カイザー
「殿下、あまりしつこくするとリーリエ妃に嫌われるぞ?」
仕事で幼なじみのルクナス公爵家嫡男ルイフォンが遊びに来ていた。
「ほら4年前だって、リーリエ妃がリプトスへ戻らないように頑張ってたもんな」
ニシシと真っ赤な髪を揺らしながら悪友は笑っている。
「うるさいな。仕事終わったんなら早く帰れ。」
「まぁ、俺だったら絶対行かせないけどな笑」
こいつの人の話を全く聞く気がない所は昔から変わらない。
「だってリプトスにはほら、リーリエ妃の婚約者候補だったやつがいるんだろ?マースにそんな奴がいたら俺は息の根を止めに行くかもなぁ笑」
マースとはこいつの昔からの婚約者の伯爵令嬢だ。
「婚約者候補では無い。ただの幼なじみだ。」
「はいはい。そんでその幼馴染みくんもお姉様の結婚式に参列なさるんだろう?嫌だねぇ笑。」
「お前楽しんでるだろ?」
そう。そうなんだ。
きっとあの憎たらしい男とリーリエは必ず顔を合わせるはずだ。リプトスへ仕事を作って同じ時期に訪問しようか…。
でも、リーリエに嫌われたくないし。
「もう殿下が目移りできないように送り出すしかないだろ。」
「どういうことだ!?」
「だーかーら、カイザーの事だから、まだキスとかしてないんだろ?ロマンチックなキスなんかされたらリプトスでもお前のことしか考えられないはずだろ。物理的には無理でも心理的に繋げておくことはできるってこと。じゃ俺帰るわ。金髪イケメン君に勝てるといいな。」
「おう。気をつけて帰れ。」
なるほど、そんな手があったのか。
でもロマンチックってなんだ?ロマンス劇を見に行ったことはあるが暇すぎて寝てしまいほとんど覚えていないし……。
娼婦達に相談したいけどまた誤解されたら困るし……。
そもそもキスだなんて結婚式でしかしたことが無い。手だってまともに繋いだことは無いし、抱きしめたことだって寝ている時しかない。
コンコンコン
「カイザー殿下。資料が届いております。」
……っ!
「なぁダラム殿一つ質問なんだが、ロマンチックとやらはどうやれば身につく?」
「ロマンチックですかっ?申し訳ございません。私そちらの方面には疎いものでして。参考程度にリーリエ妃の愛読していらっしゃるロマンス小説をお持ち致しましょうか?」
その手があったかっ!そうだ。リーリエの理想を参考にすればいいのだっ。
「よろしく頼む。今すぐ持って参れっ。」
そう言うとダラム殿が決死の様子で部屋から出ていった。
そして5時間後……
「おいっ。なんだこれは。」
「そちらがリーリエ妃の愛読していらっしゃるシリーズでございます。」
信じられない。信じたくもない。
その物語は金髪碧眼の騎士が隣国の姫が眠っている茨の森から救い出すという話。
実はリーリエの幼なじみは金髪碧眼なのだ。それに加えリプトスの3つの剣と呼ばれる家門ネイザル伯爵家の次男坊であり、奴の師匠はリーリエの父リアプール公爵なのだ。
もしかしてリーリエは奴が助けに来てくれるのを待っている?
あぁ、本当に行かせたくない。もう帰ってきてくれないかもしれないんだ。
「殿下、殿下は行ってはなりませんよ。」
ダラムがなんか言っているが全く耳には入ってこなかった




