12 ナナシの指導?
人数が足りなくなったから来いとウォルバーグに呼ばれたのは今日の朝のことだった。
それ以上の説明は何もなく、ルーグも来る前のハリツバメ経由の連絡でナナシは面倒そうなことが待っていると思いながら、ウォルバーグの自宅に向かった。
ウォルバーグは今から店に行くとナナシは一緒に向かいながら話を聞く。ルーグはローワンと遊ぶとナナシの店にお弁当を持って向かった。
「悪いな、急に呼び出して」
「で、何の要件だよ」
「今日は魔剣作りの実演日なんだがよ、1人体調崩してな」
教えると言うよりも技術の高さを見せるのが目的なだけに、職人街でもトップクラスの技量の高さが求められる。
体調崩したというのが、よりにもよって魔剣作りだけならウォルバーグと同等かそれ以上という鍛冶師で、たるみやすい時期にいる若い鍛冶師たちへの活入れでもあるので実力的にナナシが選ばれた。
「なーる。やるのはいいけどな、指導はできねぇかんな」
「お前に出来るとは思ってねぇよ」
「んじゃいいや」
もとよりウォルバーグもナナシに指導まで頼む気はなかった。
ナナシの技術は一般的な鍛治のやり方とは逸脱しているところもある我流なので人に教える技術ではない。
会場である店に向かえば、すでに多くの鍛冶師が待機していた。鍛治長など職人街トップクラスの鍛治がすぐ間近で見られると待ちきれない様子だ。
「全員揃ってんな。じゃあ、やるか」
「鍛治長、アインス様は?」
「あー、あいつは体調崩してな。代わりにこいつだ」
ウォルバーグがアインスの代わりにナナシだと言えば、若い鍛冶師たちがにわかに騒ぎ出す。
ナナシのことは知っていても、その技量について疑わしく思う者も少なくはない。
第1に店の位置が悪いことや他にも理由はあるが経営出来てるのが不思議なほど客の来ない店であること、それゆえにナナシの作ったものを目にすることがないので技量が分からない。
そして、シーナがよく言うやる気のなさなどから来る胡散臭さのせいだ。
それを教える側、教師陣が止めようとして動く前にナナシが口を開いた。その声にあまりやる気は感じられないがよく通る。
「じゃあなんでここに来た時点で鍛治長たちは何も言わねぇ?」
その瞬間、場が凍りついたように静かになる。
横でウォルバーグがナナシに止めるように視線を送ると、俺のスタンスじゃねぇなとナナシはケタケタと笑った。
「職人街のルールでやりゃいんだろ。郷に従えってな」
つまりは鍛治の腕前でもって黙らせろということだ。ナナシは最初からそのつもりだ。
事前に取っていた希望の鍛冶師の前に集まって、それぞれが炉の前につく。ナナシに不満をもつ者もいたが当日変更は認められなかった。
ついでに言えば、実演日する側の鍛冶師の方がナナシの作ってるところを見たそうにしていた。
「さてと、やるか。これでいいか」
「ちょっ――」
ナナシはベースとなる剣を持つとハンマーではなく用意されていた素材の金属を使って叩き始めた。
いきなりのおかしなナナシの行動に若い鍛冶師たちは驚きすぎて声が出てしまう。
「大将に呼ばれたのは直前だかんな。道具なんて持ってきてねぇよ」
「借りればいいのでは?」
「必要ねぇ」
そう言ったナナシは平然と鍛治を続けているが、若い鍛冶師たちはナナシの突飛な行動に頭がついていかないのだが、ナナシは気にせず作業を進める。
「属性乗せるならこうで、魔法を出すならこれを合わせて――」
一応、魔剣作りの流れを見せるための実演なので、ナナシもルーグに教えるみたいに説明をしながらやっていく。
「おまっ、素材全部使ったのか!?」
「そのためのもんだろ」
自分の実演を終えたウォルバーグは心配も兼ねてナナシのところを覗きにいけば、どちらの魔剣に対応できるよう用意していた素材がくたびれた金属1個残して全てなくなっていた。
そして、やや冷えきった空気が流れている。
「お前にしちゃ完成が遅いと思えば……」
「悪ぃ、全部使っちまった。後で補填しとく」
「そこじゃねぇ!」
ツッコミを入れたウォルバーグは呆れた顔をして息を吐いた。
規格外なのは重々承知ではあるが、まさか両方を1つにまとめた魔剣を作るとは思わない。
出来ないことはないが、耐久性や技術、武器の威力などから作ることはない代物だ。そんなものを当たり前のように作っているナナシにウォルバーグは呆れているのだが。
「大将、もう終わってんのか」
「お前以外はな」
「とっとと片付けちまうか」
魔剣に手をかざしたナナシはウォルバーグと話しながら仕上げをしていき、作り終えるとウォルバーグにそれを押し付けるように渡した。
「こんなもんだろ」
「相変わらず出来はいいな」
ナナシ産の魔剣に目を通したウォルバーグは実演で作られた魔剣を持って街の外へと向かった。これから試し打ちだ。
アインス
魔剣作りの技術は職人街でも1位2位を争う実力者。
なので魔剣鍛冶師のまとめ役。
ただ性格はナルシストで自信家。どこからともなく風が吹いて髪がなびく。
ウォルバーグ曰く、普通の鍛治は平均値レベルだが魔剣だけは異様に上手いとか。、