カイザー
ガタガタガタガタ…
リーリエの小さくて少し冷たい手を握りながら俺はさっき言われたことを考えていた。
〜「これはこれは、本日はご来場いただき誠に感謝しております。王太子殿下。」
レイラに挨拶をした後に話しかけてきたのはアイザン公爵だった。
「あぁ。アイザン公爵。この度は娘さんが無事に帰国しよかったですね。」
「ありがたきお言葉でございます。
それはそうと、まだカイザー殿下は白い婚約中だとか。
まだ19ですし心配する必要はありませんがあちらもリーリエ様を返して欲しいと仰っているとお聞きしました。
そこで提案でございますが、リーリエ様は祖国で暮らしうちのレイラを側室として城に迎え入れるのはいかがでしょうか。」
「…あぁ。心配をかけてしまっているようですね。
私たち二人の問題でもありますからお気遣いなく。」
そう言ってその場を後にするしか無かった。
そうなのだ。リーリエはオレティ出身では無い。
リーリエは我が国を支える5つの公爵家の1つリアプール公爵の次女である。
しかしながらリアプール公爵家はつい25年ほど前まで貴族の間でも名前が知られていないほど没落しいた。
それを危惧したリーリエの祖父はリアプール公爵家の名を再びオレティ全土にひびき渡らせようと一人息子である唯一の跡継ぎ、カルバス・リアプール(リーリエの父)をオレティとの交友国であったリプトス国へと送り出したのだ。
その時友好国リプトスは大戦争時代とも呼ばれていた。
その大戦争時代へリーリエの父カルバスは出向き、終結まで後30年はかかると言われていた争いをわずか2年で終わらせたのだ。
その栄光を称え我が国オレティでも、そして友好国リプトスでも勲章を授かるなどリアプールの名を轟かせるには十分なほど成果を上げて帰ってきた。
しかしそれだけで終わらなかったのも事実であり、カルバス・リアプールはリプトスの3番目の姫シンシア・リプトリアスとの間に子供を成して帰還した。
そして、リプトスでも公爵の位を授かり今では我が国で1番、そしてリプトスでもかなりの権力を持つ男となったのだ。
そしてリアプール公爵は俺とリーリエの婚約を心底嫌がっていた者の1人でもある。
ことある事にリーリエをリプトスへ連れて帰ろうとするのだ。俺が悪いのもわかるが、それでも少し落ち込む。
必死に頼み込んで出された条件がリーリエとの間にできた子を1人オレティの方の公爵家の後継者にするということでなんとか婚約できたのだが俺たちの間には子供はおろかそういう関係もない。
全く欲がない訳では無い。
なんなら手を握っただけでもう我慢できそうにない。
それでも、彼女を大切にしたいし彼女は俺の事なんかきっと好きでは無い。だから迂闊に手を出すことはできないのだ。
でも急がなくては……さっきだってちょっと目を離した隙にたくさんの貴族たちが学園時代と同じ目をしていた。
リーリエしか見えないと言わんばかりの惚れ惚れとしたあの顔。気に食わない。
いっその事仕事なんか全部捨ててリーリエと2人きりで遠い場所に逃げられたら……。
俺と彼女しかいなくてちゃんと好きだって伝えられたら。
「どうしてそんなに怖い顔をしているの?」
リーリエが顔をのぞきこんできて俺のシワのよった眉間を指でグリグリしてきた。
かわいい。
「2人で遠くに行きたい……。」
「え?どういうこと?……あ、新婚旅行の話?確かにまだ行ってないけどでも貴方にも私にも仕事があるでしょ?」
新婚旅行っっ!!、!
あー、俺たち本当に結婚したんだ。リーリエも俺と結婚したって認識なんだ。そうか、行きたいな新婚旅行。
「仕事なんかどうでもいいさ。新婚旅行どこがいい?」
「もうぉ。ふふっ。そうね、ムサム王国に行ってみたいわね。」
!?ムサム王国ってリーリエに香油を渡してきたあいつがいる国だろ!?それは無いだろ。
「私海って見たことがないの。ほら私たちの国って大陸でしょ?だから島国に行ってみたいのよ。」
……海?なるほど、海か。
「、、そうだな。行こう。」
それから帰り道は実現する可能性なんてすごく低いことを2人とも理解していながら空想の旅行計画を立て帰った。
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