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王様の護衛

 「ユウナ様、今日は国王訪問の日にございます。」

 従者の一人がスケジュールを読み上げる。

 「ああ、そうね。今日だったわ。」

 ユウナは呟いた。国王、このガルド王国の国王、フォース=ガルドⅡ世。その国王が、ガルド国首都ミツドに鎮座する神聖エルセリア大聖堂に礼拝に来るのだ。国王は教会より権威を授かるという建前上、国王より教会の方が偉いと言うことには一応なっている。

 「国王が…。」

 まあ魔法使いの俺にとっては、人間の国王などどうでも良い存在だ。

 「従者シエルも同行するようにとのこと。粗相の無いようにね。」

 スケジュール管理の秘書従者が述べる。

 「はい。」

 まあそつなくやろう。

 「ではシエル様、まず早朝の祈りの時間ですわ。聖堂にご一緒下さい。」

 ユウナがシエル様と呼んだ途端秘書を初め数人の従者は顔をしかめたが、彼女らは何も言わなかった。場違いな尊称に不満はあるが、主の言動をそう易々とは咎められないようだった。シエルも敢えて止めなかった。彼女の気の済むようにさせる。ただしその分、周囲に気を遣って細々とした仕事も他人の倍は働くようにする。そうすれば無用な軋轢も生まれないだろう。

 朝の祈り、朝食、書類の整理、信者への祈祷、告解、接見、仕事は続いた。一週間ほど経っているので、仕事も体も慣れた。昼食を取りながら先輩であるディエンと、国王訪問の手順について確認する。

 「…それで、袖廊下から出て、側廊を通り、内陣へ。私がユウナ様の左に控えてその隣にお前…シエルが立つ。右には侍従長。王が来たら、私たちはそのまま立つ。王が跪拝礼をする。私たちはそのまま。ユウナ様が祝福の祈祷をされる時に、ユウナ様に向かって私たちは跪いて頭を垂れる。祈祷が終われば、従者だけが立ち上がって、一歩アプス方向に下がる。王が立ち上がって、席に戻ったときに、ユウナ様がもアプス側に下がり、席に着く。私たちは側で控える。祈りと聖歌と進んで、国王とその従者の退出。私たちも来たとおりに戻り、そこで儀式は終了だ。後は、身廊でテーブルと椅子が用意されるので、あとは王との交流会。このときは互いに会釈、礼などをする。」

 成程、儀式中は教会があくまで先導側、終われば普通に接するのね。

 「分かったか?」

 「はい、ディエン先輩。」

 殊勝に頷く。

 「ばかっ。」

 目を合わせただけなのに、何故か罵倒される。先輩おかっぱ従者は、顔が赤くなり、髪を撫でている。頭がかゆいのか? まあ色々あるのだろう。

 「シエル様、こちらに来て下さい。」

 ユウナが呼ぶ。

 「はい、ユウナ様。」

 シエルは跳んでいった。残されたディエンは、その後ろ姿を眺めていた。

 「何でしょうか。」

 「ええ…そうそう、国王との座談会には、是非ご一緒下さい。シエル様にもよい機会となりますわ。」

 「そうですね、是非ご一緒させて下さい。」

 「…。」

 「どうしました?」

 「えっ?あ、ああ、そうです…。本当に自分が醜く思います…。」

 「醜い?」

 「…。」

 俯くユウナさん。何かあったのか?。そうこうしている間に昼食もお終わって、いよいよ国王陛下のお出ましの時間となった。

 「粗相のないようにね。」

 侍従長の厳しそうな女性がシエルに声を掛ける。

 「はい、気を付けます。」

 まあ大丈夫だろう。ユウナさんとディエン、その他従者達は慣れたものだ。平然としている。

 いよいよ移動、既に国王一行は内陣手前の中央部で跪いているとのこと。教会一行はユウナ様を先頭にしずしず移動する。彼女が内陣に入ると既に控えていたアダマ司祭が内陣中央に誘う。お付きの大半は内陣の端の方へ下がり、ディエンと俺だけが側に付くような格好になった。

 「ガルド国王、フォース=ガルドⅡ世、御健壮か。」

 ユウナが燐とした声で訊ねる。いつもと違う雰囲気。

 「はい、ユウナ様、アダマ司祭、エルセリア教会の皆様もご健康とのこと、国を預かる身として安堵申し上げます。」

 ひょえー、国王の平服ぶり。普段彼女に気安く触れているけど、実は大変なことをしているのだ。今更ながら身が縮む。

 「民、国、今後も宜しく頼む。」

 「はい。」

 跪きながら深く頭を垂れる国王。そして国王は低い姿勢のまま後ろに下がり、立ち上がって、席に戻った。 

 「それでは、ユウナ様こちらへ。」

 国王が席に着くのを見計らって、アダマ司祭がユウナを席に誘う。

 「では祈祷でございます。」

 ユウナが席に着いた後、アダマ司祭の指揮で祈祷、次いで聖歌と進んだ。聖歌隊は少年少女達、歌声も素晴らしかった。シエルが大がかりだと驚いている最中、ユウナとディエンはすっとした姿勢でいた。ふう、やはり彼女らは凄い。改めて思った。

 一通り式は終わり聖女退出、俺も一緒に倣う。

 「ふう、疲れた、緊張してしまいました。」

 俺は侍従長に言った。

 「ええ、私もいつも緊張します。形式的にはこちらが上と言っておりますが、実質には国王の財に頼っていますし、あちらはこちらを潰そうと思えば潰せるほどの力をお持ちですからね。」

 「こら滅多なことを。」

 アダマ司祭が窘める。

 「すみません。」 

 「しかし、まあ、それもそうだな。確かに。しかし、実際事を構えると言うなら話は違うと思うぞ。恐らく、教会全体で戦えば国王軍などあっという間に壊滅するだろう。」

 続けて発言したアダマ司祭。この聖職者、少々物騒だ。

 「ディエン先輩は緊張しないのですか?」

 身なりを整えている先輩従者に訊ねる。

 「ばか。緊張するに決まっているだろう。」

 「?」

 「その緊張を悟られないようにするのが従者だ。」

 ふへー、年下ながら本当に頭が下がる。

 「話がすんだら、とっととあっちへ行け。」

 髪の毛を撫でながら、罵倒するおかっぱ。へいへい、早々に退散する。

 そして、国王を交えた交流会。身廊部は綺麗に片付けられ、大きな長テーブルと椅子が並べられていた。それぞれ決められた椅子に座る。

 アプス側に向かって長く伸びたテーブル、右手側にユウナ、司祭、協会関係者、左手側に国王関係者が座る。

 但し護衛だけは主人の側に立って控える。当然だろう。

 テーブルにお茶と軽食が並べられる。ここからは基本自由な座談会、別に敬称は自由で良いらしい。ただし余りに無礼な態度がいけないのは俺でも分かる。自然に、そして敬意を以て。

 「ユウナ様、こちらが我が長男、そしてその妻、孫にございます。」

 国王は王子夫妻とその子を紹介する。 

 「こんにちはユウナ様。」

 第一王子が挨拶し、その妻も倣う。

 「こんにちは。」

 お孫さん達も可愛らしく挨拶する。女の子と男の子、一人ずつ、姉弟だろう。

 「こんにちは、前にあったときよりも大きくなりましたね。」

 優雅に話しかけるユウナ様。良いお姉さんのよう。

 「はい。」

 嬉しそうに頷く姉弟。可愛い。

 「ゆうなさま。」

 男の子の方が話しかける。

 「なんですか。」

 笑顔で答える聖女。

 「ぼく、ぼくね、おおきくなったらゆうなさまとけっこんしたいです。」

 いきなりのライバル宣言。

 「まあ、それは嬉しいわ。りっぱな男性になってね。」

 さらっと返す大人な女性。

 「はい、ぼく、りっぱになります。」

 嬉しそうにする国王の孫。

 「ずるい、ユウナ様は私のお姉さんになるのよ。」

 その姉が直ぐさま咎めるように言う。お姉さんは無理でも妹にはなれるだろう。しかし国王孫の姉弟で取り合いとは、ライバルが増えるな。

 「確かに、今からでも許嫁にして欲しいぐらいです。これだけお美しい方ですから。」

 「貴方。」

 「いてて。」

 王子の思いつきをその妻が窘める。その窘めには色々な意味が込められているだろう。

 「まあ、許嫁なんて。」

 笑って流すユウナ様。承諾だけはしないで欲しい。

 国王の王子達、王妃達が連なるが、とりわけ独身の王子達はちらっちらっと、ユウナを見ている。

 ライバルか。

 その中でも特に熱い視線が意外にも真っ正面から突き刺さる。その主は国王ではなくて、その後ろに控えている男。多分、護衛だろう。時折こちらを睨むように見る。まあ護衛だからか。筋肉質でほっそりした体型。長い黒髪は艶々していて束ねられ腰まで伸びている。そして褐色の肌にくっきりした目。どこかで見たような…。シエルは首をかしげた。

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