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厄喰  作者: 怒愛たくあん
4/6

4話~獣と拳~ 中編 弐

4話です。

獣と拳は後編で終わりです。もうしばしお待ちください。

矛盾が発生していたり、誤字脱字がないか震えております。


コメントや評価、アドバイスなど募集しておりますのでお暇な方がいらっしゃいましたらご協力いただけますと幸いです。



大好きな腐った匂いがする。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「かなり登ったような気がしますけど、一向に灯台に辿り着けないですねこれ。」

「そうですねぇ~…相手の異形魔がなにか結界みたいなもので私達が辿り着けないようにしてるのでしょうか?」


大量の獣憑きによる洪水から離れ、山頂の灯台へと向かっている俺と小鉢さんは未だ灯台に辿り着けずにいた。

上を見上げると少し先に灯台が見えるのだが、どれだけ歩いても距離が縮まらない。小鉢さんの言っているように獣憑きのリーダーのようなやつが結界か何かを使って俺達の侵入を拒んでいるのかもしれない。

かなり長い時間歩いたのか、もう日も暮れ始めている。


「…」


そこで俺はふとした違和感を覚える。いや、違和感自体はこの山に入る前からどこか薄々感じており、それが小さな確信めいた何かに変わったような気さえ感じる。


「…もし。相手に異形魔のリーダーみたいなやつがいるとしたら。そいつは灯台に入れる人間と入れてはいけない人間を明確に区別する知能を持っていることになります。

低く見積もって中級上位、最悪、上級の異形魔の可能性があります。」

「じょっ!?じょじょ上級!?」


『上級異形魔』。呪災指定異形魔のその下。この世界における祓い人の狩人。

異形魔のランクは下級、中級、上級。そして規格外の天災である呪災指定に分けられる。

その強さは同じ区分の中でもピンキリではあるのだが、一般的に下級下位の異形魔なら一般人でも倒せる可能性があるが、下級上位だと白紙もしくは黒紙祓い人が必要になり、中級なら黄紙もしくは赤紙、上級なら青紙もしくは紫紙。といった感じに対応できる祓い人がおおよそ決まっている。

さらに異形魔の位は、中級以上はある程度の知能を持ち、上級になると異能を使うという明確な基準がある。


今回の大元が上級異形魔だった場合、対応できるのは俺だけになる。そうなるともはや2人は戦いの際に巻き込まれてしまい怪我を負ってしまう可能性が高い。安全なうちに香川支部に帰さなければならない。


「どうやら灯台にはたどり着けないみたいですので、我々は大量の獣憑きが出たという峠道を目指しましょう。

もしかしたら白山さん達も灯台にたどり着けなくて峠道の方に向かうかもしれませんし。」

「なるほど!分かりました!ではご案内します!峠道は結構開けた所にあるのでそこら辺の木に登ればだいたいの場所はわかると思います!」


そう言うと小鉢さんは近くの高い木に登り始めた。軽快な身のこなしはどこか芸を仕込まれた猿のようだった。

しばらくすると、小鉢さんが降りてきて道案内を開始する。

小鉢さんのお喋りに耳を傾けながら俺は今回の獣憑きの大元の思惑について思いを馳せるのだった。





峠道は20分ほどで到着した。峠道というよりは、よくある峠を利用したカーブの多い道路である。ゲームセンターなどにあるレーシングゲームでコースとしてあったとしたら、さぞコースアウトやガードレールに激突するプレイヤーが多くなるコースになることだろう。

既に日は暮れており、あたりには虫や獣の声が合唱のように響き渡っている。

しかし、隣にいる小鉢さんの声はさらに大きく響き渡る。

道路に降りた俺達は辺りを見回す。


「ここがちょうど私が獣憑きの大群を目撃したところですね!そこの高くなってる所にある茂みに座って、周囲の探索に行った折り紙達を待っていたら、急に向こう側からドドドド!って犬の死骸が押し寄せてきたんです!」


そう言って小鉢さんは道路の奥を指さす。暗くなってきた道路は月明かりに照らされて長く闇に向かって伸びていた。

何の変哲もないただの道路である。特に異能を使った痕跡や気になるものも見当たらない。


「なるほど。そういえばその獣憑きは最終的にどうなったんです?このまま道を下れば町に着きますが、特に被害などの報告は上がってないんですか?」


獣憑きが走っていた方向は最終的に山を降りる道に繋がり、町に出る。もしこのまま獣憑きが進んで行ったとした場合、ある程度の損害や犠牲者が出るはずだが。


「そういえばそうですね。私は大群を目撃したあとそのまま大群を追って…あれ?」


すると小鉢さんが首を傾げる。

目はだんだんと見開き、一筋の汗が頬に流れる。


「大群を追って…折り紙ちゃんに香川支部に連絡するように任せて…そしたら…あれ?」

「…どうしたんですか?」

「大群が急に消えて…そしたら『あの光』が…」


【アオォーーーーーン】


小鉢さんの言葉を遮るように獣の遠吠えが響き渡る。

その数秒後、どこか地響きのような微かな地面の振動を感じる。


「まさか!?」


道路の奥を見る。


そこにはやはり、夥しい数の犬の腐乱死体が町目掛けてその腐った肉体を揺らしながら駆けていた。


「うわあああ!?!?!?」


小鉢さんがパニックになったのか逆方向に走り始めた。

このままでは不味いと感じた俺はすぐさま小鉢さんの後を追う。


「ヒュッ…!ヒュッ…!ンヒィー!食べられるぅぅぅ!!!助けてぇ!!!辻村さぁぁぁぁん!!!!!」

「うおおおお!?!?!?!?!?」


走りながらこれからの打開策を考える。このままいけば町に甚大な被害をもたらすのは目に見えている。


「なんて数なんですか!?こんな数の獣憑きが町に降りたら!?」

「少なくとも500はいそうですね。このままだと付近の町は無事では済まないでしょう。」

「わわわ!?どうしましょう芦屋さん!?町のみんなが!」


「芦屋さん!小鉢!無事か!?」


すると、道路近くの茂みから辻村さんが姿を現した。

すぐにこちらに走って合流し、走りながら近況の報告をする。傍から見ると成人3人が深夜の山で道路を爆走している姿に見えるのだろうか。通報待ったナシである。


「なんだと…!?こんなのどうやって止れば…」

「そうなんですよ辻村さん!あれ!?というか白山さんは!?一緒じゃないんですか!?」

「白山さんとはあの後はぐれちまった!灯台に向かっても一向に灯台にたどり着けやしないから峠道に来たんだ!」


辻村さんの服には返り血や肉片がこびりついており、戦闘の凄まじさを物語っている。肩で息をしながらこちらを見る。


「なぁ芦屋さん!ここでの現場指揮の決定権はあんたにある!なにかこの窮地を脱する方法はないか!?」

「…」


少し考える。

現在俺達は山道を下り町の方角に逃げている。だがどうなるにせよ、あの大量の獣憑きはなんとかしないと確実に街に被害が出る。

だが、それと並行して灯台についても調べたい。


「分かりました。では今からの動きについて説明します。」

辻村さんと小鉢さんは走りながら固唾を呑んでこちらを見る。


「辻村さんはまず灯台に向かってください。俺はあの量の獣憑きを操る異形魔が灯台にいると考えています。そしてそれが恐らく、灯台に現れたという謎の光の正体だと思います。

これほどの量の獣憑きを操るとなると、それなりにこちらに注意が向いてるはずなので灯台の結界が弱まっているかもしれません。」

「!分かった!だがあの犬どもはどうする!?」

「あの犬達は俺が全部相手します。小鉢さんは香川支部に戻って事態の報告と念の為付近の支部に救援を要請してください。」

「分かりました!けど芦屋さん一人であの数はさすがに…!」


小鉢さんが心配の目を向ける。辻村さんは何か作戦でもあるのかとこちらに問いかけるかのような眼差しを向ける。


「問題ないです。ただ2人が近くにいると巻き込んでしまう可能性がありますので俺1人のほうが都合がいいんです。」


実際、敵の数も質も問題ない。ただ大元の正体が未だにわかってないので少し慎重にならなければいけない。

2人には俺から離れてもらいながらそれぞれできることをしてもらおう。


「芦屋さん!」


辻村さんが大きく声を上げる。そちらを横目で確認すると、


「…ご武運を!」


そう言って辻村さんは高く跳躍し、灯台を目指すため森の中に消えていった。


「芦屋さん!無理しないでくださいね!?私もすぐに助けにいきますから!」


小鉢さんもそう言い残し、森の中へ消えていった。

後に残ったのは俺だけだ。静かな森に包まれながら自分の呼吸の音を聞く。


「ふぅ……。よしっ!」


その場で反転し、獣達に向き直る。数はさっきより増えており、報告に上がっていた数に近い数になっている。


「カッコつけたし。さっさとやっちゃいますかね。」


自分の体に異力を纏わせる。薄いベールのように纏った異力はユラユラと揺れながら俺を包み込む。

必要最低限の異力で力を温存する。オロチは緊急事態を考慮して使わないほうがいいだろう。

つまり、この800ほどいる腐乱死体の犬畜生どもを全て素手で全滅させないといけないのである。


「夜の筋トレにはちょうどいいか。」


道路の真ん中で構える。獣は口を開けこちらの目前に迫る。




「来いよ。格の違いってのをみせてやる。」



力強く踏み出した時、自分の動きによって空間が揺れる音を聞いた。





「ハァ…!ハァ…!」


茂みを掻き分けながら最速で駆ける。時折、顔や手に草木の枝や葉がピシピシと当たり不快な痛みが体を走る。

既に鞘から出している刀からは血に塗れており、自分が走った後に血痕の足跡をつける。


「灯台は…!もうすぐか!」


芦屋さんの目論見道理なのか、灯台にどんどん近づいて行っている。もう目と鼻の先に件の灯台を捉えている。


「辻村さん!」

「!?」


隣から声がする。いつもの喧しい、人馴れした小型犬のような雰囲気を纏った慣れ親しんだいつもの声だ。


「小鉢!?お前なにをしてるんだ!?報告はどうした!?」


いつの間にか自身の後輩である小鉢が横で走っている。

他の支部へ救援を呼びに行った筈なのにどうしてここにいるんだ。


「連絡なら折り紙ちゃんたちにまかせました!今は白山さんもいないですし、辻村さんが心配なんですよ!」

「馬鹿野郎!もうお前じゃ足でまといだ!お前はもうこの件から手を引け!」

「嫌です!絶対に引きませんから!」


そうこうしているうちに灯台に着いてしまった。灯台の入口で俺達は息を整える。


「…!もうここは異形魔の手の平の上みたいなもんだ。ここから離れるとなると帰り道にやられるかもしれない。」

「じゃあ…!」

「…絶対に俺から離れるなよ。」

「…!分かりました!!!」


そう言って分厚い鉄の扉に手を掛ける。塗装が剥がれ、所々錆びの目立つ扉はいかにもな雰囲気を醸し出している。


「いくぞ。」


俺達は意を決して中に入っていった。






灯台の中はかなり荒れ果てていた。周囲には汚れやホコリ、蜘蛛の巣などが散乱し、人の手が入らなくなってかなりの年月が経ったことが伺える。

独特の匂いに少しむせながら支給されていた懐中電灯の電源を入れる。

内部は螺旋階段のようになっていて、長い階段が上へ渦をまくように壁に沿って広がっていた。

転落防止の手すりに手をかけながら最上階を目指す。


「…辻村さん。」

「なんだ?」


後ろから小鉢の声が聞こえた。俺は振り返ることなく前方を懐中電灯で照らしながら進む。


「すみません。こんなときに言うのも変かなって思うんですけど。前の返事って…」

「何度も言わせるな小鉢。俺にはやることがある。だからお前の気持ちには答えてやれない。」


こんなときにする会話では無いのだろう。だが、だからといって無下にもできない。


「…そう…ですよね!いや~すみません!こんなときに!」

「別にいい。だが今は生き残ることだけ考えろ。」

「ははは…本当…そうですよね…」


沈黙が続く。自分たちが階段を踏みしめる音だけが響き渡る。

そうしていく内に階段に終わりが見えた。


「ここからはこの梯子を登って上の部屋に入るみたいだ。俺が先に入るからあとから小鉢が入ってこい。」

「了解しました。」


梯子を昇って上にある扉に手を掛ける。ちょうど一軒家にある床下収納庫くらいの大きさだ。


扉を開けると同時に少し土埃のようなものが落ちる。

俺はそこで手を止める。


「…」

「?どうしたんですか?どうして止まったんです?」


後ろから小鉢の不思議そうな声が聞こえる。


俺が怪訝に思ったのは落ちてきた土埃。その量である。


この灯台が閉鎖されたのはしっかりと覚えている訳では無いが、少なくともかなり経過していた筈。現に内部は荒れ果てていた。

だが今落ちてきた土埃の量は明らかに少なすぎる。

ここから求められる答えは、


既に中に誰かが入った可能性があるということ。


その瞬間、俺は勢いよく扉を開けて上に飛び出し、部屋の中に躍り出ると同時に刀を抜く。

瞬時に戦闘態勢に入り、天窓から射し込む月明かりによって照らされた室内には。





「嘘………だろ………」



優しい月の光に照らされた部屋の奥。そこには。




獣にその体を無惨に食い散らかされた白山 春樹の亡骸が転がっていた。




「白山さん!!!!!」



すぐに亡骸の傍に駆け寄り声をかける。明らかに死んでると分かっているはずなのに気が動転したのか体のほとんどが無くなったその肉塊に語りかける。



「俺とはぐれた後に一体なにが…だれがこんな…!!!…ん?」


ふと、白山さんの手の下になにかが見えた。少し色が着いたそれは白山さんの血によって赤黒く変色しているが元々が青いものだったのが微かに分かる。



「…」



俺は白山さんの手を退ける。


















折り紙で作られた折り鶴があった。






「…」

声が出ない。喉から声を発しようとするとヒューヒューとか細い自分の呼吸だけが出てくる。

折り紙。折り鶴。なぜこんな所に。いや思い返してみれば、


俺は今日、小鉢 彩音が折り紙を出しているところを見ていない。

いや、そもそも今日だけでなく。2日前、調査から帰ってきたその日から。


俺は小鉢 彩音が異能を使っているところを見ていない。









「やっと気づいてくれました?」



その声が聞こえると同時に、入ってきた扉が閉まる音が部屋に響き渡った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『芦屋 晴道』→紫紙という最高峰の祓い人なのに作者が戦闘描写に自信が無いため、主人公なのに未だにちゃんとした戦闘描写が無い。

オロチという大蛇を相棒としており、強力な異形魔なのだがそれを差し引いても芦屋晴道は紫紙祓い人である。

『白山 春樹』→辻村と別れた後に灯台に向かった。残っている部分は顔半分と右手だけ。他は虫食い状態。

『辻村 透』→事件の真相にたどり着いた。しかしこれまでである。

『???』→今回の事件の黒幕。残忍で悪趣味。

『上級異形魔』→呪災指定ほどではないが数が限られている異形魔の上位種。呪災指定異形魔が発見されていない現在、人類の最大の脅威である。異能を使い、多くの祓い人を葬ってきている。

いよいよ大詰めです。

関係ない話ですが舞台となる山や町などは実際にあるものを少し弄ってるので知ってる人はピンとくるかもしれません。

主人公なのに戦闘描写0って…


コメントや評価、アドバイスなど募集してます。

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