17 次の方針
「それで今回は飛ぶモンスターにしようと思うの」
ロイの育成方針についてシーナが意見を出した。
作戦会議をここでするなとでも言いたげに部屋の壁際に置かれた大きな箱の上でだらける鍛冶師をよそに、フィリーたちの会議は続く。
ロイは鍛冶師がお使いを頼んでいるため不在だ。おそらく伝言ゲームとたらい回しが合わさって街中を走り回っていることだろう。
「グリフォンが目標だし、慣れておくためにもいいんじゃないかな」
「ええ。手の届かない相手との戦闘は必要です」
大きな方針が決まったところで次はどのモンスターに挑みに行くかと話し合いが始まり、鍛冶師は大きなあくびをして4人の会議を眺めていた。
「大変だなぁ」
「自分はやらないからって気楽なこと言って」
工房の掃除を終えたルーグが奥に行ったついでとお茶を淹れてやってくる。鍛冶師のつぶやきに呆れたような反応をする。
「ん、まあな。つっても必要なら口出しっすけど」
あいつらの仕事だろとルーグからカップを受け取った鍛冶師は言う。冒険者として暮らしてきたフィリーたちの方がよほどモンスターや地形など詳しいだろうと付け足して。
「フィリーさんたちの方が詳しいのに?」
「詳しいのに。まだまだひよっこだからな」
若くして高ランク冒険者になったフィリーたちを鍛冶師はそう評価しているらしい。
鍛冶師曰く、順調すぎるとのことだ。個々の実力は問題ないらしいが、避けられない事態など不足の事態への経験値が圧倒的に足りないと言う。冒険者になった期間を考えれば仕方ないが。
「こればっかりはすぐどうにかなるもんでもねぇけど」
それだけ言うと鍛冶師はルーグの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、お茶が冷める前に渡してこいと促した。
「まずは魔法の習得ですね。ロイさんの適正によって相手を決めることにしましょうか」
「そうね。その方がいいかも」
話が詰められていく中、ルーグはフィリーたちのいる机にお茶を運ぶ。今日はフルーツティーだ。
「ありがとう、ルーグ君」
「うん。オレにできる少ないことだから」
控えめに言って笑うルーグはフィリーたちの邪魔にならないように下がると、鍛冶師の近くに座って鍛冶師に飛ぶモンスターについて尋ねてみる。
「飛んでるモンスターっていうと……」
「主に鳥と虫系だな。ドラゴンもいるけど今回は除外して、あとは例外で羽の生えたやつな」
「えっと、一角兎に羽が生えたみたいなやつ?」
そうそうと頷いた鍛冶師は職人街の周りに生息する該当モンスターを列挙し、練習にはちょうどいいだろうと語る。
「ま、飛んでるやつもゴブリン同様、新米にとっての鬼門にもなんだよ。特に前衛系にゃ」
「あ、そっか。剣とかだと攻撃が届かないから別の方法が必要なんだ」
鍛冶師の言葉からそう呼ばれる理由を導き出したルーグだが別の方法が魔法以外で思いつかず、鍛冶師に聞く。
「魔法以外思いつかないんだけど他にあるの?」
「定番は飛び道具な。あとは飛ぶ斬撃とか、同じ高さまで跳躍するとか」
「後半は信じられないんだけど」
ルーグは疑いの眼差しを鍛冶師に向けるが、鍛冶師はマジで出来るやつがいるのだと笑う。
ごく稀にそんなことをやってのける人物いるらしいが、そんなものルーグは聞いたこともない。飛ぶ斬撃については魔剣にあるが鍛冶師が言うのはそうじゃない。
「滅多にいるもんじゃないから気にすんな」
「そーする。でも、だとするとロイだと魔法?」
「だろうな。道具じゃ色々面倒」
金銭面などのこともあるが魔法の方が後々のことを考えるといいと鍛冶師。
「言っても魔力量との掛け合いで決めねぇとな。使いすぎてぶっ倒れたなんてことになりかねないんだよ」
「あー、初心者がよくやるやつか。その辺はフィリーさんたちがいるから心配はなさそうだけど」
まぁなとルーグに同意した鍛冶師は、一応飛び道具も用意しておくかと立ち上がったが保管場所に目星もつかずルーグを呆れさせるのだった。
グリフォン
飛ぶモンスターの代表格。
好戦的なため草原などで出会うと逃げるのが難しいため大変なことになる。
グリフォンの素材は装備が軽くなる効果があることから冒険者に重宝されている。