7 一応、鍛冶師
儀式で使うものを戦闘でも使えるようにしてくれとは、けっこう珍しい依頼である。
しかも、戦闘でも使えるのは分からないようにしろとは難易度が跳ね上がる。
ルーグは大変そうな依頼だと口には出さないが顔に出ていて、ナナシは創意工夫次第だと隣に座るルーグに言う。
「それにしても随分と物騒な要望だな」
「隠しておかねば危険なのでな。出来るなら身を守れるような機能も欲しいところだ」
「つーと魔剣ってとこか」
随分と贅沢な要望である。
「そのためにも、そのレントってのがどういう状況なのかが分からねぇとな」
「話すべきではないのだが、レント様のお守りするためだ。レント様はお命を狙われているのだ」
エドワードが語ったのは、高貴な家なんかじゃよくあると言ってしまうとあれなのだがそんな話だった。
つまるところ、レントはとある一族の唯一の正当後継者なのだがその座を狙う人間が多すぎて、レントは命を狙われているという訳だ。
幼少期より常に護衛を近くに置き、今のところはなんとかレントの身を守れてはいるのだが安全とも言えないと言う。
そして、約半年後には後継となる儀式があり、それが終わってしまえば加護によって誰も手出しは出来なくなるらしい。
「なるほどなー。そりゃ実用性が必要だな」
「そういうことだ。我らの命に変えてもお守りする所存ではあるが、万が一ということもある」
話についていけず首を傾げるルーグにナナシが説明を入れる。
そのままエドワードとの話を進めてもいいのだが、一応この場にいる以上はという感じで。エドワードも教えてやれと言ったふうだったので教えておく。
きっと弟子だとでも思われているのだろう。後進を育てることに寛容らしい。
「儀式が終わる前がラストチャンスなのは分かんだろ?」
「うん。でもさ、その時の方が警備が厳重になるんじゃないの?」
ラストチャンスと言うことは敵も必死になって襲ってくるはずだ。だからこそ警備は厳しくなるから狙うのも難しいだろう。
「確かに厳重にはなるだろうけどな。いつもと違うことをやるってのは隙が生まれやすいんだよ」
「そっか」
慣れないことをするのは失敗も多い。
そして確実にレントを守ろうとすると万全な護衛には程遠い人数となってしまう。情報をもらすなど裏切り者がいないとは限らないのだ。
そうなると少数精鋭でやらざるを得ない。
「じゃ、ひとまずその儀式ってのを乗り切りゃいいってわけだ」
「ああ」
「なら使い切りだって文句は言わねぇよな?」
ルーグに説明をしながら書いていた紙をエドワードに差し出したナナシはそう言って楽しそうにニッと笑った。
エドワードはかかる費用にに顔を顰めていたが、レントを守るためなら安いものだとすぐに割り切ると、概ね理想の作りだと了承した。
「さてと、早速取り掛かるとするか。ルーグ、マーカー探しといてくれ」
「マーカーってあの卑怯なやつのこと?」
「そうそれ」
それだけ言うとナナシはさっさと工房のある奥の部屋に引っ込んだ。
ひとまずお開きとなりエドワードが帰ったあと、全くとため息をついたルーグは、多分この辺の箱にあるはずだとゴソゴソと探し始める。
物が多すぎる上に雑多に入っているため探すのも一苦労だ。
それでもなんとか時間をかけずに見つけ出したルーグは、すぐには帰らなかったエドワードにマーカーを持っていく。
ナナシのことだ。多分、使い方も教えておけというのも込みで探せと言ったはずだ。
「エドワードさん。これ……多分、必要だと思ったんだと思う」
そう言ってルーグはルーグの手のひらサイズの箱と、大人の手のひらサイズをした四角い板を机上に置いた。
「卑怯とか言っていた道具か?」
「はい。だって、これでかくれんぼなんて卑怯としか」
ルーグが箱を開けると中には赤と青の平べったい丸が2個ずつ入っていて、ルーグはそれを1つだけ取ると板の電源を入れた。
すると板には格子状の線が表れ中心に赤い小さな円がゆっくりと点滅している。
「なるほど。人に持たせておけば場所が分かるということか」
「はい」
ルーグはこくりと頷き、エドワードにそれを渡して使いかたと見方を説明する。
ナナシは必要ない試作品だとエドワードに押し付けたが、価値的にエドワードはちょっと躊躇っていた。
それから、ナナシが依頼のレイピアを最短で作り上げエドワードが引き取りに来る。
「これが依頼のレイピアな」
「ふむ、確かに質は良さそうだ」
マーカーや他のナナシが作ったものに直に触れたエドワードに初めの頃のような敵意はなく、認めているような素振りすらあった。
ここ数日、職人街に回っていたことも理由らしい。
「機能は大体書いた通り。ただし、登録したやつじゃねぇと使えてようにしてるかんな」
「そのようなことが?」
「鍵の応用」
なのでレントを登録しておけば他のやつの手に渡っても魔剣としては扱えないとナナシ。
他にも追加で機能をつけたようだが、それもあっておそらく使い切りになるだろうと付け足しておく。元々、魔剣は壊れやすいので仕方ない。
エドワードの出発までに時間があったのでナナシは、エドワードの斧の簡単な修理と手入れもしていた。他に客もいないしヒマだからと言う理由で。
こうして久々の客の依頼を終えたナナシは、ちょっと身体を動かしてくるといくつかの素材を持って店の裏の洞窟に向かった。
マーカー
前にナナシがオーウェンに言われて作ったもの。
オーウェンはモンスターの住処を探すために使っていて、マーカー自体はほぼモンスター学者くらいしか知らない。
ちなみにナナシがルーグとのかくれんぼで使ったのはマーカーがちゃんと機能するか確かめるためである。