3 ナナシの弱点?
対峙をしているだけなのに、ピリピリとした戦いの緊迫さが伝わってくる。
地面を蹴ったフィリーは、一気に間合いを詰めるとナナシに斬りかかった。
しかし、ナナシはそれを冷静に腕につけた盾で受け止めるとフィリーの足を払う。
フィリーは咄嗟に体制を整え、回転する勢いを利用して素早い斬撃を繰り出すが、ナナシは手にした短剣型の木剣でそれをいなした。
「まだまだ……」
「昔よか確かに強くなってはいるか」
ナナシへ一撃食らわせようと必死に攻撃を繰り返すフィリーの技はナナシに届かない。
実力差があるというよりも、太刀筋が分かりやすいフィリーと手の内が分かっているナナシだからである。
剣を弾き飛ばされたフィリーは素手での戦闘に切り替えナナシに腕を伸ばした。ナナシはその腕をシールドをはめてフィリーの動きを封じるとおつかれと言ってニッと笑った。
「連戦なら疲弊して勝てるかとも思いましたが」
「上手くいかないものね」
「さすが幻影の森を生き抜いてただけあるなぁ」
悔しさを滲ませながら3人がそれぞれにそうこぼした。
ナナシが戻ってくるとルーグは冷たい水を差し出した。それから負けて恨めしそうにナナシを見るフィリーにも水を持っていく。
「フィリーさん、お水どうぞ」
「ありがとう、ルーグ」
一気に水を飲み干したフィリーは立ち上がるとナナシにもう1回だと声を上げたが、ナナシは時間だとルーグに持たせていた砂時計を指さした。
フィリーたちはナナシに手合わせを申し込んでいて、ナナシは装備のメンテナンスもあるので1日1時間ならと了承した。
ナナシが時間を設定したのは、もちろんフィリーたちの装備のメンテナンスもあるのだろうが、おそらく魔力循環異常による身体の不調を出さないためだ。
「強くなったと思うんだけど」
「まだまだしっかりした一撃は難しいね」
鍛冶屋の中に入るとフィリーたちはどう立ち回るべきだったかと反省会を始める。ナナシは非常に高い壁だ。
多少のナナシに当てられるようになったものの、確かなダメージの一撃となると誰も当てられていない。
ルーグはお茶などを用意しながら、ナナシたちが使った武器の手入れをしていく。
どうしてフィリーたちがこんなことをしているかというと初心に帰るためだ。今フィリーたちは新米冒険者だったころの場所に向かったり依頼を受けているらしい。
最古の龍に会いに行ってから自分たちの強さに思うところがあったらしい。
世間では実力者パーティーだともてはやされ、特集を組まれる程で、自分たちもそれなりに強くなったとは感じていた。
しかし、幻影の森に挑めばなんとか勝てるというもので、しかも後から知ったがあの森でフィリーたちが戦ったのは比較的弱いとされる若いモンスターで群れのボスたちは一切出てきてなかったのだ。
もし遭遇して戦っていたらおそらく自分たちではあの森を攻略出来ずに終わったことだろう。そもそもナナシの手を借りていなければ無理に終わったと断言出来る。
そうして、いくつかの依頼を経て初心に帰るべくナナシにも手合わせを頼んだのだ。
「ルーグ、弱点とか知らない?」
「あんたの方がわかるんじゃないの」
「そもそも、聞くようなものではありませんよ」
正攻法では難しいならとフィリーはルーグに問いかける。シーナの言うようにルーグもフィリーの方が詳しいとは思うが、それでも分からないからということらしい。
それに関してアルゼルは止めるが、敵を知るのは大事なことだとフィリーに押し切られる。
「苦いものが苦手なのは知ってるけど、そうじゃないもんね」
日常生活での弱点では戦闘において役には立たない。ルーグもそれが分かるからうーんと悩む。
「あ……」
「あった?」
「う、うん」
心当たりにルーグはそれを言ってもいいものかと躊躇いがちに口にした。
「前にね、ナナシが言ってたんだけど」
「うん」
「対人戦が1番苦手だって」
格上ばかりの環境で手加減など一切不要、全力を出さなければ勝てるかどうかというモンスターばかりだっただけに、加減が大事な対人戦は苦手らしい。
レインやドリアードなどモンスター以外も、人間が全力を出したところで痛み、いや、かゆみすら感じてもらえないのだから。
攻撃をしたと認識されるだけでも上等なくらいだ。
「つまり、今のままが弱い状態となりますね」
「確かに弱点かな」
「手を抜かれてると思う釈然としないけどね」
図らずともナナシの弱点をついていたということになるのだが、それでいて埋まらない実力差にシーナたち3人はため息をついたが1人、違う反応をしているのがいた。
「じゃあ、もっともっと頑張らないと!」
フィリーだけが前を向いていた。
弱点をついているのにまだまだ強いナナシにしっかりとした一撃をいれるためにももっと強くならなきゃと。
「そうね」
「うん」
「対策の練り直しですね」
フィリーにつられるようにシーナたちも前を向いた。
まだ装備の手入れが終わるまで時間はある。
それまでにどうにかしっかりした一撃をと、フィリーたちは作戦を考え始めるのだった。
群れのボス
モンスターは強いのがボスとして君臨するため、常に下克上には警戒しなくてはならない。
ボスになるほどのモンスターは多少なりとも頭が回るということなので、人にとっては非常に厄介である。




