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4 アドバイザーズ

 祖父の剣を直したいと少年がやってきてから2週間ほど――。


「全く、こっちはダンジョン攻略で忙しいんだから急に呼び出さないでよね」

「そんなこと言いつつ来てくれるとはお優しいことで。シーナちゃんてばツンデレ?」

「やめて、気持ち悪い」


 鍛冶師の言うアドバイザー4人組が鍛冶屋にやってきていた。


 鍛冶師に開口一番文句を言うシーナは、ちゃん付けで呼ばれたことで気持ち悪さを感じで自分を抱き込むようにして1歩下がった。


「フィリーさんは譲りませんし仕方がありませんね。まぁ、あなたが出した条件なら損にはならないので構いませんが」


 シーナ同様苦情を言うメガネの男はメガネをクイッと上にあげて、鍛冶師が送った手紙を懐から取り出した。


「2人ともそんなこと言わないで」

「これこそお前らって感じだよ。すぐ来てくれてあんがとな。とりあえず座れよ」


 細身の剣を身につけた女性がパーティーメンバーを諌めるが、鍛冶師はいつもことだと割り切っているのか気にした様子もなくルーグを呼んだ。


「もう用意してある。どうぞ、お茶です」

「ありがとう」


 ルーグの姿が見えなかったのはフィリーたちが来たと同時にお茶をだす準備をしていたからのようだ。4人分のお茶と1口マフィンをルーグが運んでくる。


 仕事が早いルーグに関心しながら鍛冶師は顔を顰めてわずかに間をおき、自分のことは棚に上げてルーグに突っ込んだ。


「おい、ルーグ。これは俺のとっておきじゃねぇか。あとマフィンはどこであっためたんだよ!」

「上客なら丁重にもてなすのは当たり前でしょ。マフィンなら奥にある炉で」


 淡々と鍛冶師の疑問に答えるルーグは冷めていて、露骨に迷惑そうにしながら砂糖とミルクを運んでくる。


「いやいやいや用途が違うだろ、つーか上手いことよく出来るな」

「褒めても何も出ないよ。んー、でも白湯くらいなら持ってくるけど」

「フツーにお茶がいいけど!?」


 ルーグは鍛冶師の言葉を聞き流して、客人たちの対面、鍛冶師の隣に座った。


「で、どこのどいつを鍛えろって言うのよ」

「田舎の少年」

「それはざっくりしすぎじゃないかな?」


 大雑把すぎる鍛冶師の説明は要領を得ず、冒険者たちはルーグの方に視線を送り、ルーグは小さくため息を吐いてから説明を始める。


「祖父の剣の修理が来店理由。フィリーさんたちを呼んだのは2年後に目覚めるらしいグリフォンがいるから」

「田舎のグリフォン……」

「確かにそれはのんびり出来るものではないですね」


 大都市でもなければ救援の手がすぐに届くこともなく、それを解決できるほどの人物がいることも珍しいとは分かっているのでその大変さは分かる。

 それに田舎ほど、討伐のための準備のための犠牲にされる。悪い言い方をするなら大多数の幸福のための生贄に近い。


「つーわけで、お前らを指導役(アドバイザー)として呼んだってわけだ」

「うん、任せて。ギルドからも言われてるし、頼りにされたんだからやる!」

「恩人の頼みじゃ断れないってフィリーが言うのよね」


 やる気を見せるフィリーに対し、シーナはかったるそうにいてメガネ君同様あまりアドバイザーとしてやる気はなさそうだ。


「ほー、やる気があるのはフィーとガラドだけか。じゃ、代金半額は2人だけに適応するとしよう」

「はぁ?!ちょっと待ちなさいよ」


 立ち上がったシーナが鍛冶師をガンつけて拳を握り、それを全身鎧の男ガラドがシーナを落ち着かせるように両手をシーナの前に出した。


「最悪お前らが倒すにしても、一応期間は2年間だ。結果をだすにゃ、やる気のないの指導は無駄な時間だろ」

「一理ありますね。ですが私は請け負うのであれば誠心誠意やらせて頂く所存ですので、代金半額の方よろしくお願いします」


 メガネの男はそう言ってメガネをクイッと上げ、シーナはドスッとソファに乱暴に腰掛けて足を組むと尊大しっかりやるわよと言い放った。


「それじゃ、全員やってくれるってことでいいの?」

「うん」


 ルーグが意見をまとめてフィリーが大きく頷くと、鍛冶師は1度大きく伸びをしてから服のポケットから砥石を取り出した。


「じゃ、あいつが戻ってくるまでにお前らの道具の整備でもやっときますかね」

「代わりの装備とかはいつもの箱にまとめてあるから適当にどうぞ」


 ルーグはそう言って大きな鉄製の箱を指さす。

 重すぎて運べないし、従業員のいない店なのでそこら辺に関しては勘弁してもらう。というか、常連客なので勝手知ったるで彼らもほどほどに好き勝手にやるけれど。


「ありがとう、ルーグ」

「この前頼んだの出来てるかなぁ」


 各人、自分の装備を鍛冶師に渡し、代わりの装備を取りに行く。


「仕事が早くてすごいな。今回はこれを使わせてもらうか」

「早いのではなく、依頼が少ないだけなのでは?」

「おい、アルゼル!割増すんぞ、コノヤロー」


 メガネ君ことアルゼルの言うとおり依頼がほぼないのは正解ではあるのだが、さすがに(アルゼル)から言われると腹が立ったようだ。


「な、私は事実を言ったまでです。しかし、余裕があるということは素晴らしい」

「よーし表出ろ、アルゼル」


 一触即発な2人の間に慌ててフィリーが割って入ろうとしたが、ルーグが口を挟んで止める。


「アルゼルさん。命を預ける鍛冶師の逆鱗に触れる発言は自殺行為だよ?」


 まぁ、アルゼルもこれが通常運転であって悪意がある訳ではないとこの場の全員が分かっているが、鍛冶師と冒険者という関係上、ルーグは釘を刺しておく。


 もっとも、プロであれば仕事に手を抜くことはないのでこの鍛冶師が装備に()()()失敗をすることはないと思うが。

 しかし腹いせに余計なオプションをつけないとは思い難い。


「プロでしたら真摯に向き合うはずですので問題はないかと」

「だといいけどね」


 ルーグは知っている。

 あの少年に渡した剣の付与魔法はまともなやつだが、きっかけは元々鍛冶師がお遊びからつけたものだと。そして、機能を懇切丁寧に説明してくれた鍛冶師が全く役に立たないふざけた機能をつけていたことを。

 つまるところ、技術(才能)の無駄遣いである。


 なので、ルーグはアルゼルの言葉を素直に頷けない。

 実際、彼は料金を滞納している冒険者に対して仕掛けたこともあるのだから。


「心配すんな、ルーグ。俺の技術でこいつらの命を危険に晒すような未熟な真似はしねぇよ。性能()()はな」


 絶対になにかする気だ、この鍛冶師は。

 それを耳にしたフィリーは困った顔はしたものの、何も言うことはしなかった。

フィリー


冒険者パーティー『黄昏の歌』に所属する美しい容姿の冒険者。


幼い頃鍛冶師に助けられた過去を持っており、鍛冶師の頼みならばとパーティーメンバーを説得らしからぬ説得をしてやってきた。少々天然。


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