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全ては鍛冶屋で起きている!  作者: メグル
ギルベルト編
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ブレイクタイム14

「聞いてくれよ、ルーグ」


 冒険者ギルドに素材を引取りに向かったナナシについてきたルーグは、中に入るなり冒険者に捕まった。


 職人街を拠点にする冒険者はルーグのことを生まれた時から知っていて、こうしてルーグを見ると声をかけてくる。


 鍛治長の息子だからと言うこともあるが、最近は何かと職人街のお騒がせのナナシと一緒にいることもある。


 そして、これは最重要で他の職人街の子供たちと違って彼らの冒険譚を()()()()()()()()()()からと言うのもある。

 ルーグは素材に目を光らせることもなければ、素材の組み合わせを考えることもない。自慢話をすごいと素直に聞いてくれる。


 そんなわけで冒険者ギルドに入った途端に捕まった。


 ルーグはナナシの用事が終わるまでならと了承して、冒険者たちの話を聞くことした。ナナシも声をかけられてなかなか前に進めず時間がかかることだろうし。


「聞いてくれよ、ルーグ。コリンナちゃんに振られちまったんだ」

「それってロランさんがずっと好きだって言ってた人?」


 前に聞いたことがあるとルーグが尋ねれば、パーティーメンバーが込み上げてくる笑いを堪えるようにして、ロランはバラの花束を抱えて告白に向かったのだと教えてくれる。


「笑うんじゃねぇよ。フリーだって言ってたのによぅ、職人街(ここ)に戻ってきたら職人と出来てやがったんだ。うぅ、コリンナちゃん」


 泣き崩れるロランを前にルーグがどう返せばいいかと戸惑っていると、横から笑ってやれと声が飛んでくるが、ルーグはそんな顔ことは出来ず乾いた笑いをこぼす。


「笑わずに聞いてくれんのはお前だけだ、ルーグ」

「う、うん。あ、ねぇ、ロランさんたちはどこに言って来たの?」


 話題を変えるようにルーグは尋ねる。

 冒険者ならひとまずこの質問で話は変えられる。ときには冒険語りが止まらなくなって引き際が難しいこともあるが有効な手だ。


「おー、今回はなゴブリン討伐だ。街道近くに巣が出来ちまってたからな」

「でかくなりすぎる前でよかったよな」

「ゴブリンっていっぱいいると強いのが出でくるんだっけ?」


 よく知ってるなぁとルーグは頭をわしゃわしゃと撫でられる。


「そうなんだよ」

「だから、群れが小さい時に潰さないと手に負えなくなんだよ。ま、あの鍛冶師ならどんなでかさでもやっちまうんだろうが」

「そうかも」


 ナナシなら出来るとルーグも思う。

 強さの根源(ルーツ)を知ったからこそ余計に。むしろ、倒せない方がおかしいのだろう。


「それでよ、ゴブリンが貯め込んだ宝も回収しててよ」

「ロランのやつミミックに喰われやがったんだ」

「お前らのせいだろ!」


 宝の山の中に紛れて潜んでいたらしい。

 手前にいた2人は飛び出してきたミミックを咄嗟にかわし、その後ろのいたロランは訳も分からず喰われたという。


 まあすぐに助けてはくれたようだが、ロランはまだ根に持ってるらしい。その直後にコリンナに振られたと言うので八つ当たりしたくなる気持ちも分からなくはない。


「悪かったって。だから取り分多くしてやったろ?」

「他の冒険者に聞いたことがあるが、二度あることは三度あるって言葉があるらしい。ロラン、気をつけろよ」


 ロランの失態をケラケラ笑うパーティーメンバーに対し、ロランはバンッと寄りかかっていた台を叩く。まだ傷は癒えてないらしい。


「あってたまるか!あって!――ったぁ」

「あ、悪ぃ」


 謝ってきたのはナナシだった。マジックバックに入れようとしていたものがバックの縁に当たって跳ねたらしい。


「お前!」

「なんか機嫌悪ぃな。ほら、お詫びにこれやるから機嫌直せ」


 ナナシはマジックバックから上級回復薬を取り出すとロランに渡す。ロランもありがたくそれを受け取る。


「おう、ありがてぇってそうじゃないんだよ、そうじゃ!」

「ナナシ、ロランさんね……」


 ロランに起きた3度目の不幸と突っ込みに、ついに堪えきれなくなったパーティーメンバーは大声で笑いだし、ルーグは小声でナナシにロランのことを説明する。


「あー、なるほどな。まぁ、良かったじゃねぇか」

「どこがだ!?」

「ひとまず3回目が起きたってことはこれで終わりだろ」

「おーそうか。そうだな」


 ロランが納得したところでナナシはルーグを連れてギルドの外に向かうに途中で、ロランはギルドの清掃していた人がぶつかり水を被った。


 たまたま別の人とぶつかってよろけての、偶然すぎる事故なのではあるがロランの軽くなっていた気分は一気に沈む。


「やっぱりか」

「やっぱりって?」

「ミミックに喰われると地味な不幸(ああいうこと)が多くなるんだよな」


 すぐに治るから問題ないとナナシは言うが、ルーグは見てられないとどうにかならないのかとナナシに言う。


「さすがに長すぎる気もするしな。ロラン」


 マジックバックの中を漁ったナナシはちょうどいいのがあったとふわふわした毛玉を取り出すとロランに投げて渡す。


「なんだ?」

「うさぎのしっぽ。身につけると運が良くなるって話。気休めでも――」

「それでもいい。ありがてぇ」


 験担ぎでもいいとロランがうさぎのしっぽを大事に抱えるのを見てから、ナナシは今度こそギルドを後にした。


「ナナシのことだから実際に運が良くなるんだよね、あれ」

「効果があるとしたら相殺くらいは出来んじゃねぇの」


 明確な答えを口にしないナナシはそれだけ言うと、行くあてもなく店の並ぶエリアをルーグを連れて歩き始めた。

うさぎのしっぽ


持つと幸運が訪れると言うお守り。


実際に効果があるかは不明だが、ゼロじゃないとのこと。


ナナシ曰く、魔道具とも違うらしくどちらかと言えばまじないに近いとか。

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