ピンクチェックのランチバッグ
「これで良し」
朝食を終え、身支度を整え、大学に出発する準備はできた。
最後に僕は、食卓に残った二つのおにぎりに手を伸ばした。
アルミホイルを、ぴっと引き出して、ひとつずつくるむ。潰してしまわないように、優しく。
そうしてから小さなランチバッグにそれを入れた。
ピンクチェックで、中は保冷のための銀色のシートが貼ってある。
これから暑くなる季節だからと選んだものだ。もっとも、真夏になってしまえばこれだけでは足りなくなるだろうけど。
ふたつのおにぎりを入れたランチバッグの蓋をしっかり閉めて……僕が向かったのはベランダの窓であった。
玄関ではない。学校に持っていくものではないのだから。
がらら、と大きな窓を開けて、ベランダに出る。
左側にある間仕切りの隙間にかけてあるS字フックにランチバッグを引っかけた。
今の時間はちょうど日陰になる位置なのだ、奇妙な場所にピンクのランチバッグはぶら下がった。
これで本当に良し。
僕はこの光景に満足して、今度は心の中で言った。
室内へ戻り、がらら、と窓を閉める。今度こそ大学へ出発だ。
通学バッグを掴んで、玄関へ。靴を履いて、ドアを開けて、外へ出たら鍵をかけて……。
内階段を降りて、オートロックを抜けて、自転車置き場へ。
自分の自転車を引き出して、またがる頃には思考はもうすっかり今日、一限の授業のことに移ろっていた。