ブレイクタイム15
ローワンが領主の家で養子の話を聞きに向かったその頃――ナナシの鍛冶屋では。
いつも通りにルーグは来ていて、やることもないからとシーナたち3人が遊びに来ていた。
9割ほどはルーグの遊び相手になるためなのだが、まぁそれは秘密だ。
ルーグはシーナたちが来るとナナシの言った通りだったとちょっとだけ驚いてからすぐにお茶を淹れに向かった。
「今日はどうしよう。ナナシもローワンさんも疲れて帰って来るだろうし……」
今日は水出しのさっぱりめにしようと魔法を使って水冷やし、その間に使う茶葉を選んでおく。
どの道、あの階段を登るのならすぐに飲めた方がいいだろう。
それから多めに淹れたお茶を店側に置くと、コップを取りに向かい、それぞれのコップにお茶を注いだ。
「ありがとう、ルーグ」
「今日は水出しですか」
「うん。ナナシは一仕事終えたときは冷たいのだから」
その気遣いがルーグらしい。
本人はそれが長所となることに気がついていないけど。
「そっか。いい話し合いになるといいけど」
「そうね。いい話なのは確かなんだけど、ローワン次第よね」
そう言ってガラドたちは窓の外を見た。
モンスターに襲われたり、口減らしで捨てられたりで孤児になる子供も少なくはない。
見慣れたは言い過ぎでもシーナたちも数多く見てきているのも確かで、だからこそ少しでも幸せになって欲しいと願っている。
特に話を聞く限り親になりたいという2人はいい人のようだし。
「あ、ねぇシーナさんたちってどんな子供だったの?」
フィリーの子供時代の話を聞いて、なんとなくシーナたちの子供のころも気になったらしい。
詮索しない方がいいのかと少しルーグも遠慮気味ではあるが。
「うーん、子供らしいことって記憶にないのよね。落ちこぼれだって散々バカにされてたし」
「シーナさんが?!」
ルーグが驚く。
シーナたち、黄昏の歌のパーティーは冒険者の中でも有望株で個々の実力も申し分ないと、冒険者新聞によく特集が組まれているほどだ。
「そう。魔法一家だってだけで成果がなきゃバカにされたのよ」
思い出しただけでも腹が立つというシーナは、今なら絶対にあたしの方が上でしょうけどと怒りを滲ませる。
シーナのバカにしてきた奴らを見返したいというのはそういうことらしい。
「たまに殴り飛ばしてやったこともあるけどね」
「ああ、なるほど。それでシーナさんは魔法なしでも強いわけで――がふっ」
アルゼルの言葉を余計な一言と判断したシーナはアルゼルを思い切りどついた。
それからシーナは家出同然に家を飛び出し単身冒険者になったという。
「魔法以外にできることもなかったから、やるしかなかったのよね」
「そうだったんだ」
「シーナさんも苦労されていたんですね」
てっきり追い出されたと思っていたと言ったアルゼルがもう一度どつかれたが平然と話は進み、ガラドの子供時代の話になる。
ガラドはお茶を1口飲んでから話を始めた。
「よくライティングフロッグを捕まえて遊んでたかな。レースをさせたりとかして」
「げぇ、カエルを?」
「シーナさんは苦手ですからね」
カエルという言葉にシーナが嫌そうに顔をしかめ、ガラドは故郷は田舎の方だからそういうモンスターが多いと言った。
他にもガラドが遊んでいたのを話せば、シーナとアルゼルは信じられないといったふうだった。
「フィリーとは意気投合したんだけどな」
「元々都会育ちではないですからね、フィリーさんも」
生き物で遊ぶというのは自然の多い田舎だからこそなのかもしれない。
冒険者になった今でこそ当たり前になったが、シーナもアルゼルもそこら辺になってる木の実をその場でもいで食べるなど子供の頃はしたことがなかった。
反対にガラドやフィリーは買って食べるという考えがなかったりもするが。
「そうだったんだ」
「うん。だから、冒険者になったとき少しは食べられるものの見分けがついてたから助かったんだよ」
「覚えるのもたいへんなのよね、あれ」
自生しているのをまともに見たことがなかったシーナにとって、似たような草が多くて見極めるのが大変だったらしい。
「あれほど見つけにくいものとは思いませんでしたよ」
「そうなの?」
「実家でも扱っていたので分かってはいたのですが、意外とひっそりと生えているので分からないんですよ」
そう言ったアルゼルは知識があっても実践となると違いますねと続けた。一応勉強はしていたらしい。
「へぇ、勉強してたんだ」
「えぇ、我が家では長子以外は15歳になると支援金を渡されて家を追い出されてしまうので」
家にいれるうちに必要そうな知識は詰め込んでおいたのだとアルゼル。
「大変そう……」
「ところがそうでもないんですよ。家は商家ですから、準備さえあればすぐにパイプは作れますからね」
家の手伝いをしていれば商人としての知識は身につくし、両親を説得して認めてもらえれば色々と用意もくれるので、商人として独り立ちするならそこまでの苦労はないのだとアルゼル。
家を出る頃には普通に商人としてやっているくらいにはなると言う。
「なんでそれが冒険者なんかになるのよ」
「ああ、それはですね」
なんでも調達出来る商人になるためとは聞いているが、アルゼルの商才なら冒険者になる必要もないのではと疑問が残る。
「子供のころに気がついたのですよ。自分でモンスターを狩れば元手がかからないと。ついでに冒険者として名をあげれば宣伝効果もありますので」
当然のようにアルゼルは言い放ったが、ルーグたちは何も言えなくなっていた。
なんというか、バカと天才は紙一重とはよく言ったものである。
ライティングフロッグ
ぼんやりと光るカエル。大きさは指の先程で小さい。
危険性も害もなく田舎の子供たちはよく捕まえて遊んでいる。
オーウェンが言うには数を集めても大した明かりにはならないとのこと。余談だが、オーウェンは子供の頃に大量のライティングフロッグを家を連れ帰り両親からかなり怒られたらしい。




