カイザー【15】
「よぉおはよ。カイザーどうしたんだよ。」
「え?別に。」
「あ、リーリエちゃんだっ!ひゃぁ〜今日もとびきり可愛いねぇ。な?カイザー?」
「知るかよ。」
「あらあら。絶賛思春期ですねぇ〜。」
13歳を過ぎた頃からだろうか、今思えば友人の言った通り思春期だったのだろう。
リーリエと面と向かって話すのが恥ずかしくなって段々と距離を置いていた。それでもリーリエは綺麗になっていって周りの目もリーリエを次期王太子妃ではなく一人の女性として見始めたのだ。
それでも12歳で共にデュピタントに出てから1・2年は王太子と言う最強の切り札で他の男たちを牽制していたが今はもう15歳。
周りは俺の不器用な性格を(冷めている)と捉え始め牽制も効かなくなってきていた。
「てか、カイザー今日も茶会くる?」
図々しいこいつは我が国を支える五代公爵家の1つリナクス公爵家の嫡男であり俺の昔からの幼なじみ、ルイフォンだ。
「……あぁ行くよ。」
そして、俺がリーリエとの関係を疑われている理由がこれ。
情報交換の場として学生に設けられている交流所。
通称茶会。
これにはどの階級の貴族も男女問わず参加することができる場所だなのだが、
俺はリアプール公爵にリーリエとの婚姻で
「リーリエよりも優れており優秀なものでなければ娘との婚姻は認めない。」
と言われているので必死で情報をかき集める必要がある。
だが、茶会には俺や俺の友人たち目当ての令嬢も多く傍から見れば俺は婚約者をほったらかして優雅に他の令嬢方と茶を飲んでいる野郎に見えているというわけだ。
アカデミーの授業が終了すると直ぐにルイフォンは俺のところに来た。
「おい、カイザー行くぞっ!」
こいつはきっと情報よりも令嬢とお茶を飲めるのを楽しみにしているような気がする。
茶会に入ると
「ご機嫌よう。カイザー殿下。」
「本日も大変素敵ですわっ。」
「ご機嫌麗しゅう。本日授業でカップケーキを焼きましたの、もし良かったらいかがですか?」
など、周りはとにかく俺に媚びをうってくる。
「あぁ。さて、始めようか。」
リーリエに言われたらきっと倒れてしまっていただろう言葉でも他の令嬢から流れる褒め言葉は何も響かない。
あー、リーリエも今日カップケーキを作ったんだろうか。
そんなことを考えていると
「カイザー殿下はお聞きになっているかもしれませんがリーリエ様が留学なさるとか」
「あら、そのお話私も聞きましたわ。ご出身のリプトスへ1年勉学に行くのだとか。」
俺はそこで初めてリーリエがリプトスへ帰ることを知った。
それからは全く話が入ってこなかった。
リーリエがリプトスへ帰る?もう帰ってこなかったら?
リアプール公爵が返してくれなかったら?
リーリエと1年も会えないのか?それになぜ俺に言わなかったのだ?
「では、次回の茶会は来月ってことでよろしいですわね?」
気が付かないうちに茶会は終了したようだった。
「すまん、カイザー今日婚約者と帰らなくては行けないんだ。先に帰るな。」
そう言ってルイフォンは足早に帰って言ってしまった。
婚約者と一緒に帰る……。
俺とリーリエは一緒に帰ったことがあるだろうか。
いや、あったな。あった。ここ3年ほどはないが。
そう思いながら茶会室を出ると、
「あっ、あのカイザー。久しぶり、」
リーリエがいた、、本当にリーリエがいた。
「あ、あぁ。」
「あのね、今日授業でカップケーキを作ったんだけどね。初めてにしてはかなり上手にできたと思うの。だから食べてくれる?」
約1ヶ月半ぶりのリーリエの上目遣い。
こんなに面と向かって話すのもそれくらいぶり、
かわいい。嬉しい。
リーリエの手作りだったらきっとなんでも美味しい。
そうやって言えばいいのに俺は
「あぁ。」としか答えられなかった。
「どう?美味しいでしょ?」
あぁもちろん。本当に美味しい。食べてしまうのがもったいないほど美味しい。
「あぁ。」
俺は馬鹿なのか?なぜそんな返事しかできない?
「本当に?良かった!」
一緒に帰ろって言うんだ。ほら俺っ、一緒に帰ろうって言えっ!
「……あのね。それで実は、私リプトスに1年留学に行ってくるの。」
「行かないで欲しい。」
!?俺何言ってんだよ。男らしくないっ。
最悪だ、女々しいとか思われたらどうするんだ。
「ふふっ、そんなの無理よ。急にどうしちゃったのよ」
なんでそんなに優雅に笑っていられるんだ??
……そうか。そうだよな。昔からリーリエは別に俺がいなくてもいいもんな。
「元気でね、カイザー」
うわぁっ!!どうやら俺はリーリエと喧嘩した後一人で部屋で泣いて寝てしまっていたようだ。
こんなの絶対誰にも見せられない。
あぁ、最悪な夢を見た。
リーリエがまたリプトスへ行ってしまうなんて。
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