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13 ゴブリン退治は

「ごめんなさい……」


 机の上にはボロボロになった装備が置かれ、ロイは申し訳なさそうに鍛冶師に謝罪をするが、鍛冶師はケタケタと笑って気にしていないようだった。


「あー、笑った。どんな大冒険してきたんだ?」

「もう、そんな言い方しなくたって」


 ルーグが鍛冶師を窘めるが、ロイは装備をボロボロにしたことに罪悪感を持ちすぎて反応していない。

 シーナは気にし過ぎだとバッサリとしていて、ガラドは気持ちは分かるけどとロイとフォローしている。


「大方っつーか、ゴブリン(あいつら)の卑怯な手に振り回されて来たんだろ」

「うん、そう。太刀打ち出来るだけの力はあると思うんだけど」

「互いに正々堂々でしたら出来たかも知れませんがね」


 ゴブリンが新米冒険者の鬼門と呼ばれるのにはいくつかの理由がある。


 まずは人型であること。

 モンスターだと割り切れてしまうしまう人たちもいるが、ただのゴブリンは他のモンスターと比べて皮膚の色こそ違うがより人に近い姿をしているために初めは躊躇ってしまう冒険者たちも多い。


 次に新米冒険者に適したモンスターの中では知恵があり、武器を使ってくること。

 ゴブリンは基本的に正面切って戦うモンスターではなく、コソコソと陰湿な手を使ってくるために捌ききれない新米冒険者が多いのだ。


 特にロイのような割と真っ直ぐさが目立つ人物にとっては相性が悪く上手く戦えない。アルゼルや鍛冶師たちの懸念はそこにあった。


「修理はすっけど、対策打たねぇと繰り返しになんぞ」

「そうなのよね。悠長にしてる時間はないんだし」


 鍛冶師の言うことにシーナは頷く。やっているうちに慣れてくるでは遅く、どうすればいいか頭を悩ませるのはシーナだけではないのだが、1人だけすで方針が決まってるやつがいた。


「実践あるのみ、だよ」

「うん、さすがフィリーさん」


 少々脳筋なフィリーだ。

 ルーグは褒め言葉として言ったわけではないのだがフィリーは照れてはにかむ。パーティーメンバーは呆れているようで突っ込む気もないらしい。


 とは言え、慣れるしかないのでフィリーの言う通り実践でなんとか身につけてもらうしかないのだが、どう考えても今のロイにやりすぎになるだろう。


「俺は修理してくるけど。ルーグ、回復薬の準備だけはしとけよ」

「あ、うん。確か赤い棚の中だったよね」

「多分な〜。なかったら適当に探してくれ」


 言い残すとすぐに奥に入っていった鍛治師はすぐに作業を開始し、フィリーたちはロイとゴブリン対策のための模擬戦を開始した。ルーグは工房に入ると急いで回復薬探しを始めたのだった。


「わー、一方的」


 回復薬を抱えて庭に出ると、フィリーに手も足も出ずやられているロイの姿があった。

 この前と違って正面から打ち合わなくなるだけでここまで一方的になるのかとルーグは驚きを隠せないが、コソッとシーナが教えてくれる。


フィリー(あの子)はああいう戦い方性格的にやらないだけで出来るのよ。身近にそういうやつがいたからやり方分かるんだって」

「あー、鍛冶師(あの人)か」


 ルーグは妙に納得した。

 フィリーは昔、鍛冶師と一緒に旅をしていたらしく、鍛冶師のやりそうなことをやればいいだけらしい。そうは言っても真似するのは難しいだろうけど。

 だって鍛冶師は全てが我流で、生き抜ければいいと言う戦い方をする。


 ガラドが試合を止めて、ルーグはロイに回復薬を渡しに行く。フィリーは息切れすら起こしてないので必要ないだろう。一太刀も浴びてないし。


「はい、これ」

「ありがとう、ルーグ」


 傷だらけのロイは回復薬を飲んでその場に座り込んだ。ルーグはその隣に座るとつぶやくように言った。


「大変そうだね」

「うん。でも乗り越えなきゃならない壁だから」


 やらなければならないなら仕方がないとロイは笑う。


「そっか」

「うん」


 それからルーグは思い出したことがあると、少しでもロイの助けになりそうなことを伝えることにする。


「あ、そうだ、鍛冶師(あいつ)が前に言ってたんだけど、卑怯な手ってのは弱者の生き延びるための知恵なんだってさ」


 実際、能力的に劣っていても強い相手に勝つことは可能だ。策を巡らせることができるのであればなど条件はつくのだが、そうじゃなきゃ人間がドラゴンなどに勝てるわけもない。


「ありがとう、ルーグ。もう少し頑張ってみるよ」

「うん。頑張って」


 ボロボロになっては回復を繰り返し外が夕焼けに染まった頃、鍛冶師が庭にやってきた。修理も終わったのでロイの調子がどうか見にきたらしい。


「いやー思ってたよりボロボロだな。ま、慣れるしかないかんな」

「そうですね」


 座り込んだままのロイが鍛冶師の言葉に頷いた。疲れすぎて動く気力も今はないらしい。


「不意をつく戦略であれば、適任は私たちではないのですがね」

「ほー、誰かいんのか?」

「あんたよ!」


 シーナに言われ、渡りをぐるりと見た鍛冶師は全員の視線が自分に向いているとわかると照れるぜと頭をかいた。


「前から思ってたんですけど、鍛冶師さんはかなり強い人なんですか?」


 どうにもルーグやフィリーたちの会話を聞いているとこの鍛冶師は戦えるだけの強さがありそうだ。一流の鍛冶師は自分の扱う武器を使えるだけの能力があるとも耳にしたこともある。


「あー、俺は」

「――強いよ、私よりもずっと」


 鍛冶師が何かを言うより先にフィリーが強いと宣言をする。そしてシーナやガラドがウンウンと頷いていて鍛冶師はお前らなぁと否定をする。


「俺は弱いっつーの。どこをどうしたらフィーより強いんだよ」

「少なくとも僕らは1度も勝てたことはないかな」

「そうよ。だいたい、ドラゴン1人で狩れるやつを弱いなんて言わないわよ」


 やる気を見せない鍛冶師に対しフィリーが勝負と木剣を振るうが鍛冶師は、フィーには武器なんかと向けられるかとかわし続けるため、フィリーはガラドとバトンタッチする。

 その途端、鍛冶師は瞬時にガラドの足元を払ってガラドを倒すと頭を軽く小突き試合を終了させた。


「すごい……」

「ったく、正面切っての戦いは専門外なんだよ。仕込みをさせろ、仕込みを!」

「そんなのしなくても勝ててるじゃない」


 シーナの突っ込みを無視した鍛冶師は明日に向けてしっかり休めとロイたちを店から追い出し、店に入ると帰る支度するルーグが呆れるように言う。


「戦いたがらないよね」

「まぁな、どこでだか人様に刃を向けてはいけませんって言われてきたかんなー。少なくとも俺は向けられる覚悟はしたくねぇな」

「なにそれ」


 短く返したルーグは空になったお弁当の包みを持つとまた明日と残し鍛冶屋を出ていき、ルーグを見送った鍛冶師は明日は暇かもなとこぼして大きく伸びをしたのだった。

ゴブリン


主に森に生息するモンスター。


モンスターには珍しく武器を使う。弱いが陰湿な手を使うため厄介。

群れが増えると強いゴブリンが生まれる。


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