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32 あとは待つだけ

 装備の微調整も無事に終わり、翌日ロイたちはネームドグリフォン討伐に旅立って行った。


 ロイはこの時点からすでに緊張していたみたいだったけど、フィリーたちはいつもと変わらずで経験の差を感じさせた。


 ルーグも鍛冶師と一緒にそれを見送った。

 何もできることはないけれど、またここで会えるように願いを込めて。


「行っちゃったね」

「そーだな。やれることはやったし、後は朗報を待つだけだな」

「うん、そうだよね。グリフォンも強いんでしょ?」


 見送ったあと不安そうに喋りだすルーグに鍛冶師は頷く。

 ましてそれがネームドとなればかなりの強さだろう。本来あの人数で挑むような相手じゃないのは確かだ。


「勝算ゼロってわけでもねぇし、万一の手はこっちでも打った。ま、動いてくれるかはわからんが」


 鍛冶師は以前ギルベルトと言ったことをルーグにも言うが、不確定要素の辺りが不安になる。


「万一の手って?」

「戦闘狂の知り合い。強敵に心が傾むきゃ来んじゃねぇの」


 人前には出たがらないようで、天秤が強敵との戦いに傾けばおそらくと鍛冶師。なんとも適当なことである。


「あいつらの心配もいいが、こっちもやるべきことをやらにゃならん」

「何?」

「部屋の掃除」


 ああとルーグはため息のような息を吐いた。

 魔道具作りからずっと工房にこもっていたので散らかっている。作業中、要らないものは割とポンポン後ろに放り投げるせいで散らかり放題なのだ。

 ルーグも邪魔しないように手は出さなかった。

 いちいち気にしていられないのも、父親たちがそうだったのも知っているのでルーグもとやかく言うことはないが、かなりの手間なので片付けも大変なのだ。


「依頼が来たら大変だし、さっさとやらないと」

「ま、当分は来ねぇだろうな。お得意様はほぼ出払ってるし」

「そうだけどさ」


 それぞれ箒やちりとりを持って工房の掃除に向かう。目を逸らしたくなるほどの散らかり具合だが、やらなければお湯も取りに行けないので仕方ない。


「よーし、終わった。あとは……そうだ、あれ作るか」


 掃除を終えた鍛冶師はいくつかの素材を手に店側に行ってしまった。簡単なものならそっちでやることも多い。


 ルーグはというと、見落としがないかもう一度確認してからお茶を淹れ始める。今日はフレーバーティーにしようと決めて缶を取る。


 お茶を淹れ鍛冶師のいる店側にいけば、鍛冶師が黙々と何かを作っていた。


「はい。……それ、ジュエルフィッシュだよね」

「おう。ジュエルフィッシュ手に入れたらずっと作りたかったんだよな、これ」

「贅沢」


 自慢げに見せられて、ルーグはポツリと呟く。

 ジュエルフィッシュは帝国なら大抵どこにでもいるらしいが、生息数が少ないため出会うことすら稀だと前にオーウェンが言っていた。


 鍛冶師はずっとジュエルフィッシュの素材が欲しいとは言っていたがよく分からないこんなものを作るとは。


 長細い紐に一定間隔で小さく加工されたジュエルフィッシュのウロコが取り付けられていて、鍛冶師はさらにそれを伸ばしていく。


 2mほどの長さになるとジュエルフィッシュのウロコも少なくなってきたため作業を止めた鍛冶師は、完成したばかりそれを持つとルーグを連れて2階の自室に向かった。


 カーテンがあるのは2階だけなので暗く出来る部屋がそこしかないからだ。

 部屋の上の方にそれを飾りつけると鍛冶師はカーテンを閉めて部屋を暗くしてから魔力をそれに流した。


 するとジュエルフィッシュのウロコがチカチカと光り出し、それからゆっくりと点滅を始める。早い話がイルミネーションだ。


「わぁ、すごい……」

「だろ。試作だからこんなだけどな、もうちょい設定いじりゃもっと楽しめんぞ」

「そうなの?」


 おうと返した鍛冶師は素材なら増やせるからなとカーテンを開けながら、窓の外に見える洞窟に視線を向けた。


「つーわけで手伝え、ルーグ」

「うん!わかっ――初めからそれが狙いだったんだ」

「お、賢くなったなー」


 そう言ってルーグの頭をわしゃわしゃと撫でた鍛冶師は、行くぞとジュエルフィッシュの素材を箱に入れて洞窟の前まで移動すると箱ごと押し込んだ。


「じゃ、ルーグ頼んだ」

「うん。この前よりは楽か」


 前回より軽い素材という事もあるが、鍛冶師がちょっと改良したのでボタン1つで箱を移動させることが出来るので良くなった。

 まぁ、たまにレールに乗らず失敗することもあるが。


 1回目のジュエルフィッシュの討伐を終えた鍛冶師が何故か息を切らして洞窟から出できた。


「おかえり。随分と早いね」

「おうよ。思ったより速ぇあいつら」


 どうやら小さい上すばしっこいため厄介ということらしい。しかも魔法が効きにくいために物理でやらざるを得ないと言う。


 面倒だといいながら装備を変えた鍛冶師は再度洞窟に向かった。その手には武器ではなく虫取り網となるものが握られていた。


 箱を送り返す間隔は前回よりも早い。

 しかも、洞窟からなんの音もしないので中の様子がまったく分からない。まぁ何かあれば洞窟から追い出されるらしいので大丈夫なのだろうけど。


  かなりの量のウロコが集まるとジュエルフィッシュ討伐を切り上げ、イルミネーション作りを再開する。


 1ヶ月ほどかけて出来上がった改良版は一つ一つ色が変えられるなどかなり高性能なものになっていたが、ルーグとたまたま用事で来てそれを見たウォルバークは技術の無駄使いだと呆れていた。

ジュエルフィッシュ


帝国にのみ存在するモンスター。

魔力耐性が高く、ほぼ魔法は効かない。


ウロコは宝石のように輝いていて魔力を流すと光り出す。


滅多に姿を現さないため素材は高価で取引される。

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