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19 紹介状持ち冒険者

 ロイの遠距離攻撃の手段も決まると、フィリーたちは少し遠くまで行ってみることを提案した。

 今まで違い本格的な遠征だ。


 人の往来が多いために安全がそれなりに確保されている職人街の辺りを離れると、それなりに危険が付きまとう。冒険者を夢見る子供たちが憧れるような世界である。

 もっとも、それを冒険者(本人)たちは英雄願望(死にたがり)と言っていたりするが。


 そうなると街の離れにある変人鍛冶師のいる鍛冶屋は閑古鳥が鳴くわけで……。

 毎日お弁当を届けにきて居座るルーグと2人きりだ。


 そんな日々が続く中、今日は珍しく客が来た。

 別の鍛冶屋からの紹介らしく、そこの鍛冶師から手紙つきでやってきた中年の冒険者だった。


「つーわけだ、頼んだぜ兄ちゃん」

「ちょっ待て!確かに俺なら直すのは可能、なんなら朝飯前とか言えんぞ。けどなぁ……」


 店にはカウンターがないのでひとまずソファに座っての話し合いとなり、ルーグは時間がかかるだろうとお茶の1杯でもと用意をする。ここに来るまでの階段もかなりの段数なので一息という気遣いでもある。


「なんだ、ハッキリ言ってくれ。オレは怒らねぇぞ」

「んじゃお言葉に甘えて。直せたとて、一緒に冒険に行くのは無理だ。こいつには別れを告げて新調した方がいいくらいだな」

「――なんてこと言うんだっ!相棒だぞ!!」


 冒険者の言う通りハッキリと鍛冶師が告げれば冒険者は机をだんっと叩いて鍛冶師に食ってかかる。


 冒険者は初心者を抜ければ大体は強化をして同じ武器を使い続けることが多く、長く連れ添ったものだから相棒というのも頷ける。もちろん壊れて新調することもあるが、手に馴染んだものを大変な理由もなしに手放すことはしない。


「怒らねぇつったろ。まぁ座れよ、ルーグが淹れた茶が零れる」

「あ、ああ。すまん」


 鍛冶師がルーグの名前を出したことで冒険者の勢いは止まる。長年この街を拠点にしている冒険者たちの間ではルーグは有名なのだ。


 なにせルーグの父親はこの街の鍛冶長であり、よくルーグは父親の後ろをついて回っていたので有名だ。そうじゃなくてもこの街で1人で歩く子供も珍しい。


「この街じゃ当たり前の光景だから大丈夫。あのさ、割って入るんだけど、くらいってことはなにかあるんでしょ?」

「おうよ。世話んなってるとこだし無理で終わりすんのもちょっとな。つーわけで――」


 俺が出せる案は2つだと鍛冶師は指を2本立てて、まずは1つ目だと反対の手で人差し指を触った。


「解体して使えそうな素材を新しいの武器の素材として使う。使えそうなのは3割ってことだな」

「少ねぇな」

「言っとくが俺が解体(やって)3割だかんな。大将で1割届くか届かないかじゃねぇか」


 普通は武器の解体なんてしないのでその数字もおかしなことは無い。解体したところでまともに使えるのは鉄などの金属部分くらいなのだ。


「父さんでもそれくらいなんだ」

「推定だけどな。で、もう1つは第2武器ってわけじゃねぇけど、ナイフとかに加工するってもんだ。食材切るにゃ上等だな」


 実際、フィリーが使っていた初めての武器は本人の手離したくないという思いもあって、今は調理用のナイフとして再利用されている。

 形は変われど中身はそのままなのでフィリー曰く使い心地はいいらしい。


「そう、か」

「ま、話し合う時間は必要だな。大抵ヒマしてるからいつ来てくれてもこっちはすぐ仕事するよ」


 自分のできる提案を伝えた鍛冶師はそう言ってお茶を飲んだ。


 思い入れのあるものだから決断も難しい。いっそ手の施しようがないほど壊れていればまだ諦めもつくのだろうけど、今は形を保っているからこそ大丈夫だと思いたくなる。


 決断に時間がかかると思えば、冒険者は頬をバチンと叩いてすぐに答えを決めた。


「……まさかお前の方が先にくたばっちまうとはな。ナイフに加工してくれ。新しい相棒とまた頑張るさ」

「よしきた!今日からやって3日後だな。要望があれば今のうちに言っといてくれ」


 鍛冶師と冒険者は交渉成立とハイタッチを交わし小気味良い音が鍛冶屋に響いた。


「そうだな、こいつを生かして貰えるってぇならどんな形でも構わねぇ」

「んじゃ、それで」


 冒険者が帰ると、鍛冶師は冒険者が持ってきた斧を気になることがあると観察し始める。これから加工するにも使われた素材を知っておくのも大事な事だ。


「あー、このままってのもな」


 斧をまじまじと見ていた鍛冶師に釣られるようにルーグも斧をを見る。ルーグの目ではかなり使い古されたものだと言うことくらいしか分からない。


「なにか手を加える気なの?」

「装飾。ま、さすがに変な機能はつけねぇよ。アルゼルのじゃあるまいし」


 どうやら使っている間に消えてしまった装飾などを復活させる気らしい。鍛冶師なりの気づかいだろう。しかし、そんなことをしようしている鍛冶師にほとんど執着心というはないのだが。


「さーてと、いっちょやりますか」

「それじゃあオレは帰ろうっと。明日また来るね、誰も来ないだろうけどね」

「それを言うなっての。ま、それがうちの店だけどな」


 ルーグは冗談半分で笑って言って、鍛冶師はツッコミながらもその通りだと返した。

 今はロイのことがあるためフィリーたちの出入りも多いが、そうじゃなければ数ヶ月に客が1人なんてこともあるのだから。

ウォルバーグ


ルーグの父で職人街で各分野のトップに与えられる長の称号を持つ。


鍛冶師としては厳しい一面を持つため才能がないルーグに鍛冶師として未来はないとキッパリと言い切った。


現在はルーグが鍛冶師の元で明るく元気に過ごしていることを嬉しく思う反面、あの鍛冶師に懐いていることに複雑な気持ちを抱えているようだ。


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