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残されたもの

 「あなた。」

 「お父さん。」

 あの事件の後、クリーガー将軍は家に引きこもるようになった。欝々とし表情も暗く、家族ともあまり話さなくなった。自ら願い出たため将軍職は解かれたが、腕を失っても聖女を守ったという功績が称えられ軍顧問という名誉職を与えらた。時おり部屋から聞こえる唸るような声。ディグレは心配でたまらなかった。

 「お母さん。」

 デグレは心配そうに母親の傍へ寄る。

 「大丈夫よ。いろいろあったの。きっと。」

 今思えば母も辛かったと思う。それでもなるべくいつも通り家の事をこなしていた。

 「それより、ディグレ、ユウナとディエンの様子見てくれないかしら。」

 「はーい。」

 妹たち。ユウナは2歳ぐらい、ディエンはまだ1歳だ。ベッドの上ですやすや寝ている。かわいい。ディグレは妹達を撫でた。

 

 数年がたちダス家の子供たちも大きくなってきた。

 「ディエン。」

 「ねえね。」

 庭でシートを敷き、そのうえでユウナがディエンをあやしていた。ユウナはディエンといつも一緒にいる。ディエンもユウナといつも一緒にいたがった。

 「ただいま。」

 「お帰り、お父さん。」

 父クリーガーは仕事で王宮に行っていた。軍事訓練と、元マテリア国跡地への開拓に関する仕事だと聞いた。仕事へは行くし普通にも振る舞うのだが、数年たっても父の顔には隠せない憂いが混ざっていた。

 「お父さん、僕ね将軍になりたい。」

 「そうか…、ディグレがなりたいなら…、お父さんは応援するよ。」

 なんか、もっと、こう感動してくれないの?

 沈んだような声。

 まるで、僕が将軍になるのを少なからず非難しているようなトーンだった。家は代々軍人の家系だ。僕がならなくて誰がなる。僕がこの家と妹たちを守ってやるんだ。

 「お父さんおかえりなさい。それから兄さん。」

 ユウナが僕を呼ぶ。

 「なんだ、ユウナ。」

 「一緒に、お菓子食べましょう。」

 やっぱりかわいい、僕の妹。

 「にいに。」

 おうおう、お前もかわいいよディエン。

 

 「ただいま。」

 「お帰り、あなた。」

 家へ入ると、妻が出迎えた。

 「ふう、今日もくたびれた。」

 「大変だったわね。」

 「苦労かけてすまない。」

 「大丈夫よ。」

 「…。あのディグレ、将軍になりたいだなんて言うのだから。」

 「仕方ないわよ。」

 「僕は反対だ。あんな危険な仕事。」

 「反対なのね。」

 「そう。僕はディグレには文官か職人になってほしい。」

 「文官、職人になってほしいのね。私も出来ればそうなれば、危ないことはないと思うけど、あの子がそれで収まるかしら。だって、勉強が嫌いなのよ。」

 「ははは、それはどうしようもないな。僕の血だ。」

 「ただ、お父様がどういうお考えかは気になるわね。」

 「親父か…。」

 しばらく会っていない。

 ふう、先祖、先君、家系、口を開けばそのことばかり。あの頭が固い爺はディグレも将軍にさせたいだろう。

 「お母様は、どう思っているのかしらね。」

 母か…

 頑固爺を持て余して、趣味のガーデニングと友達とのおしゃべりに時間を費やしている。母も一応武人の家系。見合いの時はかっこよかったのに、といつも言っている。

 「まあ、会ってみるよ。」

 「いいかもしれないわね。」

 コポコポ。マルグリットはティーポットを傾けた。

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