朝はおにぎり作りから
朝の陽射しがキッチンの窓から差し込んでくる。
きらきらしたそれはなんだか雪の粒が降ってきているようだ、と、この初夏にはありえないことを思う。
でもそれくらい気持ちいい。まだ冷房も要らないくらいの一番過ごしやすい季節。そんなときに寒さも感じず雪が感じられるなんて。
そんな雪を浴びている僕は、先ほど炊飯器からボウルによそって、少し冷ましていた炊き立てご飯にしゃもじを入れる。軽く混ぜて、温度を確認。
うん、いいだろう。
まな板の上に広げておいたラップの上に、軽く塩を振る。さらさらっと、雪の粒がラップの上に散らばった。
その上に少し温度の冷めたご飯を、しゃもじですくって乗せる。乗せたその上にも軽く塩を振って。
ラップを両側から持ち上げるようにして、ご飯を丸くまとまるような形にして、手の中へ。
僕の手の中にちょうど収まるくらいの大きさと量。ちょうどいいだろう。
手の中に入れたら、きゅ、きゅっと優しい力で握っていく。
力を込めすぎるとぎゅうぎゅうに詰まってしまうし、逆に弱すぎるとぼろぼろっと崩れてしまうだろう。
だから力の加減をしながら、優しく握る。
三角の形になるように手を使って、時々転がして位置を変えていくうちに、白ご飯は『ご飯』から『おにぎり』に育て上げられていく。
しばらく握ったら完成だ。
お皿の上でラップを半分剥がす。残ったラップ部分の上からそっと、お皿の上に着地させた。
見た目はただの真っ白いおにぎり。
実際、中にはなにも具などは入っていない。
でも入っていなくていいのだ。
このおにぎりを食べるひとは、まさにそれをご所望なのだから。
この工程を何度も繰り返して、お皿の上には塩おにぎりが五つ並んだ。大き目のお皿だが、いっぱいになる。
今度はおにぎりの状態が馴染むように少し置いておく。包むのはそのあとだ。
さて、次は僕の支度。
僕はあらかじめ作っておいた味噌汁の入った鍋の蓋を取った。
ふわっと、出汁と味噌の食欲そそる香りが漂う。
その香りに空腹を刺激されて、お腹が鳴りそうになった。
味噌汁がしっかり煮えていることを確認したら、あとは簡単におかずを準備するだけ。
フライパンをコンロにかけて、熱した上にウインナーを何本か投入した。ころころ転がすだけでいい。
その間にレタスの葉を根元から剥がして、軽く洗って、小さく千切る。
次には大きなトマトをまな板に置き、とんとん、と六つ切りにする。
今日はこれだけ。でも立派な朝ご飯だろう。
すぐにウインナーも焼けて、レタスとトマトと共にお皿に盛りつけた。
味噌汁もお椀によそう。一人分しか作っていないので、それで鍋は空になった。
塩おにぎりの乗ったお皿から三つを取って別のお皿に乗せて、さて朝ご飯だ。
「いただきます」
小さめのダイニングテーブル。
今日は独りで食卓に着いた。
いや、独り暮らしなのだから、独りで着く日のほうが多いけれど。
手を合わせ、まずおにぎりに手を伸ばす。
ふっくら握れたそれを両手で持ち、がぶっと噛みつく。
ふわっと塩のしょっぱさが広がり、それはちょうどいい加減であった。
そのあとにはふっくら炊けて、優しく握られた白ご飯のほっこりした味。
朝は塩おにぎり。
少し前からそんな習慣になってしまったのだけど、今では欠かせない習慣になっていた。