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新兵器と惨禍

 「これほどまでとは…。」

 前線での報告を聞いたクリーガーは言った。本営での会議。

 「はい、前線は後退、多数の死傷者が出ているようです。」

 士官が報告し、参謀を初め多数の幕僚も難しい顔をする。

 「しかし、我が軍の力が全く及ばないとは…。」

 側に座る聖女カテリーナをちらりと見る。しかし、彼女は相変わらず無表情だ。

 (そら見たことか、という事だろうな)

 相手は火器を大量に投入していた。報告によれば、わが軍とは違い一発ごとではなく連射が可能だという事。加えて小さくて恐ろしく高性能な爆弾が、投石器のような機械で雨のように降って来たという事だ。

 (煙も出ない火薬…。我が国とは兵器の質が違う。兵器でこれだけの戦果が違うとは…。)

 黒色火薬式の火器を最新式と謳い、弓も併用している旧式の軍隊とは違うのだ。クリーガーは唇をかんだ。

 「参謀、何か案はあるか。」

 参謀のヴァイスは下を向いた。

 「陣形が全く通用していないという事です。現在の戦術全てを導入しても、王都へ進行は時間の問題かと…。」

 聞けば多数の聖力の使い手も負傷。さらに無傷な者も怪我人の治療などで、現場は混乱しているようだ。

 「聖力も通用しないとは…。」

 誰彼ともなくつぶやきが出た。

 「攻撃用の聖力はあまり訓練されておりません。それに、聖力には極度の精神集中がいるので、疲労してくれば、隙も出るでしょう。」

 「その程度なのか、聖力は。」

 負傷した報告の兵士が声を上げる。

 「すみません。私の責任です。」

 カテリーナは辛そうな顔で、静かに頭を下げた。その姿に、全ての兵が静かになった。

 「おい、我ら軍が教会の提案を蹴ったのは、皆の同意のもとだろう。教会を責める資格があるのか。」

 クリーガーは大声で叱った。その言葉に、不満を漏らした兵もバツが悪そうにもぞもぞと動いた。

 「ともかく仲間割れしている場合ではない。次の行動を決めなくては。」

 しかし、誰も返事をしない。分かっているのだ。もう打つ手が残されていない、降伏か全軍討ち死にかである。

 重い沈黙。

 こうしている間にも、前線では多くの命が失われていく。

 「私が出ます。」

 「何?。」

 驚いたことに名乗りを上げたのは、聖女カテリーナ。すっくと立ち、まっすぐと前を見て言った。その雰囲気に、会場は鎮まりかえった。

 「私は攻撃も多く訓練されています。しかし教会では攻撃はふさわしくないと、今の世代に戒めていたのは私です。ですから前線での教会と軍の劣勢には私にも責任があります。ありったけの攻撃の聖力をもって前線に赴こうと思います。」

 「違う、教会から武力を奪ったのは…。」

 「いいのです、将軍。これは定めです。それに前線の信徒を見殺しにしておいて、ここで私一人安穏とはしていられません。」

 彼女の表情はまさしく聖女というものにふさわしかった。

 そう違うのだ。

 教会から武力を奪ったのは、外ならぬ王側なのだ。教会の武力が怖かった王側は、平和と称して、教会の武装化の阻止に目を光らせたのだ。争いが起こっても何にもならないと考え、受け入れたのは外ならぬカテリーナ。彼女がその後始末をやらされようとしているのだ。士官クラスの幕僚はそのことを察して沈黙したが、若い世代の士官とそのほかの兵は背景を分からず歓声を上げた。

 「では、カテリーナ様、お供はどうしましょうか。」

 参謀が遠慮がちに声をかける。

 「私一人で。」

 

 数刻後、馬を撫でる聖女の姿があった。

 「無茶だ。」

 クリーガーは聖女に声をかける。

 「大丈夫ですよ。」

 相変わらず、聖女の装い。

 「僕も行く、リーナ。」

 彼女の手が止まる。

 「だめよ、りー。これは私の戦争なの。あなたは、ここを死守して。」

 聖女の装いが消え、リーナの表情になる。

 「僕の代わりはいくらでもいる。君の代わりはいない。」

 クリーガーの必死の訴えにもかかわらず、彼女は馬を磨き続ける。

 「奥さんと、子供にとって、あなたの変わりはいないわ。」

 静かな口調。後ろを向いているので彼女の表情は分からない。

 「…。それでも君も守ると誓った。君が拒否しても行く。」

 彼女の手が止まる。

 「好きにして。」

 彼女の後姿が震えた。 

 

 結局2頭の馬が前線に向かう事になった。聖女の護衛という事で、将軍の随行も問題なく通った。副将軍に後は任せ、家族への手紙も持たせた。前線に赴く聖女を守る。将軍の立派な仕事だと…。

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