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魔法使いとその歴史

 「シエル君。実はね、私も魔法使いの家系なんだ。」

 えー。

 驚愕の発言。言葉が出ない。

 「な、な、ぼ、くが魔、法使いってことも、で、は、ご存じなの、ですか。」

 思わず司祭の顔を眺めたが、まるで真意が読めなかった。

 「まあ、まあ、驚くのも無理ない。君は、恐らくナタ家の者だよね。私は、ベル家の者なのだ。ただ、あくまで私はエルセリア国教会の司祭なのだ。それは変わらない。まあ、魔法使いに対する扱いには教会内にも温度差がある。しかも私の家はとおに廃れた家だ。私自身魔力は全くない。その代わり、司祭としての任を果す能力と僅かばかりの聖力に与っている。」

 「ベル家?」

 記憶を辿る。確か、遙か昔この地には5大魔法家があった。そこから色々分岐しているが、その源流の一つだ。

 「ああ、とっくに消滅した家の一つだよ。ただし、じいさん連中は未練があるのか家の歴史だけは保存して、子供の時から聞かされていたよ。君は魔法使いの歴史を知っているかね?」

 実は余り知らない。それぞれの家は伝統的に即座に目に見える魔法魔術の継承はしっかり出来るが、目に見えない書物の記載歴史については曖昧・相違する記述が多い。

 「過去の事は詳しく知りようが無いが、我が家に伝わる歴史はこうだ。」

 司祭は語り出した。

 その昔、魔法が高度に発達した時代があった。初めは皆で物や技術を共有して生活の向上を目指していたが、やがてその中で魔法の頭角を現した家が支配者を名乗るようになった。そして魔法の研究はやがて5大元素の魔法に集約され、その5大魔法の力を高度に発達させた家が出現し、グループを作り支配の一翼を担うようになった。

 それから時代が降り支配者の栄光盛衰が繰り広げられ、ついに五大魔法家とその家による支配体制が完成した。その時の五大魔法家が今問題にしている家の源流なのだ。ウエンディは風の家の傍流、トーラは火の家の傍流だ。ただし本家がほぼ途絶えているので、それぞれ本家に近い実力を持っている。ナタ家は水の本家だと聞いている。

 そしてその5家は人間の性に漏れず、支配に行き過ぎがでたのである。魔法の実力によって階級を付け、魔法を上手く使えない者への差別と冷遇を行ったのである。末期には奴隷のようにあつかったらしい。

 それに反旗を翻したのが、聖女エルセリア。彼女は強権的魔法家を糾弾し、新しい力、万人の内に秘められ神にも通じる聖力を以て世を正そうとしたのだ。魔法は長年の研究とトレーニングによって使用できるのに対し、聖力は比較的すぐに使用できて、更に始原の力を共有することによって数人が協力して大きな力を発揮できるのも特徴的だった。

 その聖力を以て苛烈な闘いの末に、魔法の体制は崩壊。皆が平等になるかと思われた。しかし魔法使いの虐逆の恨みを忘れられない人達が、魔法使いも平等にと語るエルセリアを謀反人として処刑してしまったのだ。その処刑には賛否が起こり、大きな争いとなった。

 その隙を突いて魔法使いが再び勢力を盛り返し、恨みと復讐の血で血を洗う万人の闘争が起きた。争いを嫌い森や谷に逃げ結界を施した一部の魔法使い達が、ウエンディ、トーラ、シエルと他の幾つかの家の先祖。

 その間に外の世界では教会が勝利を収め、魔法使いという殺人鬼は悉く迫害を受けることになった。魔法使いの幾つは地下に潜り、その力をそれぞれ個々に継承して教会連中に対する復讐と魔法使いによる支配の確立を目論んでいる。

 以上が司祭の語る歴史。

 「エルセリア国教会の歴史書にも欠落が多い。横暴な魔法使いと闘って、一時は勝利を収め、その隔たりの無い愛を説いたが、魔法使いが一部の人々を唆し処刑したとある。要するに魔法使いは何処までもずるがしこい、エルセリア様の慈悲も理解出来ない裏切り者だというように伝わっているのだ。だから教会では魔法は禁忌として扱われる。我が家の歴史書も完全では無いが、大きな相違がある。」

 歴史とは非情に難しいものだ。ナタ家では、昔の魔法国家の存在と内乱から逃げてきたとだけ伝わっている。まあ、それは置いておいて、目下重要なのは地下に潜った積年の恨みと宿願を果さんとする魔法使いの暗殺グループ、魔法を蛇蝎の如く忌み嫌う国教会、そして極力関わり合いを避ける幾つかの魔法家が何重にも絡み合っているということだ。

 「魔法使いの暗殺集団に対抗するためは、魔法の知識も必要なのだ。しかし教会は認めない。」

 司祭が困り顔で話す。成程、それで僕の力を貸してくれという訳か。

 「しかし司祭様、あなたは魔法使いについてはどのようにお考えでしょうか。」

 司祭も忌み嫌っているのであれば、良くない結果になるかも知れない。

 「私?私は、私の家に伝わるエルセリア様が本当のお姿だと思っている。魔法使いとそうで無い人達。皆、力に狂った人達だ。しかし、皆元は人間。魔法使いだろうがそうで無かろうが、国教会だろうがそうでなかろうが、やはり皆が共に生きていけたらと願うのだよ。」

 「司祭様…。」

 シエルは顎を扱くごつごつした困り顔の大男を、改めて見つめた。

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