王都の城下町
「うふふ…。」
楽しそうなユウナさん。
かわいいなぁ。
「シエル様、何処に行きましょうか。食事はもういいですわね。ああ、そうそう、そこの路地にワッフル屋があるんですのよ。一緒に参りましょう。」
俺の左腕に両手絡ませて楽しそうな笑顔を作る彼女。
神様ありがとう。
生まれ落ちて300と数十年、彼女はおろか人とも交流がほとんど無かった引き籠もり男にこんな幸せを頂きまして、感謝申し上げます。
「どうしましたの?ワッフルはお嫌い?」
きょとんとした表情のユウナさん。
返事が遅れたからか…
「いえいえ甘い物好きですので問題ありません。是非参りましょう。ユウナさんがどんな物が好きなのかも興味あります。」
とたんに笑顔になった。
カワイー。
「ああ、幸せだな。こんな素敵な人、美人な人と一緒に歩けて。」
「えっ…。」
やべ、引かれた?
「恥ずかしいですわ。」
真っ赤になってる。
あいてる右手で彼女の反対側の肩に触れ、俯いてる彼女に少し顔を近づけてみる。
ユウナさんは再び俯いて両手で顔を覆った。
「…。恥ずかしいですわ…。」
ここで来ると引き籠もりのくせに女たらしとは矛盾があるなんて突っ込みが入りそうだけど、300年も生きていると変な肝の座り方をするようだ。
「えいっ。」
ユウナさんはいきなり体を起こして俺の左腕を引っ張ると笑顔で再び歩き出した。こんなにするっと上手くいっていいのだろうか。一抹の不安がよぎる。
ワッフル店につくと、苺とチョコレートのワッフルを頼んだ。
「美味しいですね。あれ、食べないのですか?」
ユウナさんはワッフルを手にするが、動かない口。
「…。お腹いっぱいで…。」
ああそうか、さっきジンジャーエール飲んだものね。
おそらく違うか…。
全員ではないだろうが妹の話から考えるに、初デートなどでは女性は物が食べられなくなることがあるらしい。
妹も200数十年の間に何人かの男性とつきあったが、そのほぼ全てで初回のデートにものが食べられなくなったようだ。
妹は華奢なのに普段からよく食べるのだ。
それでも初デートでは何も喉を通らなかったらしい。
2、3回目からは通常の食欲に戻ったと聞いている。
後で義弟が、
「初めは小食の人だと思いました。」
と言ってきた。
「そうですか。後で食べましょう。お店の人に包んで貰いますね。」
店の人に追加もして幾つか包んで貰う。
「ありがとうございます。」
俯くユウナさん。
でもユウナさんは大食いでは無いと思う。
こんなにお淑やかだ。
妹とは違うのかもしれない。
妹は特殊な生き物なのだ。
突如降ってわいたような幸せな時間だが、気になるのは自分が魔法使いだってことだ。
いつかは打ち明けなければならない。
黙っているのも心苦しいが、幸せが壊れるのも嫌だ。
告白しても俺のこと好きでいてくれるのかどうか。
人生で最大の幸せと同時に最大の不安。
神様…
「どうしましたの?」
だめだ、考えるのは後にしよう。
「いえ、少し考え事です。」
「そうですの…。さあ、行きましょう。少し行くと噴水の広場ですのよ。行きましょう。」
ぐいぐい引っ張る小女。
随分積極的な人だなぁ。
「もう少しですのよ。」
たしかに先の方に噴水が見える。
やはり王都、町並みが綺麗。
いつも決まったところしか行かないからたまに違うところに行くと新鮮だ。足を伸ばすのも悪くない。
あと少しで広場。
その時、
「ユウナ様っ。」
と、声が響いた。