6話~狐と殺生石~
新章です。
新しい章ということで見切り発車の本作は制作に難儀しておりました。申し訳ございません。
章の作り方が分からなかったので実行してませんが本編は『狐の嫁入り編』という章タイトルがあります。
ちなみに前の章は『獣悦至極編』です。
感想や評価、アドバイスなど募集しておりますのでお時間のある方はご協力いただければ幸いです。
泥水を啜ってでも息を吸うこと諦められぬ。
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寒い。寒い。寒い。
雪がふわふわと宙を舞っている。美しく、儚くも幻想的である。
そんな中で私は丸まるように、横たわっていた。
理由は単純明快だ。忌々しい人間の罠が私の足の肉を抉り、捕らえていた。獣を捕らえるための罠であるが、それが憎たらしいことにこうやって私をこの場に拘束し、着々と命を奪っていっている。
足元からはジワジワと血が広がり、白い地面に赤い花を咲かせているようだ。
惨めだ。
遙か昔、異形魔として、食物連鎖の頂点として振舞っていた私は、あの憎たらしい女によって不細工な石ころに閉じ込められた。
日に日に衰えていく力。どうしようもない空腹、それらに耐えながらおよそ千年。ようやく石から開放された。
しかし、永い封印と石に施されていた呪いによって私は力は今や一介の獣ほどに零落していた。
命からがら逃げ延びたものの、時間の問題だろう。平安よりは劣るやもしれぬが、今代の祓い人も中々優秀だろう。
私の命ももうすぐだ。
あぁ。死ぬのか。
全盛期に実感はわかないものだったが、いざ目の前に迫るとどうにも恐ろしい。
こわい。いやだ。
呪災として恐れられたこの私が、死という現実に怯えている。祓い人どもが見れば笑うだろう。
そんな時、
ガサリ
「!?」
運命が目の前に現れた。
~
季節は冬。
草花が春という新しい時代へと芽吹く準備をしている頃、俺こと『芦屋晴道』は京都支部もとい、『祓い人連合本部』にやって来ていた。
古くからある寺院のような佇まいのその建物の最奥、顔を紙のようなもので隠した老人に囲まれながら俺は事の顛末を聞かされていた。
「事が起こったのは3日前。京都の伏魔稲荷神社にて封印をしていた殺生石の封印が解け、中に封印されていた『元呪災指定異形魔』の『九尾の狐』が解き放たれた。」
「幸いにも平安の『紫紙祓い人』である『安倍晴明』の封印と呪いによってその力はかなり削れていたのか、尾も1本しかない状態での復活となったようじゃがの。」
「逃走した九尾の狐はそれから京都の結界を通過してないことを芦屋家から報告が上がっておる。して、お主を呼んだ理由についてだが」
「この京都に滞在し、九尾の狐の調査及び討伐、京都付近の警戒をしてもらう。」
「用件はわかったか?芦屋晴道よ。」
長ったらしい共有と通達が終わる。要は、
《やべー異形魔が解き放たれてしまったらしいから助けて~こわいから守って~!》
ということだ。
普段こき使ってるくせにこういう時だけ尻尾振りやがって。そのくせこのふてぶてしい態度。本当に嫌いだこのクソじじいども。
「御意。しかと承りました。」
しかし、芦屋家は呪われている。
先祖である『蘆屋道満』が犯した大罪によって『都の呪い』から逃れられない。
よって俺は社会の歯車もとい、じじいどものヘルパーとして一生を過ごさないといけないのである。
よって返事は《はい》もしくは《YES》しかないのだ。
「さらに詳しいことは芦屋の者共に伝えておる。あとはそちらでなんとかせよ。」
「はっ。ありがとうございます。では私はこれにて失礼致します。」
そう言って踵を返して部屋を出たあと、足早に俺はその場を後にするのだった。
~
「くそがくそがくそが!!!都合のいい時だけ『紫紙通達書』なんぞ使いやがって!こちとら毎日移動時間にしかとれない休日しかもらってねぇのにせっせこ働いてるのに図に乗りやがって!」
廊下を歩きながら愚痴る。そばに居る祓い人達の何名かはオロオロとしながら付いて来ている。
しかし、俺の横にいる男だけはそんな気配をさせず、ニコニコとしながらこちらに話しかける。
「相変わらず上に対する愚痴は1級品のようだね晴道。元気そうで良かった。」
そう答えるのは俺と同じ、芦屋家の青紙祓い人である『芦屋晴太』である。
俺と同じく、濡鴉のような黒髪に白い髪が一房だけ垂れている。
俺とは違い、晴太の方はタレ目に泣きぼくろ、優しげな微笑みや少し肩口を撫でる髪などどこか人当たりの良さそうな印象がある。
その容姿から女性と間違えられることも多いそうだ。
「当たり前だろ晴太。あんなクソじじい共に不満が出ない方がおかしいだろ。」
「そんなこと言えるのは晴道だけだよ。やっぱり晴道はすごいよ。ぼくらにできないことをやってる。」
「はっ。そんなことねぇよ。お前らもがんばりゃ愚痴くらいすぐ吐けるだろうよ。」
「そうだといいんだけどね。晴道も知っての通り、ぼくらはほら、『アレ』じゃん?」
そう言って晴太は困ったように笑う。
分かってる。お前達はそうだもんな。俺が少し特別措置なだけで。本来ならこいつらと同じ筈なんだ。
「…悪かったよ。気を悪くしただろ?ごめん。」
「いいよ。晴道はそのままでいいんだよ。みんなそんな晴道に元気をもらってるんだから。」
少ししんみりした空気になってしまう。やはりここはダメだ。悲しい匂いでいっぱいでどうしようないくらいやるせなくなる。
「…。任務について教えてくれ晴太。1度封印されてるとはいえ元呪災指定だ。気を引き締めていかないといけない。」
「そうだね。必ずみんな生きて帰ろう。」
そう言って振り向いた晴太の視線の先にはオドオドした3人の祓い人がいた。
「紹介するよ晴道。左から『晴逸』、『晴政』、『晴代』。晴逸と晴代は黄紙祓い人で。晴政は赤紙祓い人だよ。じゃあみんな。まず自己紹介をしようか。」
「は、はい。おれ…じゃない!ぼくは芦屋晴逸と言います!芦屋晴道様!お会いできて光栄です!何卒よろしくお願い致します!」
そう言ってこの中でも歳がいちばん低い印象を与える青年が頭を下げる。忍びのような黒装束はまだ汚れもあまり目立たない。
「続いては私ですね。ご紹介にあずかりました。晴政と言います。お会いできて光栄です。何卒よろしくお願い致します。」
次に眼鏡をかけたナイスミドルな男性が話す。強面な顔をしているがその表情には柔らかい笑みが浮かんでいる。3人の中で頭1つ飛び出た異力を纏っていたため予想はしていたがこの人が赤紙のようだ。
「最後に私ですね。晴代と言います。階級は黄紙。足を引っ張らないように精一杯尽くしますので何卒よろしくお願い致します。」
そう言ってゆっくりと頭を下げる女性。おぉすごい。何がとは言わないが。
異力!異力がね!?すごいんだよ!
「全員紹介は終わったね。じゃあ簡単に今回の任務の動きを説明していくよ。」
そう言った晴太の表情にはもう優しい微笑みは無く、能面のような無表情が張り付いていた。
他の3人も同様仕事モードとか、そんなかわいいものじゃないその表情が、
俺はどうしようもなく苦手だった。
~
「説明、と言ってもぼくたちがやるのは巡回と警戒さ。ぼくと晴逸、晴政と晴代の2人1組、そして晴道でそれぞれ鬼栄山と上皇山、大袈山、京都市街地、本部、稲荷ヶ岳、各寺院をローテーションで回っていく。
力を取り戻そうとする九尾の狐は必ずどこか神聖な場所で力を蓄えるはず。だからめぼしい所を哨戒していくっていくよ。
期限は1ヶ月。もし目標の九尾の狐と遭遇した場合、まずは全員に連絡し、討伐を開始。報告を受けた他のメンバーはそれぞれ民間人の避難、本部への伝達、戦闘の応援などに向かうわけさ。」
そう晴太から聞いた俺はさっそく京都にある霊山。『稲荷ヶ岳』に来ていた。
名前に狐っぽいのがついてるという理由で調査に来たがけっこういい線にいっていた可能性がある。
【シューシュー】
「やっぱお前も感じるよなオロチ。この血痕。信じられないけど、九尾の狐は本当に落ちるところまで落ちてる。」
自分の横の空間がポッカリと穴を開け、中から巨大な蛇が顔を覗かせてチョロチョロとその舌を出したり引っ込めたりしている。
そして俺たちは今、山中にある獣用の罠を見つめていた。
何の変哲もない罠。しかし、付近に付着していた血痕からは明らかに異質な異力を感じた。なんだろう、とても小さいが不気味な形をしているような。例えるなら気持ち悪い小さな毛虫を見たかのような感覚に近い。
その気配は点々と山の下にある町に続いていた。
「…」
これは中々厄介だ。
九尾の狐の狐はもう町に降りている。それは人がもう喰われた可能性があるということ。
獣といえど子供くらいなら襲って喰らうこともできるだろう。
すぐさま俺は血痕と残存した異力を辿りながら町に降りていった。
そうしてたどり着いたのは、
「…」
普通の家だ。二階建ての建物で1階は店になっているのかスペースの広い空間が広がっている。休業しているのか、現在は人がいる気配は無い。
裏手に回ると2階の居住部分に繋がる玄関と階段があった。
表札を確認する。
『沢渡』
「あの…家になにか用ですか…?」
後ろからかけられた声に振り向く。
それが俺がこの先、多くの時間を過ごし、お互いのよき理解者となった少女『沢渡詩音』と俺との初めての遭遇だった。
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『芦屋晴道』→ご存知の通り上層部過激派アンチの祓い人。芦屋家の中で一番強い事と紫紙祓い人ということで都の呪いの制限を少し緩めてもらってる。それでも飼い殺し状態と家族や親戚を人質にされてるようなものなので今日もせっせと働く。
『祓い人連合本部』→京都支部のこと。支部員のほとんどが芦屋の家系。全国でも指折りの実力派集団だが同時に殉職率も高い。
『元呪災指定異形魔』→討伐、もしくは復活の恐れがないほど封印を施されたされた異形魔。既に退けられたという実績があった場合や、封印の方法が確立されている場合、呪災指定クラスだとしても対抗策があるとして呪災指定扱いでは無くなる。
『九尾の狐』→平安時代の異形魔。安倍晴明がいなければ国家転覆を果たしていたと言われるほどの化け物。現代まで安倍晴明によって封印されていたが封印が解かれた。
『紫紙』→現状、主人公を含め歴代で該当する者は3名のみ。規格外の存在であり、明確に青紙とは違う異質なものとして扱いを受ける。基本的に産まれながらなにか歪な才能を持っていることが多い。
『安倍晴明』→平安の紫紙祓い人。現代でも歴代最強と言われており、呪災指定の討伐記録がある希少な人物。同じ紫紙祓い人の蘆屋道満とは親友だったが袂を分かっている。
『蘆屋道満』→平安の紫紙祓い人。主人公達の祖先呪災指定の討伐記録がある希少な人物。同じ紫紙祓い人の安倍晴明とは親友だったが袂を分かっている。
『都の呪い』→蘆屋道満が犯した事件の償いとして蘆屋の血が流れるものを対象に遺伝しながら発動する呪い。
本部の命令権を持つものの命令に背くなどをした場合、全身の血液が瞬時に毒物に変わり対象を呪殺する。
その呪いの前準備として蘆屋家の者は名前を奪われ芦屋と名乗ることを余儀なくされ(名前を奪うというのは異能にとって大きな意味を持つ)、産まれてくるものの名前に呪いの発案者たる安倍晴明の晴をつけるなどして呪いの効力を上げられ、呪殺対象を絞られている。
『紫紙通達書』→呪災指定などの災害クラスの異形魔などを相手にしたりする際に発行される通達書。任務の優先度として最高クラスであり、緊急招集に近い。
『芦屋晴太』→芦屋家の青紙祓い人。セミロングっぽい髪型の男性。美形のため女性と間違えられること多々あり。殉職率が高い芦屋家の中でも生き残る屈指の実力者。晴道とは親戚であり友達。
『芦屋晴逸』→芦屋家の黄紙祓い人。芦屋家の祓い人の中ではまだ経験が足りないと言われているが一般の祓い人からしたら充分強い。
『芦屋晴政』→芦屋家の赤紙祓い人。経験豊富なナイスミドル。笑みを浮かべているが目が笑ってない。紹介された3人の祓い人の中では頭一つ抜けて強い。
『芦屋晴代』→芦屋家の黄紙祓い人。優しい未亡人(夫は異形魔との戦いで殉職)旦那を守れなかった悔しさを自身の親族を守ることで払拭しようとしているが本人も気休めだと理解してる。胸はすごく大きい。
『アレ』→都の呪いのこと。産まれた時からを詰んでる。
『稲荷ヶ岳』→京都にある霊山。京都は霊山が多く、その力で異形魔も強いものが沸くが芦屋家の祓い人のおかげで大きな被害は出ていない。
『沢渡詩音』→芦屋晴道が出会った白髪の少女。この出会いが後に祓い人史上一二を争う大災害を引き起こす。胸はまぁまぁ。
新章が始まりました。
この章が何部構成になるかは分かりませんがなるべくみなさんが読みやすいように作るよう努力します。
ちなみに作者は女性キャラのある部分を用語解説に載せていますが、あれは書いている文章でどのくらいの大きさかを区分しています。
もっと女性キャラが増えたら明確になってくると思います。
感想や評価、アドバイスなど募集しておりますのでお時間のある方はご協力いただければ幸いです。