはないと震える手で眼鏡を上げた。


「じゃ、4人に付けとくわ。銅貨1枚ずつ」

「それは今払うよ」


 今すぐに出せるとフィリーたちは銅貨を1枚ずつ出してロイの武器代だけこの場で払う。

 自分たちの代金は後で振り込むそうだ。金額が大きいので途中から銀行に振り込みの形になっている。


「銅貨4枚、確かに頂きました」

「明日っからよろしくー」

「うん。頑張る!!」


 大きく頷いたフィリーは気合いを入れ、それぞれも明日のための準備があると鍛冶屋を後にする。


 ロイはシーナにより拉致同然に酒盛りに付き合わされる感じになってしまい、それを心配したガラドがついて行く。


「しばらくは暇が続きそうだね」

「なはは、客が来ること自体珍しいってもんだしな」


 そう言って鍛冶師は笑いながら出入口の方を見ると、ルーグが淹れたお茶の残りをカップに注ぐと飲み干した。

アルゼル


冒険者パーティー『黄昏の歌』に所属する冒険者。

メガネと常に手にしている算盤が特徴。


商人となるべく資金集めのために冒険者となったらしい。商店は開いたが、素材を取ってこれる商人になるために2足のわらじでやっている。

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