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二人の朝は塩おにぎり  作者: 白妙スイ
3/7

ただいまのあとに

 僕は都内の公立大学、人文学部に籍を置く大学生。

 この春、めでたく二年生に進級したところだ。

 大学生活にはすっかり慣れ、二年目ゆえの余裕も出てきて、ついでに就活まではまだまだ時間がある、そんな気楽な時期。

 成績もそこそこ、出席日数も問題なし、サークルは少しだけ絵をたしなむゆえに美術サークルなんてもの。

 バイトはスーパーのレジ打ち。たまに余った食材なんかがもらえて家計も助かる。

 このように、実に健全で品行方正な大学生である。

 大学を機に茨城の実家を出て、都内の小さなアパートに独り暮らしをはじめた。

 茨城から通うのも絶対に無理というわけではないが、電車に何時間単位で乗らなくてはいけない。

 それでは貴重な大学生という時間が勿体ない、と親に掛け合って、「まぁいい経験だろう」と独り暮らしを許してもらったのだ。

 今日も例により、一限からの授業に真面目に出席し、何コマかの授業を消化して、夕方からはバイト。レジ業務を数時間こなし、夜七時には退勤。

 お疲れ様です、とスタッフに挨拶しつつ、バックヤードでエプロンを外して、タイムカードを切って、おしまい。

 行きと同じように自転車で帰る。昨日買い物をして帰ってきたから、今日は冷蔵庫のストック食材でなんとかしよう、と思う。

 帰ってきて、誰もいない部屋だが「ただいまー」を一応言い、真っ先に向かったのはベランダだ。

 朝、ちょっと謎な置き方でランチバッグをセットしたところ。

 ランチバッグはそのまま、ただし掛け方は逆向きになって、そこにあった。

 つまり手にしてくれたということだ。

 僕の顔がほころぶ。


 さて、どうだったかな。


 思いながらランチバッグを回収して、部屋に戻る。キッチンでランチバッグを開けた。

 朝に入れたふたつのおにぎりは消えていた。代わりに小さなメモが入っている。


『ありがと。おいしかった』


 ボールペンでそれだけ書いてある。

 だが僕にとっては極上の褒め言葉であった。

 厚意でしていることだけど、お礼を言われたら嬉しいではないか。

 僕はメモを二度ほど繰り返して読み、そしてキッチンの棚にある小さな箱に入れた。

 そこには同じようなメモが、もう五、六枚溜まってきている。

 そのくらいには、この朝のおにぎりと夜のメモは、僕と相手の間で習慣になりつつあったのだ。

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