21 ロイの実力
「使えそうな材料はっと」
鼻歌交じりでロイの持ち帰った素材を確認していく鍛冶師は上機嫌だ。
かなり豊作だったこともあるが、質のいい素材が多かったのも理由の一つだ。
「キラービートル、火炎ネズミに、渦巻きカエルと、上々だな」
「冒険者も少なかったからいっぱい戦えたよ。クイーンスネークが出てきた時は大変だったけど」
道中の話を楽しげに話すのはフィリーだ。
まるで幼い子供のように鍛冶師にどんなことがあったのかを伝えている。遠征中の凄腕冒険者の面影はどこにもなく、ロイでは倒せないようなモンスターの話をしては褒めてオーラを全開にしている。
「そーか、クイーンスネークまで倒せるようになったのか。成長したなぁ、フィー」
「えへへ。指導もちゃんとやったんだよ」
「おーえらいえらい」
少々適当に受け流しつつ鍛冶師はフィリーの頭を乱暴に撫でる。完全に小さな子供扱いだがそれにフィリーは不満を唱えることはしない。むしろ満足気ですらある。
この遠征中にフィリーたちから鍛冶師の話も聞いていたのでフィリーが鍛冶師に拾われて数年間一緒に旅をしていたのは知ったが、勇ましいフィリーしか見たことのないロイからすると衝撃を受ける。
「いつもああだから、フィリーさん。初めて会った時は目の敵にされてたし」
「そうなんだ。フィリーさんって意外と……」
「子供っぽいよ。鍛冶師のことになるとすごくね」
ロイの言葉の続きを言ったルーグは鍛冶師が散らかし始めた机の上を整理しに行く。このままじゃ置き場がない上、カップをひっくり返されそうだ。そうなると掃除が大変だし。
「うーし、今回は全部一通り新調だな。あと弓な」
「その前に片付け!」
「手伝う!」
ロイが持って帰ってきた素材から必要なものだけを回収した鍛冶師が奥の部屋に向かうのを服を掴んで引き止めたルーグは、鍛冶師に対して叱るような声音で片付けを指示する。ルーグじゃ今後必要そうなものは分からない。質の善し悪しの仕分けなら少しは出来るが。
面倒臭そうな顔をする鍛冶師のそばではフィリーが手伝うと張り切っていたが、シーナに甘やかしたらいけないと引きずられて店を出て行った。2人が心配なガラドも一緒に。
「ロイはまだ帰るなよ。片付けてる間アルゼルと矢の相談でもしててくれ」
「矢のメニュー表です」
ロイのアドバイザーを買ってでているのでアルゼルも断らないだろうとルーグはさっさと渡す。商人というのもあるがアルゼル自体、かなり消耗品を使った戦い方をするので消耗品についての相談には適している。
嫌がるなら条件を引き合いに出してしまえばいい。
「普段は普通の矢でいいとは思いますが、やはり不測の事態に備えて他にも持っておくべきでしょうね」
「は、はい。不測の事態……」
アルゼルは頷くと不測の事態についてロイに説明をする。
本来の生息域ではないところに出現したモンスターや、突如襲ってくる野盗など。戦うにしろ逃げるにしろ対策もなしでは切り抜けることは難しい。
「少々痛手にはなりますが、生き抜くためには変えられませんからね」
「そう、ですね」
覚悟を乗せるようにロイは手のひらをぎゅっと握りこんだ。祖父の形見を直すためもあるが故郷の村のために冒険者になったのだ、無事に生き延びなければならない。せめて、打開策が見つかるまでは。
ロイとアルゼルの話を聞きながら、ルーグは鍛冶師の手伝いをしながら鍛冶師に尋ねる。
ロイが来てから半年ほどだが、強いモンスターの名前は聞かない。もちろん新米がすぐに行きつくレベルではないのはわかっているがスパルタ教育もあるので少しはと思うのだ。
「ロイはグリフォンに手が届きそう?」
「どうだかな〜。持ち帰った素材のレベルでいやぁ瀕死のグリフォンに一撃与えられるかもって程度だな」
現時点でロイのグリフォン討伐は不可能に近いということだ。鍛冶師は気休めを言っても仕方ないとこういう時は事実を伝える。例え、当人が隣にいても関係なく。
「そう言った話は奥でして頂けますか」
「いえ、事実だからいいんです。もっと強くならないと」
歯に衣着せぬ結論を言ってのけた鍛冶師にアルゼルは言葉を選べと訴えるも、ロイは平気だと小さく笑った。
初め店に来た時から言われていたことだ。むしろ、今の自分の実力が分かるのだからそれでいい。グリフォンを倒すなんて荒唐無稽な話だと自分でも思っている。
「だからって諦める必要もないだろ。力量差をひっくり返すってのは不可能なことじゃないわけだし」
「まぁそうだよね。じゃなきゃ人間がドラゴンとかに勝てる道理もないわけだから」
そう、バカ正直に正面から正々堂々と戦う必要もないのだ。
勝たねば死ぬような戦いに生き延びるための戦略を誰が卑怯だと罵れるものか。
どれだけ泥臭くても冒険者は優雅さにこだわる必要はない生き延びれば勝ちなのである。
職人街で生まれ育ったルーグはそれをずっと見てきているので知ってる。
常にそういった戦い方を好んでいる人間がいることも。すぐ近くにいるのだ、そういうやつが。
「そーゆーこと。つっても相手の動きも分からないようじゃ何も出来ずに終わるけど」
だからこそある程度の実力はつけなければならないのだと鍛冶師は最後の素材を片しながら言う。
そうしなければ何が起きたかも分からないうちに勝負は終わってしまうのだから。
クイーンスネーク
巨大なピンク色したヘビ。
森の中に一体は必ずいると言われていて、気配がないため突如として襲われることが多いのが特徴。
ウロコは魔法を通しにくいため対魔法装備によく利用される。




