ブレイクタイム3
さて、シーナにより鍛冶屋から引きずり出されたフィリーはというと――。
「………………」
職人街で行きつけの酒場で頬を膨らませて完全に不貞腐れていた。
ぶすくれた表情でジュースを飲んでおり、美人な冒険者と言われているはずの顔は見る影もなく、ただただ子供っぽいとしか言いようがない。
飲み物が酒でなくジュースなのはフィリーが成人してるとかしてないじゃなく、フィリーの酒の弱さを知った鍛冶師が止めたからだ。
ただそれにはシーナたちも賛成だったこともありパーティー内ではフィリーの禁止事項として成立した。
例え短時間でもフィリーが暴れると尋常ではない被害がでる。他のガラの悪い冒険者に絡まれた子供を助けるためだったが酔ったフィリーは少々見境がなくなる。守るべき対象はしっかり認識しているようだったが。
「全くいつまでそうしてるのよ」
「だって……ルーグが」
ルーグばっかりいい所を見せて、私だって褒められたいのにとぶつくさと言っている。
「そこだけ時間が止まってるのはなんでかしらね」
「あはは。ずっと会えなかったからとか?」
普段から天然純粋気味なフィリーではあるが、鍛冶師が絡むと精神年齢はかなり幼くなってしまうのがフィリーだ。
何故か鍛冶師と別れてから、そこだけ時間が止まってしまったらしい。自分を助けてくれた英雄というのをずっと変わらずに持ち続けていたいたからかもしれない。
なにもかもが変わっていく中でフィリーのその心だけは、何も変わることなくあり続けた。
「それにしてもって、そうよね。純粋すぎるものね、フィリーは」
「うん。そうだね」
仕方ないかと息を吐いたシーナは注文していた酒を煽った。ガラドはシーナがツマミに頼んだ塩気のある料理をつまむ。
こうなるとわかって連れだしたのだからシーナも覚悟はしていたが、やはり面倒くさい。しかし、あの場にフィリーを置いたままにしておくのも色々とジャマになると判断して連れだしたし面倒は見るけれど。
「とりあえず、ロイ君の次の目標でも考えようか」
「そうね。フィリー、やるわよ」
「……うん」
気持ちの切り替えが出来ていないフィリーの返事は覇気がなく、飲み干したジュースに入っていた氷を飴のようにカラコロと舐めている。
「これはルーグ君じゃなくてフィリーじゃないと出来ないことって思うよ」
「あーそうね。これは完璧な案だと褒められ――」
「頑張る」
ガラドとシーナの言葉に乗せられたフィリーは、ふんすっと気合いを入れるとやる気を見せた。ロイの指導を頑張ればまた鍛冶師に褒めてもらえるならやるしかない。
それにこれはルーグにはできないことなんだから。
しばらくは遠征場所を変えながら徐々に強くモンスターの出現場所に行くという方針に決まった。
どんなに才能があったとしても順序から外れて強くなることは出来ないのだ。飛び越せることはあるかもしれないが、それは元々持っていた技能であるからだ。
次の目標も決まり宿に戻ろうとフィリーたちは酒場を出る。珍しくシーナも3杯ほどの酒で切り上げた。
「あ、フィリーさん。ちょうどよかった、宿に向かうつもりだったんだ」
鍛冶屋からの帰りであるルーグが声をかけてきた。
「ルーグじゃない。どうしたの?」
「これ、あいつが渡しそびれたからって届けに行くの頼まれてさ」
ルーグがフィリーに差し出したのは小さな巾着で受け取ったフィリーが開けると中にはひとつずつ包装された大ぶりなアメが入っている。
どうやら鍛冶師はシーナがフィリーを連れ出さなくてもフィリーを大人くしくさせる手段を用意していたらしい。鍛冶師が時々作る大ぶりなアメは主にフィリーにじっとしてもらいたい時に使用される。
「この前食べたいって言ってたから作ってたみたい」
「ありがとう、ルーグ。ルーグにもあげるね」
「え、いいの?」
ニコニコとしたフィリーは数粒巾着からアメを取り出すとルーグの手のひらに乗せ、ルーグは戸惑い気味に確認を取る。ルーグのことを目の敵にしていたフィリーとはすでに和解済みだが、いまだにルーグの中では出会ったばかりの頃のフィリーがいて頭の中で渦巻いている。
「なーに子供が遠慮してんよ!」
「フィリーの気が変わらないうちにもらっちゃえばいいと思うよ」
シーナとガラドからの援護射撃を受けたルーグはまだちょっと戸惑いながら受け取る。フィリーたちのパーティーは職人街の鍛治長の息子のルーグではなく、ただの子供のルーグとみてくれるので他の大人たちの言葉よりは素直に受け取れる。
「じゃあ、ありがとうフィリーさん。オレもお菓子持ってるから交換で」
「ありがとう」
お菓子を交換したルーグは1度やってみたかったんだと笑う。同世代の子供は職人街にもいるが皆弟子入りをしていたり、店の手伝いをしていたりするので忙しく、ルーグのように何もしていない子供は珍しい。だから遊び相手というとほとんどいない。
「ルーグ、明日も来るわよね」
「うん。お弁当届けなきゃいけないし」
「明日はお菓子持ってきなさい。少しずつ持ち寄って食べましょ」
気になるけど食べるのが怖いお菓子があるから買ってくるわとシーナが言って、フィリーやガラドも楽しそうだとそれに乗る。
パーティーとして一緒にはいるが持ち寄ってワイワイ楽しむことはないらしい。
「負けないから」
「え?あ、うん。美味しいの持ってくるね」
フィリーにライバル認定されたルーグはいつものことかと笑って受け流すと帰路についた。
それを伝えられたアルゼルは商人の名にかけて優勝してみせますと張り切っていた。別に勝負はしてないのだが。
職人街の子供たち
大抵みんなどこかに弟子入りしているため、職人街では子供たちの喧騒が聞こえてくることは滅多にない。
友達より同僚や先輩などの方が職人街の関係性では多ため、ルーグのような子供珍しい。
ちなみにルーグが鍛冶師やフィリーたちとの関係性はと問われれば、たぶん友達?である。




