夕方のお出迎え
「あー、どおもぉ?」
この日は早く学校が終わり、バイトもなかった。
よって夕方帰ってくると、例の女性は僕の部屋のリビング、ソファにどっかり座って、テレビなど見ていた。
僕は今度、違う意味で呆気にとられた。
確かに朝、家に引き込んでソファに寝かせておいて、でも自分は学校に行かざるを得なかったので放置して出掛けたのだけど、まさか、昼の間、ずっと居たというのだろうか?
「え、あ、あの、どうして」
僕はおろおろしてしまった。
何故自分の家に帰っていないのか。
ソファでテレビなんて呑気に見ているのか。
混乱した僕に、彼女はちょっと口をとがらせる。
「この家の鍵がなかったんだもん。開けっ放しであたしの家には帰れないでしょ」
そう言われて、僕は額を押さえた。
そうだった。
彼女はいつでも家に帰れただろうが、この家の鍵は置いていかなかった。
つまり彼女が帰ってしまえば、家は無人で、おまけに施錠されていない状態で放置されることになったのだ。
それは困る。
彼女が居座っていたのとは違う意味で困る。
しかも鍵まで気が回らなかったのは僕なのだから、これ以上責められない。
まったく、なんて日だ。
隣人の女性を介抱したがために、家で過ごされていたなんて。
「大丈夫よぉ、あたし、さっき起きたとこだし、部屋の中なんて弄ってないから」
「それは……ありがとうございます……」
こんな夕方近くまで寝ていたというのはまったく誇れないことだが、後者に関しては助かったので、一応お礼を言った。
「スマホも充電切れしてたし、暇だったから」
テレビを見ていた理由はそれ。
確かに手持ち無沙汰になるだろう、と僕は「そうですか」とだけ答えた。
しかし僕が低姿勢だったからか。彼女はテレビを放り出して、リビングの入り口に立ち尽くしていた僕のそばまでやってきた。
「ねぇ、お腹空いた」
「……は?」
まったく邪気のない目と声であった。それゆえに僕は気の抜けた声を出してしまったわけだが。
お腹空いた。
この状況で僕にそう言ってくるということは、つまり……。
「自分の家で食べてくださいよ! もう帰れるでしょう!」
つまり僕に食事をタカろうとしているわけだ。
僕は呆れた。
いい大人が、しかも僕より年上だというのに、散々助けてもらった挙句、ご飯までねだろうなんて。
流石に図々しくないか。
そう思ったのだが、僕がお人好しなのか。
それとも彼女の様子があまりに邪気無かったからか。
「えー、帰っても冷蔵庫、空だもん。コンビニ行くのもめんどい」
前者はともかく、後者はどうなんだ!?
いや、冷蔵庫に食材のひとつもないのもどうかと思う。
思ったが、悲しいことに。
断り切れずに僕は彼女にご飯まで振る舞うことになってしまったのだった。




