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ユウナとディエン

 「うっ、うっ。」

 毛布をかぶりながら泣き続けるディエン。その横でユウナは優しく体をさすっていた。

 「どうしたのよ。」

 「うっ、うっ。」

 「言いたくないならいいわ。ねえねが側にいるわ。」

 「うう、ねえね。」

 それからしばらくユウナはディエンに付き添った。太陽がすっかり地平線に隠れるころ、ディエンは泣きながら眠りについた。

 「シエル様。」

 扉が開いてユウナが出てきた。

 「待ってらしたの?」

 「泣き止みましたか。」

 「ようやくですね。何があったのかは知りませんが…。あれだけ泣く妹は初めて見ます。」

 「そうですか…。」

 シエルも言ってよいものか迷ったが結局詳しくは説明しないことにした。

 「シエル様も疲れたでしょう。一緒にお茶でもいかがですか。」

 「はい。」

 憂鬱さは取れなかった。 


 朝の鐘がなる。

 「ひゃあ、寝過ごした。」

 シエルは急いで着替えてユウナの元に走る。

 「遅いぞ。たるんでる。」

 ユウナの隣にはすでに正装したディエンが立っていた。目の端には泣きはらした跡があったが態度と口調は前の通りだった。

 (ひとまず落ち着いたのかな。)

 シエルは胸をなでおろした。

 「はい、先輩。すみませんでした。」

 深々と礼をする。

 「シエル様、今日は薬草園の手入れと神殿の清めですの。付き添ってくださいね。」

 「はい。」

 薬草園へ移動。 

 「ここが薬草園ですか。」

 連れられた場所は一面の畑が広がる場所で、ところどころハーブなどが植わっていた。

 「はい、今日は雑草の抜き取りと、間引きです。」

 大巫女自ら手入れをすることに驚いたが、この神殿では敬意と隷従は違うという事をシエルは体感していた。ユウナは絶大な実力がある。それは事実だから周囲の敬意は絶大なものだった。しかしそれは相手を支配するために使用するものではない。誰に世話をされなくてもユウナは自分の事を自分でできる。ここでは協力がものをいうので、神殿生活に必要なものをそれぞれが協力してきちんとこなすのだ。そして特別な力もまた皆を幸せにするためにふるう。そうやって無駄な争いに労力を使わず、有益な事や余暇に時間を当てられるのだ。

 「私はあまり薬草には詳しくありません。」

 「あら、薬草売りが?」

 「売れるのを採っているだけで、利用できる程の知識が無いのですよ。」

 「ふふふ、後で教えましょうか。」

 「お願いします。」

 嘘ではない。いやしくもナタ家は癒しの魔法を重視しているから薬草学の蓄積はある。しかし膨大な薬草学の知識を前にすれば自分の知識など塵芥だ。神殿の者たちの知識には到底及ばない。それにその知識も殆どが魔法家に伝わってきた閉じた知識なのだ。エルセリア国教会の流儀を勉強して見るのも良い。

 (ウエンディがいたらさぞ喜んだだろうな。)

 風と植物系の魔法と相性が良い幼馴染を思い出して少し胸が痛んだ。ちらりと横を見ると、ディエンは黙々と草を取っていた。こちらには一瞥もくれない。人生始まって以来のモテ期のはずだが、想像していたのとは違いそれは全然愉快なものではなかった。

 畑作業が終わって、神殿の清め、ありていに言えば掃除なのだが、一行は無言でゴシゴシと床をこすった。雑巾を握りしめるユウナもなかなか可愛い。髪が邪魔にならないように布で覆っているし法衣は襷と腰ひもで結わえてあった。

 「おい、早くしろ。」

 見とれていると先輩従者ディエンの蹴りが尻に飛んだ。

 「はい。」

 素直に謝罪する。ディエンはそのまま向こうに行ってしまった。

 そうこうしているうちに神官の一人が近寄ってきた。

 「シエル様、御面会の方がいらっしゃるようです。付いてきてくださいますか。」

 面会?心当たりがない。もしや妹か?妹は北の辺境の農家に嫁いだから、王都には縁が薄いはずだ。

 「どのような人でしょう。」

 「どうも女性らしいのですが、詳しくは私にも…。」

 女性、妹だろうか。シエルはそちらに気をとられて、ユウナとディエンの顔が歪むのに気が付かなかった。

 「ともかく、会ってみます。」

 シエルは小走りで神官の後に続いた。

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