15 強さの秘密
翌朝、フィリーたちが目を覚ますとまだ鍛冶師は眠っていた。
レインが言うには夜が明けるまで話し込んでいたようで、鍛冶師はさっき寝たばかりらしかった。
それに対しフィリーたちは和やかに笑っていたが、ルーグはわずかに疑うようにレインを見つめていた。
「そうだよね。久しぶりに会ったんだもん」
「話したいことはたくさんあるはずだからね」
ドラゴンの感覚は分からないが、人間の感覚で行くと長年会っていなかったのだから、話したいこと聞きたいことはたくさんあるだろう。水入らずの時間なら特に。
それに鍛冶師は魔力雨が降るからと連日かなり飛ばして進んでいたのだから疲れているはずだと、フィリーたちは誰も鍛冶師を起こすつもりもない。
「時にお主らは、あやつの強さを探りに来たようだな」
「はい。彼ほど強い相手は見たことがありませんので」
アルゼルが答える。
Aランク間近と言われる自分たちでも未だほとんど太刀打ち出来ず、1人で下位ドラゴンを倒してしまうだけの強さが鍛冶師にはあった。
この森でもそうだが、鍛冶師の強さは異常だ。
それもまぁ、ここにたどり着いたことで色々と察したが。
育てたのがドラゴンだからとも理由の1つだろうが、もっとも大きいのは環境だとも。
常日頃から言っている強い相手の方が得意とか、正面切って戦うより卑怯な戦法を好んで使うのも納得がいく。
「して、強さの先に何を望む?」
レインがフィリーたちに問いかけた。
純粋な疑問で問いかけだけなのだが、レインの荘厳さを合わせるとどうにも口調も相まってただの問いかけには思えない。
まるで間違いを口にすればその場で消し炭にされてしまいそうな、そんな雰囲気があった。
誰もが躊躇い口を開けない中、1番に発言をしたのはフィリーだった。
「大切なものを護れるようになりたいから」
何の気負いも衒いもなく真っ直ぐにフィリーは言ってのけた。
冒険者になったのは当時冒険者だと思っていた鍛冶師を探すためだったが、大切だと思う人たちが増える度に失った故郷の時のような思いはしたくないと強く思うからこそ戦う強さを求めている。
「僕も似たようなものかな。少しでも被害を減らせるように」
ガラドが言った。
故郷こそ失ってはないが、自分と同じような思いをする人を1人でも減らしたいと冒険者になった。
「あ、あたしは見返すためよ」
シーナは才能がないとバカにしてきた連中を見返すためにと答える。
そいつらが文句言えないほどに強くなりたいのだと。
「私は商人として大成を成すためです」
なんでも調達出来る商人になるべくとアルゼル。冒険者として名を上げれば店の宣伝にもなると。
「そうであったか。ならば探ろうと言うのも頷ける」
それぞれの真剣な眼差しを受けたレインはそう言った。
それならとレインは鍛冶師の朝の日課を教えて、レインは一際大きな紫の巨木を指し示す。
「あの方角に小さな草原がある。ナナシは毎朝、あそこから一角兎を狩っておった」
「朝から一角兎を……」
朝からガッツリと食べれないアルゼルは信じられないという顔をしたが、どうやら朝狩って昼や晩に食べていたらしい。
朝食は前日の残りかパンを焼いて食べていたと言う。
ひとまず一角兎をと軽装で出かけようとしたフィリーたちをルーグが呼び止めた。もう少ししっかり装備した方がいいのではないかと。
昨日ルーグは鍛冶師から1人で歩くなと言われていた。なるべくレインのそばにいろとも。それを考えるとである。
フィリーたちはルーグのことを心配性だと笑い飛ばすことはせずにそれなりの装備をして向かうことにした。森のモンスターが迷いこんでくる可能性もあるのだから。
戻ってきたフィリーたちの手には通常の倍はある大きさの一角兎が握られていて、軽装で向かわず正解だったと言っていた。
「無事に取ってこれたか。じゃ、飯にするか」
ちょっとくたびれているフィリーたちに何かを言うわけでもなく起きていた鍛冶師は食事を温め直す。その間にフィリーたちは一角兎の処理をする。
「なんなのよ、あれ」
「なにって一角兎だろ」
一角兎の大きさにシーナが突っ込むが鍛冶師は当然のように答える。
鍛冶師はちょっとでかいだけだろと言うが異常な大きさだ。その上、素早さなど能力も上がっているために倒すのも一苦労だ。しかもうさぎなので基本集団だし。
朝食を終えると鍛冶師は洞窟の外側を半周ほど進んだところにある畑に向かった。ここの植物も通常よりも巨大だった。
今は使われていないはずだが手入れがされていて、ほぼやることはないので使う分だけ収穫をして戻る。
「で、次は?」
「何してたっけな。あー、やることないときゃ、散歩してたわ」
ここで暮らしていた時のことを思い出した鍛冶師はそう言って幻影に侵されていない森の中を散歩し始める。
素材集めも兼ねているようで遭遇したモンスターを倒しながら昼食までフラフラと適当に歩いて回った。それにしてもこの辺りのモンスターは通常より巨大だったり姿形が同じでも能力が異常に高く、油断が出来ない。
「あとはなんか作ったり、ゴロゴロしたりか。たまにレインたちに挑んでみたりな」
「それだけ聞くとほとんどやってること今と変わらない気がするんだけど」
鍛冶師の話を聞いたルーグがそう感想をこぼした。
変わったところがあるとするなら、戦う相手がモンスターのみになったくらいか。
「なはは、そういやそーか」
「どこにいても変わらぬということであるな」
放浪中も結構気ままに動いていただけにどこにいても割合自由にやっているようだ。
午後からは雑談をしてゆっくりしたり、せっかくなのでレインに挑戦したみたりする。レインには何のダメージも与えられなかったが。
夕食を済ませると温泉に入り就寝時間が迫る。
フィリーたちが出した鍛冶師の強さの秘密は、環境によるものだと結論に至った。
武器など装備によるところもあるのだろうが、それを差し引いても強いのは人生の大半をこのような場所で過ごしていたからだろうと。
洞窟内の部屋
まるで人の家のように作られており、おおよそ洞窟内であると思えないほど。
いくつかの部屋に区切られていたりとその広さは豪邸並と言っても差し支えないほどだが、ほぼ使われていない。
内装のセンスは少々独創的であるが鍛冶師は気にする様子もなく暮らしていた。




