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国教会の聖女

 神聖エルセリア国教会:約2500年くらい前に一人の聖女によって啓かれた宗派。彼女は遠く西方の地に生まれて、幼いときに天啓を受ける。奇跡の業を数々起こすが最後には迫害されて処刑された。のちに彼女と共に過ごした者達が彼女を聖女として教会を建立。教会は何度も迫害を受けたが、今日一大宗教の一つとして数多の信仰を集める。病気治療とともに降魔調伏をモットーとし、悪、魔を討伐することに掛けては一際抜きんでる。

 

 悪、魔、を討伐することに掛けては一際抜きんでる…

 って、おいおい、一寸待って。

 神様あんまりだ。

 この子神聖エルセリア国教会の聖女様じゃんか。

 俺、人畜無害な俺も一応「魔」法使い。

 あいつらは魔と付く物はマカロニだろうがマントヒヒだろうが滅せなければ気が済まない輩。 

 俺が魔法使いなんてバレた暁には灰すら残らないだろう。

 どうしよう、どうしよう…

 「どうしましたの?」

 ああユウナさん。

 この美しい女性があんな野蛮な集団の一味だなんて。

 「やっぱり、幻滅しているのですね…。」

 あ、ユウナさん。

 確かに神官と言うことでショックは受けているけど…

 「恥ずかしいわ。でも仕方無いわね。これ以上恥をかく前にいなくなった方が良いかしら。さようならね。」

 「待って。」

 待て待て、俺。咄嗟にユウナさんの手をとっちゃった。ああ体が勝手に。

 「えっ。」

 そりゃそうだ。いきなり腕を捕まれたんだもん。

 「ユウナさん。私は既にあなたに夢中です。だた、えーっと、そう、驚いただけです。神官様と言うことに。こんなことで幻滅なんてしません。ですからさよならなんてよして下さい。」

 おい口。俺の口。勝手にべらべらと。バレたらあの世生きだぞ早く別れるんだ。

 「ともかく落ち着きましょう。」

 少しは慌てろ、俺。

 「本当に…。」

 ああ目が潤んじゃってる。破壊力抜群。だって、だって、ドストライクの女の子が俺のこと見つめてしかもその目が潤んでるんだもん。引き籠もり300年の男なんてひとたまりも無い。

 「ええ、本当です。」

 「ありがと…。」

 ああ、頬赤くして俯いちゃった。もう駄目後戻りできない。あーあ、短い人生だったな。

 でもでもさ、もしかしてユウナさん個人は魔法使いとかは平気かも知れない。宗教なんて温度差があるし、ユウナさんだって不思議な力を使うじゃんか。

 「えーと、ところでユウナさん。不思議な力をお持ちですね。まるで魔法みたいですね。」

 しれーと探りを入れてみる。

 ギョギョ、とたんにユウナさんの顔が険しくなる。

 「魔法?いいえ違います。あんな穢れた力と一緒にしないで下さい。これは天恵による聖力です。唯一絶対神とその預言者エルセリア様の御力によって為される聖なる力なのです。魔法なんて汚らわしい。許してはならないものですわ。」

 勇ましく演説するユウナさんキリッとして美人だなぁ。って、違う違う。魔法、許してはならないんだって。

 「…では魔法使いは?」

 「勿論討伐の対象ですわ。」

 毅然とする聖女。バレたら○される。

 「ああ、告白させて下さい。私は今まで男性とお付き合いというものをしたことがありません。とても混乱していますわ。私でよければよろしくお願いします。」

 冷静に考えて命が惜しくば断わる一択だろう。 

「ええ、本当ですか。是非私の方からお願いします。」

 はい終了。

 めでたしめでたし。

 手足が完全に冷え切った俺を尻目に、ユウナさんはハゲの方へ歩を進める。そしてハゲの頭に手を置いた。何やら呪文?を唱えている。

 「これで良いですわ。」

 「何をしたんですか?」

 「ええ、記憶を消して新しい記憶を植えたのですわ。」

 記憶?さらっと怖い発言が飛び出る。

 「どうせ痛めつけても逆恨みして襲ってくるわ。こういう男ってどうにかして自分が優位に立とうと僅かな隙も伺うのよ。面倒くさいから記憶ごと無くさせてしまうの。今回は酔っ払って強い男と喧嘩して怪我をしたってことになってるわ。でも次に何かのお弾みで私に手を出したら、その時はこの男の本当の命日になるでしょう。」

 勇ましいやら怖いやら。

 頼もしい彼女が更に呪文?を唱えると店が綺麗に直っていく。

 そして気絶しているハゲを蹴っ飛ばして店の隅に寄せると、再び呪文?を唱えて傷を治していった。

 体の傷は綺麗になったが心の傷は改めてしっかり植え付けられただろう。

 そして仕上げにとクレアさんと俺以外の店の客の記憶まで修正していったようだ。 

 「それではクレアさん、迷惑掛けたわね。あの男はもう少ししたら起きると思うけど、記憶は別になってるわ。これ以上面倒なことにはならないはずよ。これは迷惑料。それではお騒がせでしたね。」

 ユウナさんは唖然としているクレアさんに状況を説明して、数枚の高額紙幣を渡した。

 「さぁ、行きましょう。」

 えっ、ユウナさん?

 「えっ、ええ…。」

 「怖い女かしら…。」

 ああ、悲しそうな顔。

 「そんな、立て続けで、少々驚いているだけです。ああ、はい、行きましょう。」

 「良かった。」

 安心したような嬉しそうな顔。ダメ。笑顔。兵器だよ。

 「さぁ。シエル様。」

 チリンチリンと店の外に出る。

 何処へ行くのやら。

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