2 説得
鍛冶師から出されたたった1つの条件。
たった1つだけ。だけどそれがルーグには異様に高い壁に映った。
職人街のすぐそばをちょっとだけ歩くわけじゃないのだから、おそらくと言うか確実に反対されるのは目に見えている。
街の周囲は比較的弱いモンスターしかいないし、冒険者たちの往来が多いので道にそってであれば、子供1人でも外に出ても安全性は高い。
しかし、ルーグが行こうと思っているのは危険すぎる場所だ。
両親がその場所について何も知らなければどうにかなったかもしれないが、父であるウォルバーグは鍛冶師から聞いているのでわかっている。
帰路に着く途中でルーグはため息をついた。
「許してもらえるとは思えないんだけど」
「だから俺も行くんだろ」
もちろん、鍛冶師もルーグの行きたいと言う気持ちだけで両親が許可を出してくれるとは微塵も考えていない。
だから、ルーグと一緒に鍛冶師はルーグの家まで向かっている。あれこれ疑問もあるだろうし、ルーグには分からないことだらけというか鍛冶師にしか答えられないことばかりだ。
それにしても鍛冶師が夕飯時に来るのは懐かしい感じがする。鍛冶師が職人街に来たばかりの頃はよく一緒にご飯を食べていたから、たまにこうして一緒に帰った。
「あ、ルーグ。ちょっと待った」
「これ?」
家に入る直前、鍛冶師は左手首を指さした。
鍛冶屋まで瞬間移動が出来るブレスレットのことを指しているようで、ルーグはすぐに取り外して鍛冶師に渡した。
鍛冶師は切り札だとにっと笑っていた。
話をするのは食事の後でとなり、料理が冷めないうちに夕飯を食べ終わると話し合いが始まった。
「で、話ってなんだ、ルーグ?」
「あ、のね。今度フィリーさんたちと一緒に幻影の森に行くみたいでさ、俺も一緒に行けたらって思ってて……それで父さんたちに許可をもらいたくて」
反対される未来しか見えていないルーグの声はだんだんと小さくなっていく。たぶん、1人だったら言い出すことも出来ずに諦めていた。
「……他の場所なら考えたが、行かせられねぇよ。あそこには」
静かにルーグの話を聞いていたウォルバーグの結論は早かった。まぁ、無理もないことであってルーグもなにかを言うこともできず、やっぱりと涙を堪えて俯いた。
ウォルバーグも行かせられないとはっきりと言ったが、苦渋の表情が浮かんでいる。
滅多にワガママを言わないルーグのお願いだからこそ叶えてはやりたい。
ルーグが幻影の森の先にいる相手にどれほど会いたがっていたかもよく分かっているし、ウォルバーグにとって間接的になるがルーグを救ってくれた相手でになる。
だから、会わせてやりたいとは思うのだが場所が場所だ。自分の身すらまともに守れない子供だから余計に許可を出せるわけがない。
「行ってきたら。鍛冶師がルーグを連れて行っても平気というなら考えがあるんでしょうし、フィリーちゃんたちもいるなら安心ね」
意外にも母親は寛容だった。
もちろん危険な場所にルーグが行くことに不安はあるが、鍛冶師への信頼から許可を出してくれる。
「母さん、ありがとう!」
「あとは大将か」
鍛冶師も一筋縄でいくとは思っていない。
普段は職人街にずっといると言っても、ウォルバーグは戦える鍛冶師だ。若い頃は冒険者についてあちらこちらに行っていたようで、外の危険性はよく分かっている。
「言っとくが俺も前例なしで言ってるわけじゃねぇかんな。オー……知り合いのモンスター学者を連れて行ってる」
「少なくともルーグよりは足手まといにゃならねぇだろうよ」
「そうでもねぇ」
オーウェンの行動を思い出す鍛冶師は虚空を見つめる。
なにしろ自分の身よりも好奇心が勝ってモンスターに近づくことも多い。弱いモンスター相手ならまだマシだが幻影の森のモンスター相手にもやっていて連れていくのにかなり苦労した。
「むしろ大人しく守られてくれるだろうルーグのがマシだな。あと森ん中はおぶって連れてくから邪魔になるこたない」
「え、そうなの?恥ずかしいんだけど」
「舗装された道はねぇし、たぶんルーグじゃ歩くのムズい」
それから鍛冶師はルーグ用の装備など全部用意するとウォルバーグに話す。
幼いフィリーを連れて数年旅をしていたというので大丈夫だろうとはウォルバーグも思っているがやはり場所だけにいいとは言えない。
それを感じ取った鍛冶師は完全無傷で帰すとは約束出来ないがそれでもルーグだけなら安全に家に帰せると鍛冶師は一押しすることを決めると、先程ルーグに返してもらったブレスレットを机の上に置いた。
「なんだこれは?」
「古代の遺産の模倣品」
元は様々な場所に瞬間移動出来るものだが同じようにはつくれず、設定した1箇所にだけしか移動できないがと鍛冶師は続けた。
「俺の店に移動できるようなってる。 なんかあってもすぐにルーグはここに戻れる」
「父さん、お願い」
ルーグはどうしても行きたいのだとウォルバーグに訴える視線を向ける。この機会を逃せばもう行けないような気もして。
「……まぁ、それならいいか。ただしルーグの装備については確認させてもらうぞ」
「りょーかい」
ルーグの必死さと鍛冶師の切り札を前にウォルバーグが折れる形で、幻影の森へ行く許可をだす。
鍛冶師であれば判断も間違えないだろうとも思っている。
「今出すわ。俺のお古だけどな」
そう言ってマジックバックから取り出したのはごくごく普通の服だったのだが、ウォルバーグは確認のために手に取った瞬間に顔を引きつらせルーグにしっかりとした許可を出すのだった。
職人街周辺
貴族の往来が多いため安全の確保が必要だと、街のあり方は長たちに任せている領主が日々街の周辺のモンスターを狩るように依頼を出している。
冒険者も多く来るので周辺はかなりの安全が保たれているため、街の付近であれば子供が散歩できるほど。
ちなみに領主は職人たちも知識のない人間に口を出されたくはないだろうと任せているだけで、領主として街のインフラ整備など仕事はしっかりやっている。




