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全ては鍛冶屋で起きている!  作者: メグル
ギルベルト編
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11 ギルベルトとデイブ

 帝国の商人であるデイブは、手紙の宣言通りに2日で職人街までやってきた。


 手紙を受け取った場所を考えると荷馬車に使っている馬がかなり足が速いとはいえ、けっこう無茶をしているのは確かだ。しかも護衛も雇わずに来てるし。


 デイブ曰くナナシの紹介ならそれだけの価値はあると見込んでらしいのだがそれにしてもである。


「鍛冶師さんからお聞きだと思いますが、私は帝国で行商をしております。デイブ・ウォーカーと申します」


 普段トラブルを抱えて飛び込んで来るだけに、真面目な感じのデイブというのは見慣れない。

 常連とか言いつつフルネームを初めて知ったりとなんだか新鮮である。


「彼の説明は存外適当なのでね。私はギルベルト・フォーカスだ。良い取引が出来れば思っているよ」

「え?」


 ギルベルトが名乗り返しところでデイブが固まった。


「どうかしたか?」

「どうしたも何も、ギルベルト・フォーカスって言ったら商人の中じゃ帝国でも有名ですから。そんな方が紹介されるとは夢にも思いませんよ」


 帝国と取引をするくらいなのでもちろんある程度名が知られてるような人物だとはデイブも思っていた。


 しかし、まさか予想よりはるかに有名なギルベルトが紹介されるとは考えてもなかった。職人街ともなればそういった人たちが仕入れなど来てナナシが知り合っていてもおかしくはないのだが。


「そう緊張することもない。私はしがない商人なのでね」

「そうですね。ギルベルトさんと取引したとなれば泊がつきますから」


 もうすでに頭の中は先のことを考えているようだ。先を見据えるのは商人の基本らしいので、デイブもやはり商人なのだろう。


「ギルベルトさんってそんなにすごい人だったんだ」

「だな。ま、好きなことやってるだけって評価にゃ興味ねぇかんな、あいつも」


 思いのほかギルベルトが有名人なことに驚きはしているものの、それがしっくりくるせいか妙な納得をしてしまう。まぁ半分ほどはあの優雅なオーラのせいだろうけど。


「商談に入る前にすみません」


 デイブはそう言ってからマジックバックを開くと長細い筒のようなものを取り出し、ナナシへと差し出した。


「鍛冶師さん、これの修理お願いします」

「俺はなんでも屋じゃねぇんだけどな」


 それを見たナナシは呆れたふうに返す。

 時間の節約のために先に依頼をしてくるのはいい。ただデイブが取り出したのは武器や防具などの装備でなく魔道具だ。


「つーか、専門ならここにゃ山ほどいるだろうが」


 ここは職人街。

 魔道具を作る職人も大勢いる。しかも高性能なものが適正価格で売られているのだ。


 わざわざ俺に頼む必要もないとナナシは言うがデイブは違うようだ。


「そうですけど、鍛冶師さんはこっち(魔道具)もできるじゃないですか。しかも魔道具職人さんたちと遜色ないレベルで」

「マジックバックも作っちゃうくらいだから……」


 1人前だからといってすぐに作れるようにならないマジックバックを作れる時点でナナシの魔道具を作る能力はかなりのものである。


 基本的にナナシはそれを自分のため(遊ぶため)にしか使うことはないのだが。


「いま思えばなんでも屋にしておくべきだったか。いや、今からでも遅くはないか」

「お前な、ふざけたこと言うんじゃねぇよ。これ以上憎まれてたまるかってんだ!」


 ギルベルトの不穏な言葉にナナシが即座に突っかかる。


 ただでさえ鍛冶師連中に嫉妬で憎まれているのだ。そこに魔道具職人たちまで加わったらたまったものじゃない。


「冗談だ。まぁすでに似たようなものなのだからわざわざ看板を変えるようなことをするつもりはないよ」


 頼まれて自分が出来ることであればナナシは引き受けてしまうので、鍛冶屋よりなんでも屋といった方がいいのかもしれない。


 そもそもナナシは1つに特化しているわけではなく器用貧乏に近い。生きるために手に入れたスキルなのであって至高を目指してるわけでもないのだ。


「さて、時は金なりだ。私は自分の仕事に移るとしよう。君も自分の仕事にやりたまえ、滅多にこない依頼が来たのだから」

「へいへい。ルーグ、行くぞ」

「あ、うん」


 雑談を切り上げ商談を開始するギルベルトに気を使ったナナシはルーグを呼んで工房のある奥の部屋に向かった。

 まぁナナシたちがいようといまいと、そこまで関係はないのだろうけど。


「ねぇ、ナナシ。それってどんな魔道具なの?」


 お茶を淹れる準備をしながらルーグがデイブが修理を依頼した魔道具についてナナシに尋ねた。


「モンスター撃退だな。つっても、隙を作って逃げるためのもんだけど」

「そういうのもあるんだね」

「ま、珍しいアイテムかもな」


 護衛をつけずに進む商人なんかがよく持っているらしいのだが、護衛をつけるのがごく一般的なのでそう見ることはない。

 冒険者もアイテムに頼るよりも隙を自分で作る方が多いので見慣れなくても仕方がない。


「そうそう使うことねぇとは思うけどな。あいつの()がモンスター避けになるかんな」

「確か地竜(アースリザード)だっけ」

「そ、モンスターも恐れて近づかないってな。好戦的な奴らは襲ってくるけどな」


 そう言って雑談をしながらナナシはデイブに任された魔道具の分解を始めた。

デイブが修理を頼んだ魔道具


拳銃のような形をしているモンスター撃退用のマジックアイテム。

使うとモンスターが嫌がる臭いが発射される。


デイブが兄からお下がりで譲り受けたもので、型は古いが性能としては悪くない。


命を守るものなので信頼出来るところで修理をしたいとデイブはナナシに頼んだようだ。

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