2 ワーカホリックが
長期休暇だとナナシのところへ遊びに来たギルベルトはと言うと――。
領主や他の店にも顔を出すこともあるようだが、基本的にナナシの店に入り浸っていた。
元々それが目的で訪れているので何一つおかしな点はないのだが。
そうして今日もナナシの店にいて、ナナシを相手にチェスをしていた。
面倒そうに応じるナナシは白のナイトを手にすると黒のポーンをそれで倒す。すると倒された黒のポーンは盤上から消えて駒置き場に移動する。
「そう、か。ま、フィーが無事に過ごせんならいい」
「まだ確定ではないがね」
ギルベルトはビショップを手に取った。
話題はこの前職人街で起こったフィリーとコネリー子爵の騒動だ。
コネリー子爵は後暗いことも色々と発覚して捕まり、お家取り潰しも考えられたがコネリー子爵以外はむしろ善良で民のためにとやってきていることもあって、妹が爵位を継ぐことになりそうだ。
放って置いてもそのうちフィリーの実家から知らせが来るのだろうが、一応ナナシに伝えておく。
しばらく王の元にいたので貴族や国の大きな流れについての情報はけっこう仕入れている。
2人の横ではルーグとローワンがギルベルトの持ってきたお菓子に舌鼓を打ちながら、駒が動いていくのを眺めていた。
相変わらずルールはよく分かってないのでぼーっと見ているだけである。
「それと私の方からも陛下には断りを入れておいたので詮索されることはないはずだ」
「サンキュー」
「まぁ君を扱うのは無理だと思うがね」
ナナシの過去を知って国の利益と捕まえられたとしても、やりたいようにやるのがナナシなので手綱を握っておくのは無理だろう。その前に逃げ出しそうだが。
「チェックメイト」
「やっと終わったか。ルーグ、お茶くれ」
大きく伸びをしたナナシは、そばに置かれた菓子を摘んでルーグをお茶をねだった。
「うん、ちょっと待ってて。ギルベルトさんは温かい方がいいですか」
ルーグはナナシが何も言わずとも冷たいお茶をナナシ用に用意する。一作業終えた時は冷たいものを飲みたがるので多分冷たいのでいいだろう。
「冷たいものをもらおう。遊びだと言うのに熱中してしまってね、クールダウンした方が良さそうだ」
お茶を注いだカップにルーグは手をかざすと魔法を使って冷やしていく。これくらいならそこまで負担にならないので問題ない。
「どうぞ」
「ありがとう、ルーグ君」
「ギルベルトさん、チェス盤借りてもいい?」
ルーグが聞いて、ギルベルトは快く了承する。
「いいとも。五目並べかい?」
「今日は三目並べです」
チェス盤をルーグたちに貸したギルベルトはお茶を飲みながら菓子を摘んだ。
「そーいや、ギル。もう月の蝶は探さなくていいぞ」
「手に入ったのかい?」
なかなか見つかるものではないのでナナシはギルベルトに頼んでいたのだ。少しでも早く見つかるようにと。
「常連が持ってきてくれたんだよ。見つけたからってな」
「それは僥倖。苦情ばかりかとも思ったが上手くやっているようで安心したよ」
「あんときゃ、たまたまだっての」
事前に説明したにも関わらず質の悪い素材を持ってきておいてすぐ壊れただの粗悪品だと言って押しかけてくるやつもいる。
似たような業種の人間からすれば素材の割に出来のいいものだと言うのだろうけど、善し悪しが分からないやつからすると粗悪品となるだけだ。
「ならいいのだが。君の性格上、余計な諍いを起こさない保証がないのでね」
「最近は減ったけどな、よくやった」
「ふむ、成長していると言うことか。学習能力があるようで何よりだ」
涼やかなギルベルトに怒る気も失せたのか、ナナシはお前なぁと言うだけでそれ以上は何も言わなかった。ギルベルトに言い返してもこちらのいら立ちが溜まるだけだ。
そうして軽口を言い合っていると、ルーグとローワンの遊ぶ様子を見ながらギルベルトがつぶやく。
「手軽に遊べるゲームとして売りに出しても良さそうだ」
「休暇だってのに仕事の話かよ」
「もはや性と言うべきかな。以前から考えてはいたが確信がもてたよ」
ナナシから遠い国の遊びと教わってから、小さな子でも分かりやすく簡単に出来ることから販売の構想はあったとギルベルト。
実際に遊んでいるのを見て販売しても良さそうだと感じたらしい。
「それようの駒が欲しいところだが、現地ではどのような形だったかおしえて欲しい」
「白と黒の丸い石、横から見ると楕円みたいなので飾り気はねぇな。元は囲碁っつー遊びの盤だかんな」
前に現地でルールブックをもらっていたとナナシはマジックバックから取り出すとギルベルトに渡した。
解説と共に描かれている盤を見ながらギルベルトは構想を練っていく。
手軽さを売りにするのであれば据え置き型の盤では良くないだろう。色はいいとしても子供向けなら駒の形は変えた方がいいだろうと。
それを正面で呆れたように観察するナナシは、ワーカホリックがと呟いていた。
チェス
割と有名どころのボードゲーム。
また似たようなゲームは世界各地にある。
ナナシはギルベルトやオーウェンに付き合わされて覚えた。
ルールを覚えいない頃にナナシは駒を動かせるマスに色がつく魔道具を作り、商品化されている。