3話~獣と拳~ 中編 壱
第3話です。
作者の力量が足りなかったので四部作になっています。
初の戦闘描写を書きましたが、実際に書いてみるとこれがまた難しい。緊迫した臨場感を演出していきたいです。
感想や評価、アドバイスなど募集しております。
暗い、高く長い闇の中で、多くの肉を喰らい尽くす日を希う。
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『日森山』
今回、異形魔が発生したその山は、以前は山登りなどで賑わっていたそうだが、土砂崩れが頻発したため現在は立ち入りが禁止されている。
山登りで賑わっていたと聞いていたが、見上げた件の山は頂上に灯台のようなものが見えるだけの小さな山のようだ。
「さて、これまでの事件の経緯について詳しく説明しましょうか。」
今回の調査の指揮を執る白山さんが手を叩きながら声を出す。穏やかでゆったりした口調ではあるが適度な緊張と気迫が篭っている。
「まず、支部では言っていませんでしたが、2週間ほど前、山の頂上にある日森山灯台に謎の光が発生したと近隣の住民から通報がありました。」
「謎の光?」
いきなり不穏な前フリである。獣憑きには光の類は発生しない筈であるが。
「えぇ、ですので香川県警の警官がまず灯台に調査に向かいましたが、残念ながら帰ってくることはありませんでした。」
老刑事の短く揃えた白髪の短髪が冬の風に撫でられ揺れる。その目は頂上の灯台を見つめている。
「ここからは現場に向かいながら話しましょうか。まず大量の獣が発見された峠道に向かいましょう。
小鉢。すまないが案内を頼む。」
「はい!まかされました!皆さんを安全に峠道までご案内して見せますとも!」
そう言うと小鉢さんはズカズカと山道に入っていく。彼女の迷いのない足取りは、自然と残った俺たち3人を歩みを進ませた。
~
ロープなどで簡単に作られた道を通りながら山の奥へ進むと白山さんが話の続きを始める。
「さて、話の続きですが。調査に向かった警官達が行方不明になった後、なにか不気味なものを感じたのでしょうね。警察の方々から我々に調査の依頼が来ました。
私は経験を積ませたいという思いで白紙の2人を調査に向かわせました。」
たしか、連絡が途絶えたという白紙祓い人2名だったか。調査に向かった祓い人が異形魔と遭遇し、帰らぬ人となるのは特段珍しい話では無い。
しかし、周りにいる人間たちは
〈仕方ないことだ。〉
と簡単に切り替えることが出来ないのだ。それを表すかのように白山さんは拳を握りしめながら口を開く。
「私の…俺の指示で…!あの子達は死んだようなものです…!俺か辻村をついていかせれば!あの子達が死ぬことは…!!!」
先頭の小鉢さんの後ろを歩く白山さんの顔を見ることは出来ない。しかし、その震える声からは多くの感情を読み解くことができ、見えないはずの顔が鮮明に浮かんでくる。
すると、俺の後ろで周囲を警戒していた辻村さんが口を開く。
「白山さん。今は後悔するときではないと思います。2人はまだ生きてるかもしれませんし、俺たちが今できるのは、一刻も早くこの事件を解決して、これ以上犠牲者を増やさないことです。」
「…」
少し冷たい物言いのような気もしなくはないが、横目で見た辻村さんの顔はどこか白山さんを心配してるように感じた。
「…そうだな辻村。すみません芦屋さん。話の腰を折ってしまって。」
「あ…いえ…お気になさらず。」
「さてどこまで話したか。そう。白紙の2人から連絡が途絶えた後、私たちは小鉢に灯台の調査と偵察をお願いしました。」
すると先頭を歩いていた小鉢さんが元気よく振り返る。
「そう!この天才祓い人たるこの私に白羽の矢が立ったというわけですよ!なにせ私の『異能』は『折り紙群』!偵察や調査にうってつけというわけです!ドヤサッサ!」
「こいつは折り紙を契約霊として操る異能を持っているですよ。鶴や紙飛行機の折り紙なら飛んだり、魚の折り紙なら泳いだりできるのでとても便利なんです。」
孫の自慢をするお爺さんのように解説する白山さん。小鉢さんのおかげで先程の陰鬱とした空気はどこかへ飛んでいってしまったようだ。
いいな小鉢さん。京都の根暗ジジイどもの近くに置いて性格を矯正してもらおうか。
いや、小鉢さんが先に汚れちまいそうだ。やはりダメだ。
「丁度2日前くらいですね!私は灯台に行こうとしたんですけど道に迷ってしまいまして!結果峠道に出てしまい、犬の死体の大群を見つけたんですよ!それはもういっぱいいました!」
小鉢さんが手を大袈裟に広げて多さをアピールする。たしか数はおよそ800と言ったか。もはや百鬼夜行。渋谷のハロウィンもかくやというものである。
「怪我の功名というやつかもしれんな。そういえば小鉢。話の腰をまた折って悪いんだが、現在周囲の様子や山の様子はどうだ?折り紙はなんて言ってる?」
白山さんが小鉢さんに問いかける。
「いやそれが…変なんですよ。山に入る時に式神を何体か出して先に行かせたんですけど帰ってこないし、感覚の共有もできないんですよね…」
え。いつのまに式神を。全然気配がなかったな。こんなおちゃらけた人だけど、意外とやるときはやるのかもしれない。
「なに?なんでそれを早く報告しなかった。そうなると話は変わって」
瞬間、俺は辻村さんの服を掴んで横に投げる。
辻村さんは何回か回転した後起き上がったようだ。
「てめぇ!なにしやが」
「総員戦闘態勢!!!!!獣憑きだ!!!!!」
静かな山奥に城山さんの緊迫した声が走る。
先程まで辻村さんがいた場所には3体の犬の死体が捕食対象がいなくなった場所で飛びかかった勢いを止めれずに転がっていた。
「まさか向こうからお出ましとは!歓迎会にしては随分と性急じゃないか?」
軽口を飛ばしながら白山さんが前に出る。その拳にはメリケンサックのようなものがついている。
「お恥ずかしながら。私は異能は使えません。異力を纏い攻撃する基本的な動きしかできませんが。なぁにそれなりに役に立ちますよ。」
「それ。俺にも刺さるんで止めてくださいよ。」
気づけば刀を構えた辻村さんが白山さんの横に立っている。
「…さっきは助かった。ありがとう。」
「…え?」
「2度は言わない。俺は本部のヤツらが嫌いだからな。」
いや、あのジジイどもと同じ扱いしてほしくないんですけど…
こっちもあんなやつらといるのがいやだからわざわざ実家から遠い東京に住んでいるのだから。
「さて、老骨に鞭を打つとしましょうか。」
白山さんが拳を構え、獣憑きに近づく。
迷いのない足取りは白山さんの戦闘経験の高さを感じさせる。
【グルアァ!!!】
獣憑きが白山さんに腐敗した大口を開け、飛びかかる。開いた口は腐敗のおかげか通常より大きく口を開かせている。口内には鋭い牙が乱雑に敷き詰められており、噛まれればたやすく人の肉を切り裂き、すり潰してしまうのだろう。
しかし、白山さんは飛びかかる獣憑きの攻撃を体を捻り、最小限の動きで躱した後、
「シィッ!!!!!」
クロスカウンターを獣憑きに繰り出した。振り抜かれた拳は腐敗した獣憑きの肉体を高速で削り取り、体に大きな空洞を作り出した。
ベチョリと、不快な音を立てながら獣憑きは地面に崩れ落ち、ピクピクと痙攣した後に肉体はブクブクと泡を立て、煙を上げながら溶けて行った。
【ガルアァァァ!!!!】
しかし、敵はまだ2体残っている。クロスカウンターを繰り出し、がら空きになった白山さんの脇腹にめがけて2体目の腐乱死体が大口を開け突進する。
白山さんは横目でそれを眺めた後にもう一体の獣憑きに狙いを定める。
目の前の、しかも攻撃態勢に入っている敵を攻撃の対象から外す。それは戦闘においてあまり得策とされず、人によっては愚策と吐き捨てるに値する行為であるが。
チンッ。
風鈴のような無機質な金属音が鳴ると同時に、白山さんに飛びかかっていた獣憑きの首がボトリと地面に落ち、泡を立てながら消滅する。
傍らには刀を居合のような形で構えた辻村さんがいた。
切られた獣憑きはきっと、自身が切られたことを感じる間もなくその命を落としたに違いないだろう。無駄のない鮮やかで洗礼された動作に息を飲む。
「さて残り一体。情報によればお前たち800体ほどだったか?3体だけとは我々を舐めているのかね?」
白山さんが拳を振り、付着した血肉を払いながら言う。辻村さんも居合の体勢を取り、静かに敵を見定めている。
残った一体は静かにこちらを眺め、
そして、
【アオォーーーーン】
空に向かって遠吠えを上げる。
その動作に全員が防御の構えを一瞬とるも
「仲間を呼ぶ気か!?この狭い山道だとまずい!一旦撤退するぞ!」
白山さんが叫ぶ。
が、
【【【【【ガアアアアアアアア!!!!!!】】】】】
瞬間、どこからともなく現れた大量の獣憑きが洪水のように流れてきた。
その夥しい数によって俺たちは分断されてしまう。
獣憑きの洪水の向こうから辻村さんの声が聞こえる。
「芦屋さん!!!小鉢!!!日森山灯台だ!!!そこで落ち合うぞ!!!」
「了解しました!」
このままでは小鉢さんが怪我をする恐れがあると判断した俺は小鉢さんを抱え走り出した。
「ちょ!?わっまっ!?あぶっ!」
「すみません、少々辛抱してください。」
抱え込んだ小鉢さんの体は軽く、女性特有の香水の匂いがした。
全速力で走ると小鉢さんの体に負担がかかってしまうので少しスピードを抑えながら、山頂の灯台に向けて走り出した。
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・『芦屋 晴道』→個性溢れるメンバー(主に小鉢)に振り回されがち。階級的には白山より上であるが、現地に詳しくない点、勤務経験の長さから現場指揮を譲っている。有事の際は最終指揮権と最終決定権を持つ。
・『白山 春樹』→異能が使えない非異能者。体や拳に異力を纏わせることで攻撃力や防御力を底上げしている。ボクシングの経験があり、戦闘スタイルボクサースタイル。
・『辻村 透』→異能が使えない非異能者その2。体や刀に異力を纏わせることで攻撃力や防御力を底上げしている。剣道の段位を所持しているが、本人の戦闘スタイルは居合寄り。
晴道に投げられた時すぐに怒ろうとしたが、自分を投げ飛ばした筈の晴道が既に自分の横にいたことに驚いて怒るタイミングを逃している。
・『小鉢 彩音』→香川支部の異能者。折り紙を式神として使役する異能、折り紙群を使用する。
偵察や斥候向きであり、本人も自身が戦闘向きでは無いことを自覚している。
ちなみに折り鶴を20秒で作れる。
・『折り紙群』→小鉢 彩音の異能。自身が作った折り紙を式神として扱うことができる。作られた折り紙は元となった対象の特性を簡単に得ることができ、紙飛行機なら空を飛べ、犬なら匂いを追跡したりできる。
ただし、元が紙のため火や水に弱い。(魚の折り紙は魚という泳ぐ特性があるため水に強くなっている)
『日森山』→山頂に日森山灯台がある山。土砂崩れが多発して立ち入り禁止になる前は登山などで人気だった。
事件が始まる2週間前に稼働していないはずの灯台にて謎の光が発生している。
この作品を見てると前見た時と文章が違ってるように感じることがあると思いますが、それは作者が今後の展開や修正のためにこっそり編集しているからです。
読者の皆様にはご迷惑をおかけし、申し訳ありません。
今後は設定や話の構成などをよく練り上げてサイレント編集などを無くしていきたいです。
最後に作品をお読みいただきありがとうございます。
感想や評価、アドバイスなど募集しております。