6 ルーグ
道なりに進むだけなので迷うこともなく、少々足場は悪いものの特に何事もなく進んでいく。
――ただしルーグを除いては。
ルーグに合わせてフィリーたちも歩くペースは落としているが、それでもルーグにはかなりきつそうだ。
こうして数日連続で長距離を歩くこと自体、ルーグの年齢では大変だろう。それに加え慣れない環境も大きな要因だ。
元々ルーグは体力がそんなにあるわけじゃないし、たぶんあんまり寝れていない。
それでもなんとか今日を終えて野営の準備をする。
料理は本人の気持ちも汲んでルーグに手伝ってもらうこともあるが、他の準備は全て鍛冶師たちがやっている。
どの道、食材の現地調達もテント張りの力仕事もルーグには難しい。
夕食も済ませ、各自装備の確認と手入れをする。明日には幻影の森に入る予定だ。
ルーグはあくびをひとつして、いつも通りフィリーたちよりも早めに寝るために立ち上がり、鍛冶師が呼び止めた。
「ルーグ、ちょっと待った。お前はこれを使え」
「なに?」
鍛冶師がマジックバックから取り出したのは赤い1枚の大きなウロコだった。
それを鍛冶師は真ん中で開く、すると中にはルーグくらいなら余裕で眠れそうなベットが出てくる。
「いや、狭くまるし。オレだけが……」
ルーグは躊躇い、フィリーたちは何も言わず様子を見守っている。何かあれば口出しはするつもりで。
「足手まといが何言ってんだっての。夜もまともに寝れてねぇくせに、また熱出して寝込みたいなら別だけどな」
「……分かった、使う」
ルーグは大人しく従うことにした。
ただでさえ足を引っ張っている自覚はあるのだ。その上寝込みでもしたら確実に家に返されるし、風邪の熱とも違うそれは極力避けたい。
このままだとテントの入り口に引っかかるため1度バックに戻してからテントの中で取り出して設置された。
少々テントの中は狭くなるが誰からも異を唱えられることはなかった。ルーグにとっては過酷なものになるとは思っていたからだ。
これくらいで不満を言うくらいなら、元からルーグを連れていくことに反対していた。
ルーグがベットに入ると鍛冶師はテントから出てくる。
色々と言いたいこと聞きたいことはあるが、まずはどうしてベットを持ってきていたのかである。
「予測はしてたつっーか、少しでも休めるようにってな。旅にも安眠は必要だろ」
「だからって……いやまぁ、こういうやつよね」
理由は分かったので良しとしてこれ以上つっこむのはやめることにする。たぶん続けてもハッキリすることはない。
「あなたにしては随分と優しいですね」
「またオプションつけ……お前らにはしょうがねぇ話しとくか」
頭をかいた鍛冶師は息を吐いて億劫そうに口にした。
「あいつは魔力の循環異常がある。シーナならわかんじゃねぇか」
「分かるわね。あんたの行動にも合点がいったわ」
シーナは鍛冶師に対し冷たい視線を送る。
こまめな休憩やさっきのベット。いささか過剰な配慮すぎるところがあった。
魔力の循環異常と言われればそれも不自然な事じゃない。むしろ、よくつれてきたとすら思う。
「それって何?」
「言葉としては分かりますが、この旅に何か支障が出るようなものなのですか」
「そうね。魔力は血液みたいに身体の中を巡ってるのは知ってるでしょ」
あまりよく分かってなさそうなフィリーらのためにもシーナは初歩から説明することに決めて、2人の顔色を見ながら進めることにした。
「うん」
「で、言葉通りその流れに異常があるのよ。だけど日常生活くらいなら、重度であれ軽度あれ問題なく生活はできるわ」
日常生活といっても激しい運動などでも魔力の循環が上手くいかなくなることもあるようで、そうなると体調を崩してしまうことになるとシーナは続けた。
「特に魔力による体調不良ってかなり辛いって聞くわ」
「どれくらい辛いの?」
「そうね……。お師匠様は魔力の逆流が体験出来るものだろうって」
それを聞いたアルゼルが身震いをした。
魔力の逆流は、魔法を失敗した際にたまに起こるもので気絶するほどではないしろ激痛を伴う。
アルゼルの反応を見る限り、そうとう大変と見ていいだろう。
そうなると、なんでルーグのことをもっと早く教えてくれなかったのかと思う。その視線を感じ取った鍛冶師は当然のように言った。
「教えたら過剰に気ぃ使うだろ、お前ら。あいつ嫌がんだよ、そういうの」
「ルーグ君はそうだったね」
鍛冶師の言葉に図星だという風なガラドは、ルーグが特別扱いを好まないのを思い出した。元々そういう環境にいるルーグは、自分の才能のなさもあってか鍛治長と子供として見られるのを嫌っている。
全部が悪いわけじゃないけれど、あまりいい感じがしないと。子供ながらに地位などのしがらみを感じ取っていたようだ。
「つーわけで、今俺が教えたことはほぼ忘れろよ。ルーグは俺が見とく」
「うん。そうだよね」
「明日からは幻影の森ですからね」
気合いを入れ直したフィリーたちは今日の見張り番の順番を決めるために拳を突き出した。
見張り番
特に順番は決めていないようで旅の恒例。今回は2人1組でやる。
数時間ごとに交代するため、交代時に起こされるのだがフィリーがなかなか起きないためメンバーは苦労しているようだ。
鍛冶師は1人旅をしていたこともあり、周りに音が鳴るよう仕掛けを施しちょいちょい寝ていたりする。




