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全ては鍛冶屋で起きている!  作者: メグル
ギルベルト編
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9 ギルベルトの思惑

 ギルベルトは店の帳簿を開いて数ページめくるとすぐに閉じた。


 一応この鍛冶屋の経営について確認するために開いたのだが、前回(去年)確認してから大して増えていない。というか、次のページにさえ届いていない。


 まぁ、開店休業状態の店なので驚くこともない。当然の結果だろう。


「店の方は問題なさそうだ。時にルーグ君、最近の彼の様子はどうだい?」


 それでもまぁ、店の経営自体は問題なく黒字なのでナナシもしっかり鍛冶屋の経営が出来ているのだろう。


 もっとも、ナナシの場合はフィリーやアサヒのような高ランクの冒険が常連なことと、店の裏の洞窟で素材を調達しているのも大きいが。


「うーん、いつもと変わらないと思うけど……。ギルベルトさんも父さんと同じこと聞くんだね」


 お茶のおかわりを注ぎながらルーグはギルベルトの問いかけに何も変わったことはないと返し、ウォルバーグと同じ質問をすることに不思議そうにする。


「おや、そうなのかい?」

「毎日ってわけじゃないけど、思い出したよう聞いてくるんだよね。特にナナシが職人街(ここ)に戻ってきたばっかりのときとか」


 あんな態度を取っていてもウォルバーグがナナシのことを心配しているのはルーグも感じ取ってはいる。

 ただ、ルーグからすると強くてなんでもできるナナシに対し過剰とも思うこともある。


「確かにルーグ君が思うように彼は強い。しかし彼は、その強さのゆえか1人で戦おうとするきらいがある」


 戦える者がそばにいても、ナナシはそいつを置いて1人で戦いに向かう。しかも1人で対処出来てしまうほどにナナシは強い。


 犠牲を出さないやり方だと言われてしまえばそうかもしれないのだが、あまりにも自分を省みない戦い方だ。

 ギルベルトはそれを死にたがりと称している。


「……なんか似たようなことを父さんも言ってたかも」


 街で騒ぎが起きたときなどにあのバカはとウォルバーグが怒っていることもある。確か1人で片付けやがってとかなんとか言っていた。

 ついでに俺たちはそんなに弱くねぇってんだとも。


「一友人として私も心配しているのだよ」


 ナナシからすれば大したこともないように思うことでも、ギルベルトやウォルバーグからすると危険な行動に映るものも多い。


 強いから何も心配いらないのではなく、身を案じてているからこそだ。


「だからこそこの店を作ったのだがね」

「えーと、ナナシが危ないことしないように?」


 ギルベルトの話を聞いていたルーグはつまりとその理由を口にして、ギルベルトが大きく頷いた。


「半分はそうだね。少々賭けではあったのだが」


 そう言ってギルベルトは笑った。


 ナナシは元々どこにも定住する気もなく、世界各地をフラフラと渡り歩いていたのだから例え設備を揃えて頼み込んだとしても、ナナシの性格上嫌であれば断ったはずだ。


 それにはルーグも納得する。

 基本的にナナシは必要なことならやるが、やりたくない事はやらない。今までがほぼその日暮らしだったので仕方ない部分はあるが。


「半分は?」

「たまには私も休みたい時があるのだよ」


 ギルベルトは元貴族であり、今は立派な商会の主だ。人々からの扱われ方はほとんど変わっていない。


 それが嫌だとかいうわけでもないのだが、たまには気の置けない対等な立場でいられる場所にいたくなることもある。


 その点で言えば、ナナシは相手が誰であろうと調子を崩さないので助かるのだ。ルーグも貴族の往来が多い街で育っただけに接し方に変な気負いもない。


「じゃあ、ナナシの言うことって当たってんだ」


 この店の正式な鍛冶師が見つかるまでの代理が嘘だと言うのも、ギルベルトが自分が休むための場所を作っただけだろうと予測も。


「見抜かれていたか」

「でも、嫌だと思ってないから続けてるんだよね。お店のこと」

「だと思うがね」


 ナナシの性格上、義務でやることはないだろうとギルベルトも理解している。なので実際のところは分からないがそうであって欲しいとは願っている。


「だってナナシ、嫌になったら出ていくだけだって前に言っていたから」


 それが当然権利とでも言いたげにナナシは言い切っていた。あの頃はすごいことルーグも感じていたが、ナナシを知る今はそうするだろうと思っている。


「それならば、まだ嫌にも退屈にもなっていないのだろうね。この街から動かないのだから」

「そうかも」


 フィリーたちに言われてレインのところへ向かうまで、ナナシはこの街に来てから街のすぐ外以外に出ることはなかった。


 本人はこの街にいれば素材は増やし放題だし、珍しい素材も集まりやすいから面倒がなく都合がいいとか言っていたが。


「ああ、ルーグ君。この話は彼に秘密で頼むよ。照れ隠しで家出されてはたまらないからね」


 ルーグはギルベルトの言葉に大きく頷いた。


 今の話をナナシが知ったらどこかへ行ったままナナシが帰ってこないような気がするから。それもなんの痕跡も残さずに。


 それにナナシのそばはなんだかんだ楽しいから――。

店の帳簿


ほとんど売上しか記入されていないため黒字経営。


これはナナシが素材1つで増やせることも大きく、元々放浪していたために多くの素材を持つためである。

また、常連客が高ランク冒険者が多く技術料が高くなることもある。


ギルベルトは赤字でも続ける気でいたのだが、今のところその様子はなさそうである。

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