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異変

 「ユウナ姉ね。」

 「あら、ディエンどうしたの。」

 ユウナが歩くと、すぐ後ろをついていくディエン。だいぶ大きくなった二人。ユウナ5歳、ディエン4歳、ディグレは8歳なのだ。

 「本当に仲良しなのね。」

 母のマルグリットも目を細める。

 「そうだね。」

 傍で様子を眺める夫クリーガー。あの戦争から4年が経ち、クリーガーの心もだいぶ落ち着いてきた。

 「あなた、仕事の方は大丈夫なの?」

 そういわれて、クリーガーは少し憂えた。

 「そうだね、しばらく出張になりそうだよ。」

 マテリア国跡地はこの4年の間にずいぶん整備され、ガルド王国からの移住者でところどころ町ができてきている。監督の業務も分担が進み、クリーガはその一部を担っているだけだ。

 しかし、それよりも重要な問題があった。それはあの戦争の後明らかになったのだが、マテリア国のさらに先に別な国があったのだ。幸いマテリア国のような軍事力の進んだ国ではなく未開な集団ではあったが、原始的で言葉も通じなく国境を越えて争いになる事もしばしばだった。そのため、国境警備が喫緊の課題となっていた。

 (問題の後にまた問題か…)

 そしてその先にはまた別の国があって、また問題がでてくるのだろうか…

 

 「じゃあ、行ってくる。」

 今回の出張は2週間ほど。

 「妹と、お母さんを守るんだぞ。」

 「はあい。」

 クリーガーは8歳になる息子を撫でた。

 「あなた、いってらっしゃい。」

 クリーガーは馬に乗り任地へ旅立った。

 「ユウナ姉ね。」

 「お父さんは仕事よ、すぐ戻ってくるわ。」

 それからユウナとディエンは母マルグリットと冬支度のあれこれに取り掛かった。夏が終わり、秋も深いこの頃。冬に向けて、薪やら、塩漬けやら、家の事がたくさんあるのだ。クリーガーの母も来てくれて手伝ってくれる。ユウナも器用で、家の仕事は直ぐに覚えたのだ。ディエンは小さな手でそれを手伝う。

 「塩漬けは、これでいいかしら。」

 「いいわね。」

 その横で、ディグレは掃除に取り掛かる。皆でやれば、すぐ終わるのだ。

 「今年は風邪がはやりそうね。」

 「気を付けなくてはね。」

 いつもは教会が医療の担い手だが、聖女不在の今、薬草や町医者に頼らざるを得ない。大きな病気はやはり怖いのだ。聖女不在の教会は、能力が劣るも何人かの巫女たちと、古参のエルンスト大司祭の元で何とか機能していた。いつもなら監視を強める王都も流石に聖女の犠牲に敬意を払っているのか、あまり強い干渉はしていないようだった。民衆は民衆で一刻も早い次の聖女の出現が待たれた。

 

 「ディエンとユウナお留守番できる?」

 今日は町に買い出しに行く日だった。マルグリットとクリーガーの父ハルトネキヒは町に行く支度をしていた。

 「はあい。」

 ユウナは返事をした。クリーガーの母ゲドゥルトもいるし、ディグレもいるから大丈夫だろう。

 「お母さん…。」

 「まあ、ディエン、心配かしら。」

 「姉ね。」

 ユウナは、心配そうに見送る妹をそっと引き寄せた。母たちが行ってしまうと、ディエンはユウナに本をせがんだ。ユウナは赤々と燃える暖炉の前で絵本を読んだ。

 「…それで、悪い魔法使いはついに鍋の中で茹でられてしまいました。めでたしめでたし。」

 「わあ、やった、やった。」

 「少し眠くなったわ。ディエンはどうする。」

 「姉ね、一緒に寝て。」

 そこでユウナとディエンはベッドにもぐりこんだ。

 「ねむれ、ねむれ、かわいい、かわいい、かわいい子。」

 いつしか、2人はすやすやと眠ってしまった。

 

 どれくらい時がたったのだろう。

 「姉ね…、ごほ、ごほ、姉ね。」

 服を引っ張られる感覚で目が覚めたユウナ。

 「ディエン、あれ、その咳は?。」

 「苦しいよ、姉ね。」

 「大変っ。」

 大切な妹の顔は赤くなっていて、息が上がっている。

 「おばあちゃん。」

 ユウナは祖母ゲドゥルトを呼びに行った。

 「まあ、風邪かえ?」

 祖母もびっくりして、直ぐに洗面器と薬草を取りに行った。

 「ディエン。」

 ディグレも駆け込んできて、妹の傍によった。

 「ごほん、ごほん、苦しいよ。」

 「ディエン。」

 祖母が一通りの手当をした。薬湯も飲ませた。それ以上は。ユウナも祖母もディグレもただ見ているだけしかできない。しかし、熱は上がる一方だった。たちの悪い熱病にかかったのだろうか。ユウナは妹の手を握ってやる。

 「姉ね…。」

 「ディエン…。」

 苦しむ妹にユウナは涙が出てきた。

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