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二話 旅立ち

俺が目を覚ましてから一ヶ月ほど経っただろうか。 


もう体の痛みはほとんど無くなっていた。


ヘルメにお世話になっているうちにこの村や彼女についていろいろなことが分かった。


まず、この村は国などの範疇にはなく、身寄りのない子供や家族のいない者たちで作り上げた村らしい。種族も色々いるらしく、人族、獣族、エルフ族 などで賑わっている。ちなみに俺が倒したゴブリンのような奴らはモンスター族で一括りにしているらしい。 異世界らしくなってきたな。


この村の人々はとても温かい。 俺がどこから来たのかも聞いてこない。


かくいうヘルメも過去の戦争で親を亡くしており、一人のようだ。


 

この村で大事に育てられたのがよくわかる。 村全員で大切に育てられた、いわば娘を救った俺は感謝されているが、年が近い雄からしてみればこんなかわいい雌はみんなの憧れだろう。


そんな子の家に一ヶ月ほどいたわけだから、一部の雄からは敵対視されているようだ。


ー--


「おいおまえ、いつになったらここから出ていくんだよ。もう怪我は治ってんだろ」


村を歩いていると、後ろから突っかかる声が聞こえた。声の方向に顔を向けると、そこには物凄い威圧感を持ち、こちらを睨むライオンのような男が立っていた。


「あぁ、用が済んだらすぐに出ていくよ。ただ、今は情報が足りないんだ。迷惑かけて申し訳ない。」


相手の神経を逆撫でないように穏やかさを心掛け、へりくだって接した。

こいつの名前はライオネル・ビヨンド 

ライオンを擬人化したような見た目で、身長は2メートルは優にある。獣人族だ。この村一番の喧嘩自慢らしい。後ろには子分らしき獣人を二人連れている。 ライオンみたいだからライオネルって覚えやすくていいな。 ていうかこの世界にもライオンっているんだなぁ。


「情報だぁ?お前以上に不可解な存在がどこにある?言っておくが、お前のことは全く信用しちゃいねえ。急に森に現れ、森の主を一撃で倒したかと思えば倒れて、一週間以上眠り続けた。どこから来たかも覚えていない。そんなやつを村に置いとくなんて危険すぎる。もしお前がこの村に敵意を向けた場合、俺はすぐにでもお前を殺す。」


 ギロっとこっちを睨みつけ、凄む。


ものすごい殺気だ。冷や汗が頬をつたる。逃げ出してしまいたい。 てか、あのゴブリン、主だったのか。やっぱスキル自体は強いのかもな。


それは置いといて、こいつの言ってることは至極当然のことだ。異世界から来たなんていっても信じてもらえないだろうし、うまく説明もできないと思い、記憶を失ったことにしている。

ライオネルはこの村の用心棒の役割も担っている。 俺みたいな存在は駆除対象だ。

今俺が殺されていないのは、ヘルメを助けたからだ。それだけで生かされている。

言い返す言葉もない。


一触即発の雰囲気が流れる中、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。 


「ハジメさー-ん!ご飯の時間ですよー!今日はいい羊肉が入ったんです!   あっ」


俺に話した後、横にいるライオネルに気づき、目を向け、表情を変えた。


「ちょっとライオネル!またハジメさんにイチャモンつけてるんじゃ無いでしょうね?!」


ヘルメは自分より二回り以上も大きい相手に向かって詰め寄っていく。


「私が生きているのは、ハジメさんのおかげなんだからね!」


「ケッ、うるせえな、俺は村の事を思って言ってんだよ!お前は相変わらずこの雑魚の肩を持ちやがる!気に入らねぇ。今までお前やこの村のことを守って来たのは誰だと思ってんだ!」


「あなたがこの村を守ってくれてるとしても、彼の事を悪く言うのはやめなさい!」


「お前や村長がどう言おうと俺はこいつを信用しねぇ。せいぜい見張っとくんだな。俺がそいつを殺しちまう前にな。行くぞお前ら。」


ライオネル達は振り返って歩いて行った。 


「ふぅ。ごめんなさいね。 なんど言ってもあの調子で...」


「いや、いいんだ。言ってることは正しいからな。 ちょっと怖すぎるけど...」

ひきつった笑みを浮かべる。

「でも!命の恩人にあんな言い方、許せません!」

食い気味に俺に詰め寄ってくる。


「いや、そろそろ出ていかないとは思ってたんだ。いつまでも世話になる訳にはいかない。本当に世話になった。おかげ様で体も快調だ。」


不安そうで、悲しそうでもある顔でこちらを見つめるヘルメに対し、俺は元気に務めて返した。


正直、分かってないことだらけなのが現状だ。しかし、いつまでも迷惑はかけてられない。この世界に来てまで、誰かの脛かじりではダメだ。とりあえずスキルを扱えるようにならなければならないだろう。


町の方に行けば、冒険者としてお金を稼げるらしい。そのためにもスキルを自分のものにしないと。

使う度に一週間も寝てたら生きていけない。


「ヘルメ、最後の頼みなんだが...この村、もしくは知り合いでもいいんだが、スキルの使い方がうまかったり強かったりする人に心当たりはないか?」


「最後だなんて!教えたら出て行ってしまうなら、絶対に教えません!先に家に戻ってますから!」


フイっと顔を背け、走り去ってしまった。


どうしたものか...なんでか分からないが、彼女は俺のことを気に入ってくれているようだ。とても嬉しいことだ。前世ではこんなことありえなかっただろう。だが、ヘルメのようないい子を独り占めなんてしてはダメだ。


明日、いや今日にでもここを出ていこう。ヘルメには悪いが、戻ってしまうとまた彼女の優しさに甘えてしまう。そうだ、村長に尋ねてみるか。彼なら知り合いが多いだろう。気がする。

あてがなければ...どうしよう...


まぁよくないことばかり考えていても仕方がない。とりあえず村長の所に顔をだしてみよう。

世話になったし、挨拶もしておきたいしな。


ー--


たしか...この辺だったような... お、あったあった。


「ごめんくださーい、村長、いらっしゃいますか?」 


のそのそと部屋の奥から杖をついて歩く音が聞こえ、キーっとドアが開き、灰色の立派な髭をこさえた老人が姿を見せた。


「おぉ、誰かと思えばハジメ殿か!体のほうはどうじゃ?ワシはあまり村に顔を出せんからな。心配しとったんじゃ。ささ、入るんじゃ、お茶でも出そう。」


この気のいい老人の名前はヘルダス この村の村長だ。俺の事を気にかけてくれており、感謝してもしきれない。


「えぇ、おかげ様で快調です。本当にありがとうございました。」

心からの感謝とともに深く頭を下げた。


「....ございました、か。出ていく事を決めたんじゃな?」


さすが村長とでも言おうか。鋭い人だ。


彼はお茶をゆっくりすすりながら、大きく息を吐いた。


「ヘルメは、悲しむじゃろうなぁ。もう伝えておるのか?」


「いえ、何も言わずに出ていこうと思っています。一度でも会ってあの笑顔に触れてしまうと、また優しさに甘えてしまうでしょうから。」


「ふむ...それがヘルメの望みだと思うんじゃが... お主が決めたのなら、ワシは止めぬわい。

この事を知られたら、ヘルメに嫌われてしまいそうじゃが...」

微笑みながら肩をすくめた。


「時にお主、行く当てはあるのかのう?どうするつもりじゃ?」


「今日はその話をしに来ました。 担当直入に言います。 強い男を紹介してください。」

彼の眼をまっすぐ見つめた。


「強い男、か。大方どうするのか見当はつくが... ライオネルじゃいけないのかのう。アレは性格こそあんなじゃが、実力は折り紙つきじゃ。そうなればこの村に残れるじゃろう。ワシもヘルメに嫌われなくてすむからのう...」


髭を触りながら目を閉じ、考える仕草を見せた。


俺の表情は変わらない。ジッと彼を見つめる。


「その表情じゃ、ダメみたいじゃのう....。ダメ元じゃったが、お主の事をあやつが嫌っているのもしっておる。

一人、心当たりがある。

難しいやつじゃが、実力はワシが出会ってきた者では一番じゃ。

剣術に長けており、二つ名は「鬼」

あやつがお主の面倒を見るような奴とは思えんが...

それでも良ければ伝達を送ろう。いつ出発するつもりなのじゃ?」


「早い方がいいです。今日の夜明けにでも。」


「そうか...では奴の元に今から伝達を送ろう。この地図にある王国の位置を示してある。ついたらまずギルドに向かうがよい。そこで合流するようにつたえておこう。

気を付けるのじゃぞ。お主が死ぬことがあれば、ワシはヘルメに嫌われる所じゃ済まんだろうからな。」


彼は大きな鷲のような鳥の足に紙を巻き付け、外に出てから大空へ羽ばたかせた。


「ふぅ、これで三日後には合流できるようになるじゃろう。」


「そうじゃ、これも持っていけ。」


家の中に入り、緑色の液体の入った瓶を三つほどをポーチに入れ、乾燥した肉とお金が入った袋を入れて渡してくれた。


「それはポーションじゃ。お主のスキルの反動全部を治せるとは思わんが、動けるくらいにはなるじゃろう。お金は少量じゃがくいつなぐことはできるじゃろう。ワシに出来るのはこのくらいじゃ。後はお主次第じゃ。お主の無事を願っておる。ヘルメの為にも。」


「このくらいだなんてとんでもないです...本当にありがとうございます。この村に来てから今まで、

感謝してもしきれません。この恩は必ず返します。約束します。」


俺は真剣な目で彼を見つめ、恩を返すことを心に誓って、深く長い間、頭を下げ続けた。


「ヘルメにもよろしくお伝えください。こんな別れ方になって申し訳ない。いつか必ず恩を返しに戻ってくる、と。」


「わかった。しかと伝えることを約束しよう。」


「ありがとう、ございます。..........では、行ってまいります。また、いつか。お体に気を付けてお過ごしください。」


「ほっほっほ、お主に心配されるほど老けとらんわい。じゃが、まあ恩を楽しみに生きていくとしようかのう。」

髭を触りながら大きく笑って家に入っていった。


その後ろ姿に深く頭を下げ続けた。


「よし、いくか。」


ここからはまた一人だ。甘える相手もいない。 覚悟を決めなければならない。 気合を入れなおし、

夜明けに向かって歩き出した。



ー--


テーブルには二人分の食事、羊肉をふんだんに使った豪華な料理が並んでいる。

そこには、村長と話した後、泣きながら怒り、疲れて家に戻っていた一人の女性が座っていた。


「なんで、顔も見せずにいなくなっちゃうんですか.... ひどいですよ、ハジメさん... がんばって作ったのに... 元気で帰ってこないと本当に許さないんだから。  待ってますからね....。」


彼女は一人呟き、机に突っ伏して、眠りについた。


ー--


とある山奥、人の気配が全く感じられないモンスターの巣窟、そこに男はいた。


剣が風を切る音がし、また一つワイバーンの首が飛ぶ。


「やはりこのワイバーンの量、あいつの復活が近づいてきているなぁ。めんどくせえ。」


剣を腰の鞘に納めた男は、けだるそうにつぶやいた。


この男の名は ラヴァル・レイス 返り血に染まりながら敵を屠っていくその姿から、「鬼」

と呼ばれている。


彼は、一息ついてから横たわる竜の体を、手に掴めるサイズまで切り刻んで火にかけた。


そこに一羽の鷲が飛んでき、彼の肩に止まる。 足には紙を巻いている。

慣れた手つきで紙を外し、読む。


{定期連絡}


拝啓 ラヴァル


 調子はどうじゃ。モンスターの調査は進んでいるだろうか。

最近こちらでもモンスターが増えてきておる。間違いなく奴の復活が近づいてきているのじゃろう。

そこの調査を進めた後、ムクロ王国に向かって貰いたい。 そこに奴の魔力を強く感じる。

王国での調査は困難を極めるじゃろう。 ちょうどお主に会いたがっている男がおる。

雑用にでもなんでも使うがよい。 三日後にはムクロ王国につくことになっておる。

そこで合流してほしい。 お主が嫌がるのは分かっておるが、ワシに免じて面倒を見てやってくれい。

また連絡しよう。お主からの情報も待っておる。 連絡方法はいつも通りじゃ。

では、幸運があらんことを。    

                                ヘルダス・バモス


「あのじじい、まためんどくせえこと押し付けてくれやがったな。調査は一人の方が楽だって言ってんのによお。 まあそろそろここでの調査も頭打ちだったところだ。とりあえず王国に向かって適当な理由つけて追っ払うか。」


けだるそうに呟いて王国に向けて足を動かした。


厳しい意見でもなんでも言ってくださると嬉しいです。

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