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全ては鍛冶屋で起きている!  作者: メグル
ギルベルト編
120/130

5 素材はないか?

 今日も客が来ない店では、参加者3人だけのボードゲーム大会が開かれていた。


 ナナシもやることがない(仕事がない)のでルーグとローワンに付き合って一緒に遊んでいる。

 それに閃きもないのに作っても仕方がないので時間を持て余し気味なこともある。


「ナナシ」

「お兄さんの番」

「俺か」


 順番が回ってきてナナシが自分のコマを手に取った瞬間、玄関の扉が開いた。


「いら――大将か」

「父さん?」


 訪ねてきたのは客人ではなく、ウォルバーグだった。相変わらず客は滅多に来ないらしい。


「おう。キメラのシッポと下位ドラゴンの爪持ってねぇか。どこにもなくてな」


 どうやら足りなくなったらしい。

 他の街などに比べると素材が豊富にあると言っても、珍しい素材となるとやはり足りなくなることもある。


 職人街のどこかの店やギルドに在庫があったりすることもあるがない時もあって、そういう時ウォルバーグなど主に長たちはナナシに声をかけてみる。


 ナナシはとにかく色んな素材を持っているので欲しい素材を持っている可能性があるからだ。

 ウォルバーグはそれに加えて、ナナシの店の裏にある洞窟について知っているので余計に。


「キメラはどうだったか……。ルーグ」


 マジックバックに手を伸ばして漁りながら、そこまできっちり在庫を把握していないナナシはルーグに聞く。ルーグの方が素材置き場の素材についてしっかり分かっているだろうと。


「羽ならあるけど、シッポは見てないよ。ヘビみたいなのでしょ」

「そうそれ。こっちにもねぇな。大将、時間はここに来る時点であるな」


 急ぎならハリツバメで手紙を届けるだろう。わざわざ店に直接くるのだから時間に余裕はあると判断したナナシは、ウォルバーグに自分の使っていたゲームのコマを握らせる。


「代わりにやっといてくれ」


 それだけ言うとナナシはキメラの羽を持って洞窟にさっさと行ってしまった。


 ルーグはいつものことだとそこまで気にする様子もなく、呆れているウォルバーグにお茶を用意すると座るように促した。


「父さん。ナナシの番だったから父さんの番だよ」

「あ、あぁ」


 ローワンにもじっと見られ、ウォルバーグはナナシが座っていた席に座るとどこからやればいいのかを聞いて、ナナシの代理をやり始めた。


 5分ほどして2枚の羽を持ってナナシは一度戻ってきたが、必要数を聞いていなかったと戻ってきただけだった。


 ただ、ウォルバーグはおそらく1回はキメラを倒しているはずのナナシにかなり引いていたが。

 1人でも倒せることは倒せるが5分ほどの時間でというのはかなり異常だ。鍛治の才能とドラゴンに育てられたというだけある。


 ローワンはすぐに戻ってきた不思議そうな顔をしていたが、ルーグのナナシだからと言う一言で納得はしたようだった。


 それから1時間ほど過ぎて、ナナシが小型のマジックバックを手に戻ってきた。


 戻ってくるなりマジックバックを逆さにして中身を全部出すものだから、ルーグが怒るがナナシはケタケタと笑いながら謝った。


「ま、適当に取ってくれ」


 ウォルバーグがキメラのシッポの品質を見て選んでいる間にナナシは良さそうな下位ドラゴンのウロコを用意しておく。


「そうだな。……これがいいか」

「大将、ついでだし使うだろ?」


 そう言ってナナシが指さしたのは奥の工房。つまり炉だ。


「いいのか」

「使ってねぇしな。ま、素材的にな」

「じゃ遠慮なく借りるぞ」


 まるで炉がウォルバーグの店とナナシの店では違うような会話である。ルーグは疑問なってつい口に出す。


「炉ってどこも同じじゃないの?」

「こいつのとこは特別だからな。原初の火だ」

「原初の火?」


 ローワンが小首を傾げ、ルーグが説明をする。


「うん。ドワーフが鍛治をするのに初めて使ったって言われる炎のことなんだけど……」


 鍛冶師の始祖と呼ばれるドワーフが初めて使った炎というだけと思っていたがそうではなかったらしい。


「炎力とかが違ぇかんな」

「ちょっと特別な炎ってことだ」


 扱いは難しくなるようだが、上級素材なども扱うような鍛冶師からすると喉から手が出るほど欲しいものだと言う。


 火種を分けてもらえたとしても、それに耐えきれる炉を作ること自体困難なために職人街でもナナシの店にしかない。


「オレ、そんな炎で……」


 今さらだが鍛冶師にとって神聖な、そうじゃなくても貴重な炎でお湯を沸かしたり料理を温めたりしていたことをルーグはとんでもないことしてたんじゃと思っていると、ナナシがカラカラと笑った。


「そんな御大層なもんじゃねぇよ。正体はドラゴンの炎だ」

「あー……」


 一般的にはそれでも貴重なものだが、ナナシの場合いつでも手に入るものという位置付けだから大層なものじゃないのは確かだ。


 この中でルーグだけが知っているがナナシはに人の形をしたドラゴンになるわけで、自分で用意できる。

 そうなると、原初の火もそこまですごいもの(神々しいもの)には感じなくなってくるから不思議だ。


「お前なぁ……。まぁいい、借りるぞ」

「ごゆっくり〜」


 原初の火の正体をあっけなく知らされたウォルバーグは、ちょっと崩れ去ったロマンにショックを受けながら工房に入っていった。


 ナナシからすると分からないからこそロマンという感覚はなく、その上ごく当たり前にあったものなので仕方がないのであるが。


「さてと、キメラの素材片付けますかね」

「入れるもの持ってくる」

「手伝います。ルーグ君みたいには出来ないけど」


 ウォルバーグが奥の部屋に向かうと、ナナシたちは床に散らかしっぱなしにしている素材の片付けを始めた。

原初の火


鍛冶師にとって神様のような存在であるドワーフが、初めての鍛治をするのに使ったとされる炎。


その正体はドラゴンが吐いた炎であり、魔力の含有量などが違うらしい。


過去に何度か消えているのは秘密である。



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