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全ては鍛冶屋で起きている!  作者: メグル
ギルベルト編
105/130

6 同じ商人なんだけどね

 長期休暇が取れたと言うだけあって、ギルベルトはなかなか帰る様子を見せない。


 今日もナナシの店を訪れてはルーグが淹れたお茶を優雅に飲んでいた。

 とはいえ、やっていることは仕事の話が多く休暇と言うと疑問が残ってしまうのだが。


「そうそう忘れるところだったが、知り合いに帝国の商人はいないだろうか」

「唐突に、今度はなんだよ。ま、何人かいるけど」


 いい加減仕事から離れろと言いたげにしながらナナシはギルベルトに返した。面倒にしながらも無視はしない。


「帝国にしかないものの仕入れがしたくてね。さすがに在庫だけではいつまで続くか分からない制限を乗り切れるわけでもないのだから」

「会談はまた大荒れしたらしいかんな」

「国境沿いで小競り合いが起きたって話でしょ」


 一応今はなんとか平穏に安定しているとは言っても、昔から帝国と王国は仲が悪い。まぁ、何度も侵略してくる、隙を伺って攻め込もうとしてくる国を好きになれるわけもないだろうけど。


 そういうわけで両国の会談があったあとというのは入国制限や輸入や輸出制限などが特に厳しくなる。


「そんならいい()がいるぞ。なんと皇帝から王国との商売の許可をもらってるな」

「ふむ、それはなんとも行幸。紹介してもらえると助かる」


 互いの国に対して厳しい取り締まりがされている今、何をするにも危険が付きまとう。正当な取り引きだったとしても反逆者は謀反、売国奴などと言われかねないのだ。


 それら踏まえると皇帝から王国での商売の許しをもらっている人物というのはありがたい。時間のかかる申請せずに済み互いに安全が確保されているのだから。


「とりま手紙送っとくか。書いてくるからルーグ説明よろしく」

「――ちょっ、丸投げ?」


 そそくさと手紙を書くために2階に行ってしまったナナシにため息を吐いたルーグはおそらくとその商人の名前を言う。

 そもそもルーグの知ってる帝国の商人なんて1人だけだ。


「たぶん、デイブさんだと思う。オレはその人しか知らないし、制限がかかっても王国(こっち)に来れるとか言ってたから」

「話を聞くにそれなりに優秀なのだろうね。皇帝に謁見する機会があったというのだから」


 それこそギルベルトのように出自が高貴だったり裕福ならば違うことも有り得るが稀なことだろう。こんな物好きはそんなにいない。


 ルーグは優秀と言う言葉に首を傾げる。

 デイブが王家と取り引きしていることや王国にも出向くことからすると、ギルベルトの言う通り優秀なのかもしれないけれど、どうにもその印象はルーグにはない。


「うーん、どうなんだろ。いつもここにはナナシに助けを求めて駆け込んでくるから」


 この店に来るときのデイブは大抵ナナシに泣きついている。そのせいか頼りないイメージになっていて、すごい人という気はしない。


「苦労人気質のようだね。ナナシ()が受け入れているのなら悪い人物でもないのだろう」

「……なんとなくこの店のお客さんだなぁって感じる人とか?」


 デイブのことを何と説明したらいいか悩んだルーグが出した答えがこれだった。


 クセというとオーウェンやフィリーほどでもないのだが似たような匂いはする。

 しいて言葉にするのであれば、厄介ごとのレベルが紹介されてくる人たちよりも高いということだろうか。


 ルーグの答えを聞いたギルベルトはクスクスと笑った。


 それで十分どんな人物かはわかるような気がするのだ。何故かこの店の常連ははみ出しもののような客が多く、ロイのようなザ・普通みたいのはかなり珍しい。

 言うなれば変人の巣窟とでもいう店だ。


「送ってきた。すぐ返事しろって言っといたぞ」

「そう急くこともないのだがね。ありがたい」


 手紙を書き終えて送ったナナシが戻ってきたので、ルーグはナナシが言う商人が合っているか確かめる。


「ナナシ、デイブさんでいいんだよね?」

「おう、デイブで合ってる。客人屈指のトラブルメーカーってな」


 ナナシに言わせてもデイブは問題ごとばかり持ってくる厄介者らしい。

 とはいえ、帝国でしか手に入らないものを入手するための貴重な人物である。自分が現地に出向いてもいいのだがそれは面倒らしい。


「ま、状況判断は出来るやつだかんな。詳細は知らんが」

「色良い返事が来るといいが」


 そう言ってギルベルトはカップを手に取って口をつける。


「ナナシの手紙次第?」

「ふむ、それもそう――」

「お前らなぁ、俺がそんないい加減なこと書くと思うか?」


 ナナシのことだから懇切丁寧な内容ではないのだろうとルーグもギルベルトも思っていて、それが分かったナナシは反論する構えをとる。


「書いた文章を聞いても?」

「そりゃ、帝国との取り引きに困ってるやつがいるから紹介するってだけだぞ」


 あまりにも簡潔すぎると呆れるルーグとは裏腹にギルベルトはナナシらしいと笑いをこぼし、そしてそれだけで相手に通じるのか、まだ見ぬデイブの商才を思う。


「大雑把すぎると思うんだけど」

「なはは、そーかもな。けど、デイブだかんな」


 笑うナナシはどうにかなると軽くますますルーグを呆れさせた。

商人


大まかに分類すると店舗を持つ者と行商人の2つに分類される。


ギルベルトは前者だが手広くやっているため、あちこち飛び回っている。自身で目利きしたいという理由もあるらしいが。


デイブは後者で元々は帝国のみで活動していたが、色々とあって王国にも足を伸ばすようになった。

行商人は移動に危険も多いので冒険者などに護衛を依頼することも多い。



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