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申し込まれた決闘

 「おはようございます。」

 シエルは王立闘技場の門をくぐると、挨拶をした。中にはすでに王の護衛ディグレがいた。護衛としては経験が長いであろうディグレを立てて、こちらが先に挨拶をする。

 「おはようございます。シエルさん。この度は無理なお願いを受けて頂いて、ありがとうございます。」

 直立の姿勢から礼をする王の護衛。ふむ、礼儀正しい。しかも姿勢も良い。流石、王の護衛で品もある。

 「いいえ、こちらこそ、ご指導頂ければと思います。」

 シエルも礼をして無難に返す。

 「さて、シエルさん。こちら模造刀になります。ご検分お願いします。」

 ディグレが差し出した模造刀は木で出来ていて、握り10㎝刃渡り20㎝くらいあった。

 「はい、大丈夫です。」

 シエルの獲物とは少し違ったが、別に困る形状でもなさそうだった。

 「では、試合はどうしましょう。手合わせか、実戦か、シエルさんは何かご提案ありますか。」

 うーむ、どうしよう。

 実際、投げつける以外では短刀は接近戦に使う。接近戦とは相手を即殺傷する事が肝要になる。間合いに入るや、相手を一撃で仕留めなければならない。その間合いに入るまでに、長物で攻防したり戦闘の流れで間合いに入り即撃する。相手の間合いに入ればそこは死の領域、一瞬を逃せば自分が死ぬのだ。よーいドンで、相手が短刀を振るうと分かっていて、間合いを詰めていくというのは実際相当切羽詰まった状況なのだ。

 手合わせも良いが、それはあくまで練習であり定石を確認するだけ。ディグレは恐らく勝負がしたいだろう。悪いが、ここは一気に方を付けさせて貰おう。

 「私は実戦を希望します。」

 相手も武術家。こちらの立ち振る舞いを見て、侮れないと感じたのだろう。この言葉は挑発ではなく静かな自信と受け取ったようだ。

 「おお、シエルさん、久しぶりにわくわくしてきました。では、是非、実戦で。しかしルールはどうしましょう。」

 武術家としての性なのか、恋敵へのマウンティングの気持ちよりも好敵手との実戦への興味が勝ったらしい。顔が輝いている。しかしライバル心もあるから、恐らくこちらに負けたくも無いだろう。

 「ルールは、そうですね、やはり致命傷は不味いと思います。相手に怪我させないように。目はとにかくダメで、刃物が中程度に触れた時点で、終わりというのは。」

 実際刃が当たり、少し押し込まれた時点で相手は致命傷を負うのだ。

 「分かりました、そうしましょう。」

 恐らく勝負は一瞬。数秒もかからない。悪いが全力で行く。両者、模造刀2丁を持ち、闘技場の真ん中に進む。小さな時計が離れた台に置かれていて、歯車仕掛けで鐘が鳴るのだ。鐘が鳴ったら試合開始。

 早朝、ディグレと、シエル以外は居ない。

 コクコクコク…

 歯車の回る音がやけに長く感じる。

 コクコクコク…

 コク…チン。

 バシュッ。

 刹那、シエルの模造刀が、ディグレの両手、同時に、頸に当てられる。

 この時点で即死だろう。

 相手には何が起こったのか恐らく分かるまい。

 数秒もかからない。

 「…。」

 何も言えないディグレ。

 ゆっくりと刀を引くシエル。

 殺し合いとはこのように無益なものなのだ。

 どちらかが死ぬ。

 全く生産性が無い。

 シエルは漠然と考えていた。

 「すみません。ではこれで、終わりにしますか。」

と、シエルは静かに答える。

 「…。」

 圧倒的な力の差を見せつけらた相手はぴくりとも動けない。

 「…。ディグレ様。私は、争いは好きではありません。でも、どうしてもと言うときのためにこの力を振るいます。しかし、私で何かディグレ様へご披露できるものがあればさせていただきたく思います。」

と、謙虚に礼をするシエル。

 「…。はっきりと私は死を感じました。シエル様、これから何度やっても私は貴方に殺されるでしょう。お願いです。私も強くなりたいのです。どうかご指導下さい。」

と、崩れ落ちるように膝をついて懇願する王の護衛。

 ふとその瞳に、武術家の性だけでは無い感情が浮かぶ。

 危険だ…。

 シエルは思った。

 何か死に急いでいる。

 「それは構いませんが、何か強くなりたい理由があるのですか?」

 シエルは核心を確かめる。

 「…。それは…。」

 「…。」

 「じ、実は…。」

 王の護衛の口から語られたのは、シエルの予想を超えるものだった。

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