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ブレイクタイム1

「ギルドならこっちからが近い」


 鍛冶屋の目の前にある長い階段を下りきったルーグが指を指す。


「その道は……」

「急ぎだし、迷子にはならない」


 躊躇う少年をよそにルーグは淡々と言う。

 とにかく一刻も早くギルドに行きたいらしい。混む時間帯は全力で避けたいという思いがひしひしと伝わってくる。


 ここ職人街は碁盤目上に整備されていて分かりやすいのだが、一部複雑に入り組んでいる場所がある。

これは職人街と呼ばれる前の名残で、職人街の住人は大抵ここに家がある。


 ここで生まれ育ったルーグからすれば迷路ではないわけで、わざわざ遠回りするよりもよっぽど近道なのだ。


 ルーグは少年をちらりと見ると早足で歩を進めた。

 ついていくしかない少年は慌ててルーグを追いかける。ルーグに余裕でついていける辺り、体力はあるらしい。


 息を切らしたルーグは歩調を緩め、あちこちからかけられる声に返事をしながら道を抜ける。


「着いた」

「確かに早いですね。ルーグさんがいないと迷いそうですけど」

「……それ」


 正規ルートで向かうよりはるかに早くギルドにたどり着いて、ルーグが少年の言葉に対して不愉快そうな表情をする。


「ルーグでいい。それに冒険者ならその方がいいよ」


 もちろん礼節が必要なこともあるけれど、少なくともルーグは自分に対して丁寧に接する必要はないと言い切る。冒険者は同業に舐められないことも大切らしい。


「えっと、わかった。ルーグ」

「うん。新米狩りなんてのもあるから、出来るだけオドオドしないのも必須だし」


 職人街には冒険者や貴族も多く、店にしたって同じなのだ。

 オドオドしていたら、舐められて安値で買い叩かれることだってある。ルーグはそういうのも見てきて育ってきた。

 もっとも自らの仕事に誇りを持つ職人たちはいつだって作品には全力でとりかかるために、基本的にケチをつける客とケンカになることの方が多かったりするのだが。


「無駄話はここまでにして、潰される前に帰ろう」

「う、うん」


 ルーグの言う潰されるという言葉を少年はいまいち理解出来ていないが、ルーグの早く用事を済ませてしまいたいと思いがひしひしと伝わってきて、少年は早足のルーグに続いた。


「あ、ルーグ君。こんにちは」

「チビ助じゃねぇか」


 中に入ると受付の女性が声をかけてくる。

 どうやらルーグは冒険者ギルド(ここでも)有名のようで、他の受付嬢たちやちらほらといる冒険者にも声をかけられていた。


「そんなとこ。新米の世話任されて素材の買取」

「そうなの」


 受付嬢はルーグがいるなら安心かなと言いつつ、一応仕事だからやらせてと流れるような説明をしてくれる。


「あちらが買取カウンターです。モンスターの素材のほか、職人街のギルドでは不要になった武器などの装備品の買取もしています」

「装備も……」

「はい。あとはカウンターの中央には買取価格アップ中の素材が書かれているので、チャンスをお見逃しなく」


 受付嬢の説明を終わるとルーグはそれじゃ行こうと買取カウンターまで向かう。


 買取カウンターは依頼カウンターと違って受付にいるのは女性より男性が多く、奥ではガタイのいい男達がモンスターの解体をしているのが見て取れる。


「買取をお願いします」

「初めての方ですね、ご説明致します。まずは……」


 番号札を渡され、初回ということで少年は同じ数字が書かれている台まで案内される。


「ウォルバーグの息子じゃねぇか。こりゃあ、手を抜くわけにゃいかねぇよな」

「うん。よろしく」


 番号が割り振られた台の前には分厚いエプロンをつけた男が立っていて、ルーグに声をかけた後で少年に冒険者のギルドカードと売りたいものを台の上に置くように説明があった。


「ギルドカードには日付と合計金額が最大百件まで記録されます。銀貨30枚までは直接受け取れますが、それ以上は銀行に振り込まれますのでギルドカードで引き出すようお願いします」

「銀行はギルドってついてれば必ずあるから、帰りに案内する」


 職員の細かい説明が終わると、その間にエプロンをつけた男は査定をしていたらしくすぐに査定価格が伝えられる。


「査定額は銅貨8枚ってとこか。新人応援も兼ねて今回は2枚サービス、10枚だ」

「いいんですか?」

「おう」


 戸惑う少年に対し男は豪快に笑って、出世に期待してるぞと半分冗談を言いつつやはり豪快に笑って言った。


「ありがとうございます」

「また来いよ」

「はい!」


 買取カウンターから出るとにわかにギルド内が騒がしくなってくる。

 外から帰ってきた冒険者が多くなる時間帯らしいのだが、どうやら有名な冒険者パーティーがいるらしく、それで余計に騒がしくなっているようだ。


「こっち、受付から左に銀行がある」

「緑色の看板ですね」

「そう」


 人でごった返す中をなんとか進んだルーグと少年は、ギルド内にある銀行の場所を確認したあと、ルーグの意向ですぐにギルドを出た。

 潰されるといったルーグの言葉は冗談という訳ではなさそうだ。


「ありがとう、ルーグ」

「どういたしまして。明日、昼から来て。アドバイザーも呼んだし、武器も出来てるはずだから」

「わかり、わかった。明日もよろしくね」

「うん、それじゃ」


 少年が見送る中、ルーグは人が多くなっていく道を足早に抜けて帰路に着いた。


冒険者ギルド

冒険者たちを統括、管理している世界最大級のギルド施設。

依頼の斡旋や素材の買取など業務は多岐に渡る。


ちなみに職人街の冒険者ギルドは他のギルドと合同で買取を行っており、供給があるため他の地域よりも買取価格が少し高く設定されている。

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